貴方との出会いが「最遊記」との出会いでした。

　レンタルのビデオショップで見かけた、線の細い、モノクルの青年が貴方でした。

　作品を知らず、友人にこんな自分の趣味にぴったりの人がいた、と報告して、初めて、貴方の名前を知り、作品を知りました。
　猪八戒、という名前を聞いた時には、西田敏行さんとか左とん平さんしか浮かばず、暫くの間、貴方の名前を「猪八戒」だと認識することはできませんでしたが。

　読んでごらん、と勧められるままに手に取った漫画の中にいた貴方にさらに夢中になりました。

　初恋だ、などとは言いません。
　けれど、私の中で、貴方は大きな存在になりました。

　貴方がたくさんの出逢いをくれました。
　たくさんの友人と引き合わせてくれました。

　本当にありがとう。

　気がつけば、貴方が一番ではなくなっていたけれど、変わらず、好きです。












「おい、八戒」
「なぁ、八戒？」
「はぁっかい～」
「キュピー！」

「どうしました、みなさん？　今日もいい天気ですねぇ…。気持ち良くドライブできそうですよ。出発しましょうか」

　猪八戒、さん？
　どなたでしょう？

　ああ…悟能くん…。

　頭の良い子、でしたねぇ。
　けれど、誰とも交わろうとせず、笑顔を見せることも無い子でした。

　頭は良かったですけど、賢くは、ない。そんな感じの子でしたね。
　ほら、勉強は出来ても社会に馴染む術を持っていない、というか。そんな感じの子で。

　どうなってしまうんだろう、と心配でした。
　頭の良さで早々に大学進学までしてしまい、私たちの手から巣立ってしまって…。
　今は…どこでどうしているんでしょうか…。

　出て行ってから一度、手紙をもらいましたよ。
　愛する女性を見つけました、その女性と一緒に暮らしています。と。
　けれど、その後は…なんの音沙汰もなく…。
　何があったんでしょうか…。



　あれ…あの方…もしかして…悟能くん？

　ああ…やっぱりそうだわ。

　充実した顔、ですね、どこか幸せそうで…。
　どうやら、愛した女性と一緒ではないみたいですけど…。

　それでも…安心しました。
　元気で生きてるんですね…。


　え？
　ああ、声はかけませんよ。
　また、彼から…お手紙が届くのを楽しみにしてることにしますよ。

　身体を繋げる。
　それだけが、愛情を確認する術ではないけれど。
　お互いの熱が溶けるその感覚が気持ちいい。

　食べたい、唐突に思った。
　僕の身体の下で喘ぐ紅が。全身がその色に染まるのを見たい、と。

　突然「いいぜ」と言われた。
　見せ付けるように、首筋を僕に晒して、微笑んで。
　繋がるだけで心まで読むのか、この人は。

　けれど、食らいつけるわけもなく、代わりに紅い華を散々に散らした。
　思いのすべてを刻みつけるように。

　熱のすべてを、吐き出す時も、間近、だ。

　果てて疲れたようにベッドから頭だけ落として首筋を見せる貴方。
　そこに咬みつきたい。コトが終わっても、僕が彼に抱いた食欲は失われないようだ。
　自分でも抑えられない衝動に思わず歯を立てると貴方は小さく身動ぎした。

　散らした華をなぞるように優しく何度も噛み付くと、呟くように「月が」と言った。

　貴方と同じ景色が見たくて隣で同じ体勢を取る。　
　逆さになった世界の窓から。大きくて紅い月が…空に沈んでいた。

　その紅い光に染まって、貴方の身体も紅く見える。

　僕は…それに満足して、もう一度貴方の身体を抱き締めた。

　逆さになった世界の中で、僕は貴方と地に昇る。

　大罪人、猪八戒。

　玄奘三蔵が監督責任を申し出た青年。

　最初は不安もあったが、正解だったようだ。

　引き寄せられるように集まったあの四人。

　集まるべくして集まったのか。

　我らは５００年前の出来事は伝聞でしか知らぬが、記憶のないはずの彼らが揃ったことには意味があるのだろう。

　これから、どうなるだろうか？

　神なる我らの身を持ってしてもわからぬ。

　だが…彼らは成し遂げてくれるだろう。

　そのための…５００年前の出来事であったのだろうから。

　お互いに支えあいながら、進むのだろう。

　我々は…それを見守ることしか、出来ぬ。

　八戒さん？

　あ～…イイ男だったねぇ、うちの亭主と違って。
　なんて～の？　洗練されてるっていうか、ねぇ。

　なぁんであんな街のダニみたいのと一緒にいたんだか。
　まぁ、なんか縁があった、ってことなんだろうけど。
　その割にはなんかぎこちなかったけどね、あの二人。


　そういえば…。
　最近、見ないねぇ…あの二人。