わずかばかりの意地なんて貴方の前では無意味。
　一歩部屋に入って二人きりになってしまえば、貴方は部下の仮面を剥いで僕に迫る。
　僕はそれを拒まない。
　闘いで高揚した精神は貴方に鎮められるのを待っているから。
　外で見せていた意地なんて、あっというまに溶けてしまう。
　今日も貴方のキスが欲しい。

KT

…を、して？
　耳元に囁かれた声で意識がゆっくりと浮上する。
　至近距離で覗き込んだ翡翠はどこか潤んでいて、俺はゆっくりと手を伸ばした。
　さすがに飲みすぎた、と思う。俺もあいつも。
　ソファで潰れた俺の上のあいつの頬も上気してて。
　酔うなんて珍しいな、と思いながら言われた通りにキスを、した。

58

んっ…。
　唇を噛み締めてもなお漏れる声にもっともっととねだられているんだと感じた。
　アイシテル。
　言葉に出来ない思いを聞いた。
　声をだなさいのがお前のプライドなら、声を出させるのは俺の意地。
　言ってよ、アイシテルって。
　そしたらもっとアイシテやるから。

58

らくてんてき。
　なんとかなるんじゃないですか？
　なんとかなんじゃねぇの？
　なんとかなるだろ？
　なんとかなんだろ？　

　誰かしら言ってんじゃねぇ？
　けど、誰の言葉も自信があっから。信念があっから。
　これってさ、一番大事じゃね？

5目線一行

りんき、ってなんだ？　
　本当にわかってない顔の貴方に思わずため息が出る。
　彼の機嫌が悪いのは貴方のせい。
　字を書いて見せる。「悋気」と。
　なんであいつが妬くわけ？
　さらにわかってない顔の貴方。
　昨夜、宿に戻らなかったから。
　今朝、香水の匂いをさせて戻ったから。
　わかってないんですか、本当に？

3→5＆8

るり色の、空。夜明け間近。
　お互いに預けた背中の心地好い重さ。
　気になるのは…血の匂い。
　俺のなのか、背中のこいつのなのか。
　それでも規則正しい呼吸が聞こえる間は大丈夫。
　明るくなれば仲間が来てくれる。
　それまでは…もう少しこの重さを感じていよう。
　滅多にない二人だけの時間。

KT

れんあい初心者。
　そう言って笑う紅い頭を叩く。
　仕方ねぇだろうが。そんなことを考える余裕なんざ今までなかった。
　この感情が、ヤツの言う恋愛感情なのか俺自身にもわからねぇ。
　ただ、翡翠の瞳が笑うと嬉しくて苦しい。
　なんで奴は俺のこういうことに敏感なんだ？
　なんで奴は寂しそうな顔してんだ？

8←3←5

ろまん、ねぇ…。
　別にそんなの望んじゃいねぇ。いつやめたっていいんだ。
　旅は男の浪漫だ、なんざ言う気はねぇよ…。
　たださ、暇だったから。いいんじゃねぇかな、って。
　ただの暇つぶしってやつ？
　ん？
　ああ、別にいいんだぜ。あんたがここで俺を引き止めるってんなら。
　ここであんたと住んだって。

5と行きずりの女

やべぇよ。
　貴方は言うけど。敵に囲まれても、綺麗な女性を見ても言うから。
　僕を見て言う時は、どっちの意味なんです？
と、聞いてみたくなる。
　上気した顔に。両方の意味なんですね。
　性欲を掻き立てられて、いい意味でのそれと、男同士だとわかってるから、まずい、という意味。
　前者だけでいいんですよ？

85

ゆめで逢えたら。
　この気持ちに素直になれる。
　なのに、貴方は一向に出て来てくれなくて。
　今日も寝不足のままハンドルを握る。
おい、どうした。
　隣の貴方が少し心配そうに声をかけてくれる。
　優しくしないでください。
　そうやって優しさの断片を見せてくれるから、期待しちゃうんです。
　ねぇ、夢に出て来て？

