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くれないづきの見る夢は 紅い涙を流すこと 透明な血を流すこと 孤独にのまれず生きること
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7

「あ~、ちょっと動かないでもらえませんか?」

 ぼんやりとソファに座っていた俺が顔を上げると急にそう言われて仕方なく元の体勢に戻る。

「八戒、お前、何してるわけ?」
「貴方をね、描いているんですよ。下書きの間だけ、もう少しですから」

 何が面白くて俺なんか描くんだか。そう思いつつ、言われるままにじっとしている。

「ぶぇっくしっ!」
「だから動かないで、って…」

 仕方ねぇだろうが、くしゃみなんだから。

「寒ぃ…」

 じっとしてて身体が冷えたみてぇで、もう一度くしゃみが出た。

「仕方ないですねぇ…」

 諦めたように笑うと八戒が毛布を持って来てくれる。
 その手を俺は捕まえた。冷え切った指先に八戒の温もりが移る。

「あったけぇ…」

 そのままその身体を抱き寄せた。絵なんかより、俺の方がいいだろ?



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6

 少し硬い椅子に身体を預け頭上を見上げると、星空が広がっていた。どこかから落ち着いたBGMが流れている。
 隣のヒトの手を暗闇に紛れて握る。が、それを握り返してくれることはなかった。
 そっとその顔を覗き込む。鼻につくのはアルコールの匂い。酔って眠ってしまったようだ。

「仕方ないヒトですねぇ…。お仕置きですよ?」

 そっと囁くが起きる気配はない。
 徐々に空が明るくなり、やがてそこは真っ白な球状ドームの半円の中だった。
 隣のヒトの肩を揺すって起こす。
 寝惚けまなこのその人を引っ張ってそこを出ると、真昼の街の中。

 眩しそうに目を細め「頭、痛ぇ…」と顔を顰めるそのヒトへのお仕置きは、酔った頭に降り注ぐ暖かくて眩しいこの太陽の光で勘弁してあげることにしよう。




 こめかみに銃口を押し当てる。
 身を守るため、いや、いつでも自分を終わらせることが出来る、そのために手にした銃の重みを、今は大して感じない。
 あのころに比べると楽にこうしていられる。
 今ならあの頃のように躊躇なく、指が震える事もなく、この銃爪を引けそうだ、とふと思った。

 この寺に来て5年。聖天経文の情報はない。三仏神の雑用を押し付けられる毎日に飽き飽きしていた。
 進展のないこの情況にイライラする。ぬるま湯に浸かったかのようなこの情況に…ふと、自分がなんなのかさえわからなくなることがある。
 このまま銃爪を引くか…。
 悟空は悲しんでくれるだろうが、他の連中は清々した、と思うだろう。
 目を閉じ、ゆっくりと指に力を込める。

 急に張り飛ばされた。
 目を開けると燃える様な赤い色が視界を覆っていた。

「てめぇ、何しやがる!」

 そいつを押し退け立ち上がる。まっすぐに見つめる紅い瞳が痛くて視線を逸らした。

「それはこっちの台詞だ! あんた、何しようとしてた?」

 まっすぐな感情を思いきりぶつけられた。怒りに燃える瞳がまっすぐ見ているのを感じる。

「俺の命だ。俺がそれをどうしようと勝手だろうが…」

 そいつの顔も見ずに俺は手に握ったままの銃を見つめる。

「ふざけんなっ!」

 頬が熱くなる。それから、ぱんっ、と乾いた音がして叩かれたのだと知った。

「てめぇは…死にたいと思ったことはねぇ、のか…?」

 らしくない、と思う。が、気付いたらそう聞いていた。

「……………ある…」

 辛うじて聞き取れるほどの声で、目線を落として答える。けどっ! 落とした視線を上げて声を大きくして、そいつはしっかりと俺を見た。

「俺の命は助けられた命だから! 俺の両親は心中の時、俺を道連れにしなかった! あのヒトは野垂れ死にしてもおかしくなかった俺を育ててくれたからっ! 殺されそうだった俺を、兄貴は殺人者になってまでも救ってくれたから! だから、俺は死なねぇ!」

 荒ぶった声でそれだけ言うとそいつは、ふっ、と息を吐き出し、寂しげに俺を見た。

「…あんただって、そうじゃ、ねぇのか?」

 ふい、と視線を逸らし、そいつは俺に背を向ける。

 そう、だ。俺は救われた。俺が生きるために、どれだけの人がその命を亡くしたか…。
 そして……。

 遠ざかる背中が部屋から出る前に俺はそいつを背後から抱き締めていた。

「…救われた…てめぇに、今…」

 そのまっすぐな感情に。その温もりに。





5

「ああ、こんなとこにいましたね」
 迎えに来た暖かい手が俺の頬の傷に優しく触れた。
「どうしたんです?」
 覗き込む顔から視線を逸らす。
「お前が欲しがってたプレミアの本、古書店で見つけたんだよ。買いたくてカジノで稼いでさ」
「負けちゃいました?」
「いんや、勝った。買えるだけは稼いだんだけど、古本屋閉まってて…」「だからこんな公園で夜明かしですか?」
 呆れたようなため息が聞こえる。
「お前の喜ぶ顔見たかったから」
「あのね、悟浄。僕は貴方が帰って来てくれるほうが嬉しいんです。あの本よりも。それに一度戻ってから買いに出てもいいじゃないですか?」
「だって売れちまったら困るじゃん…」
m俺は公園の時計を見上げる。
「あ、オープンの時間」
 頬の傷に添えられていた八戒の手をとって繋ぎ、その古本屋に向かって走りだした。

 苦笑しながらもついて来てくれるその温もりを感じながら。



4

 空が彼に染まる。
 乾いた洗濯物を手に見上げた空に流れる雲で風が吹いていることを感じる。
 彼が帰って来るはずもない時間。
 それでも彼が見えないかと家に続く道を見て、それから僕は諦めた。
 これからが彼の時間。
 帰って来るわけがない。
 その小道に背を向けかけて、視界の端に捕えた彼の色。





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夏風亭心太


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