8→3

よし！
　自分を奮い立たせる為に掛け声をかけて袖を捲る。
　外は雨が降っている。
　あの人は帰ってこない。
　こうやって僕が頑張れば頑張るほどあの人が居づらくなるのはわかってるけど。
　それでも。
　帰ってきた家に食事が用意されていれば。
　帰る場所だと思ってもらえれば。
　暖かい家をあの人に教えてあげたくて。

8＆5

まぁ嫌いじゃねぇ。
　俺のこと好き？
って聞いたら、そう答えられた。
　それだけで俺は嬉しくなるんだ。
　頭に乗せられた手の温かさと笑う瞳に。
　うん、俺も大好きだよ。

9＆3

みついろの瞳にすべてを持っていかれるのじゃないか、と思った。
　まっすぐ見つめるその色に。俺を映すその瞳に。
　手を差し出さずにはいられなかった。
　魅せられたのは、俺。
　声が煩かったから、なんていうのは、ただの言い訳。
　新しい出会いに。怯える自分を奮い立たせ、新しい一歩を。
　その瞳に誘われて。

39

むいみに伸ばした手が何かを掴むことはなかった。
　何を望んで伸ばしたのか、自分でもわからなかったから。
　それでも、また、手を伸ばす。
　いつか掴むものがあることを願って。
　温もりが欲しいんだ…太陽の温もりが。
　なぁ、誰か…俺の声を聞いて？
　この手を掴んで？
　ここから…出して？

9

めが笑ってねぇ、っての。
　綺麗な笑顔貼り付けてさ。
　話かける声に優しそうにしてっけど。
　俺の方を向くときだけ、目が笑ってねぇぞ？
　俺、なんかした？
　最近は空き缶灰皿にしてねぇし、単独行動も控えてんだろ？
　あ…アレか…。
　昨日の晩、久々の宿だったのに先に潰れて寝ちまったこと、怒ってんの？

58

もっと、とねだる。
　まだ、足りない。
　抱き締められても、キスをされても、まだ足りないんです。
　一緒に夜の闇に溶けてしまっても…。
　まだ、ぜんぜん足りない。
　貴方が言えない言葉を、ねだる。
　それを言もわないのは貴方の優しさだと知っているのに。
　言葉で、縛って欲しい。
　僕は、貪欲なんです。

58

はったりなんざお手の物。
　誤魔化しだって簡単なんだぜ？
　お前が俺を好きだって言うなら、本心暴いてみろよ？
　俺の心を言い当てたなら、つきあってやらねぇこともねぇ。
　なんて強がりしか出てこねぇ。
　ホントは俺も望んでるのに。
　あいつがあんまり自信なさげだから。
　つい、苛めたくなる、これが本心。

5と誰か

ひまわりみてぇに。太陽を追うように。
　お前は俺を追いかける。
　俺がいないと始まらない、とでも言いたげに、いつも俺を見てる。
　その視線は…痛い。
　お前は強い。
　お前は俺に守られていたと言うが、俺はお前を守るほど強くはねぇ。
　太陽はお前だ。
　俺は、お前を見ている、お前に守られている。知っていたか？

3＆9

ふんわりと流れる雲。高い空はすっかり秋の気配で。
　ジープを木陰に停めて休憩する。思い思いに過ごす。
　僕は二つのカップを持って貴方の傍に。
　木に凭れて座り込んだ貴方の視線はどこか遠くを見ていて。
　指先から流れる煙草の煙りが、どこか空の雲のようにふんわりしていた。
　ねぇ、僕を、見て？

8と5or3

へんたい！　
　思わず漏れたらしいその言葉に、俺の加虐心が煽られる。
　仕方ねぇだろ？　お前のその声、その表情が、すべて愛おしいんだから。
　いやじゃねぇだろ？　もっと愛してやっからさ。
　耳元で囁いて。
　いくつもいくつも噛み跡をつけた。

58or53

ほしいモノ。
　煙草、酒、金、女。
　器用さに頭の良さ。
　一人の時間。
　愛する心。
　愛される満足感。
　お前が俺を呼ぶ声。
　お前の手の温もりお前の唇。
　お前の身体。
　お前のすべて。
　二人の時間と思い出。

5