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くれないづきの見る夢は 紅い涙を流すこと 透明な血を流すこと 孤独にのまれず生きること
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 開け放った窓から花の香りが漂ってくる。
 凭れかかって居眠りを始めたこいつの髪が肩にかかってくすぐったくて。
 そういや、ラベンダー色ってのは同性愛の色なんだってどっかで聞いたっけ。
 こいつに教えたらどんな顔すんだろうな。
 二人で微睡む午後の浴槽。
【「浴槽」「ラベンダー」「寝る」】


 こんなにも簡単な事なのに。
 誰だかわからない相手を殺めるのは。
 その誰か、に意味を持たせた途端、殺戮の刃は鈍る。
 貴方が他人なら、良かった。
 誰だかわからないままなら、良かった…。
 今はもう、貴方を殺せない、僕には。
 だからひたすら、殺されるのを、待っています。
【「誰」「簡単」「待つ」】



「え~、俺そんなに大食いか?平均よりちょっと多いだけだろ~」
 ぷくっと脹れた頬はふわふわのマシュマロみたいで。
「なぁ、もっと喰いたい!」
 平均だと言い切るわりにはまだ食べ足りないのか、頭を擦りつけてさらに食い物を強請る。
 仔犬みたいなこいつから目が離せない。
【平均・ふわふわ・擦る】


「お前なんか大っ嫌い」
 その言葉が愛情の裏返しだとはわかっているけど。
 それでも面と向かって言われたらショックなんですよ。
 僕に限ったことじゃないんです、言葉ってね、凶器になるんですよ、知ってます?
 言いたいけど言えなくて…ただ眠れぬ夜を数えて…今日も寝不足。
【「限る」「寝不足」「裏」】


 ただ器械的に。
 何も考えず。
 無心に。
 黙々と敵を倒す。
 心はすっかり乾き切っていて、殺すというタブーでさえ禁忌であることを忘れてしまう。
 それでも…たった一つ。
 自らが滅びても、お前だけは守る、という意思だけは固まっていた。
【「乾く」「無心」「固まる」】







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 俺とお前との距離は遠い。
 渡るための橋さえかける事もできないほどに。
 それなのに俺はお前を縛らずにはいられない。
 アイシテル、と残酷な言葉で。
 本心は自分が傷つきたくないだけ。遠い距離を感じたくないだけ。
 そう、俺は…狡い…。


 狡いのは僕も一緒。
 「アイシテル」と残酷な言葉を貴方の耳元で囁き続け。
 これじゃまるで洗脳だ。
 遠い距離を無視して眺め続け。
 都合の良いように貴方の言葉を変換し。
 何時まで自分を欺ける?
 そうやって貴方から逃げているのかも、しれない。
 貴方の心の奥底に有るものから。


 もっと聞かせて、その残酷な言葉を。
 俺も何度も言うから…。
 「アイシテル」お前を欺くその言葉は俺をも同等に欺く。
 洗脳でもなんでもいい。
 この心の距離が埋まるなら。
 きっとこの残酷な言葉は、唯一、俺とお前を繋ぐ架け橋。


 じゃあ何度でも。
 貴方がもう僕のことなんか要らないというその日まで。
 呪文のように囁き続ける。
 距離が縮まって重なるその日まで。
 欺き続けた貴方のそのキモチがホンモノになるその日まで。
 僕は今日も貴方の耳元で囁き続ける。
 「アイシテル」そして。
 「ボクヲアイシテ?」


 いつになったらこの距離はなくなる?
 埋まったんだと信じたくて今日もあの残酷な言葉を囁き続ける。
 欺くための残酷な言葉はとても耳に心地好くて。
 甘くて。
 残酷だなんて感じなくなったら距離はなくなるの?
 目の前にいるのに遠いお前に今日も…「アイシテル」


 貴方の声でその言葉が聴きたいから。
 それなら距離は埋まらなくていい。
 遠い遠い距離を縮めるために貴方がその言葉を僕にくれるのなら。
 それなら。
 この距離さえ愛おしく思える。
 遠くて近い、近くて遠い、謎解きのような距離。
 今日も貴方のくれた「アイシテル」明日も、ね?


 簡単に手を触れるコトは出来るのに。
 お前の心を手に取るコトはできなくて。
 この距離がもどかしい。
 俺の言葉は空回りしてねぇ?
 ちゃんとお前に届いてる?
 心を隔てるこの距離は…永遠に埋まらないのではないか、と思えてしまう。
 その不安を拭い去るように…「アイシテル」


 届いてますよ。
 この言葉すら届いていないのかもしれないけど。
 僕のココロは貴方の胸の中。
 預けたでしょう?
 探し物は意外と近くに在るもの。
 ほら。
 その手でしっかりと受け取って貴方の胸の中に大切に仕舞ってくれたじゃないですか。
 もっと触れて。
 僕にも、僕のココロにも。


 お前に触れたい。
 お前の心に。
 でも、手を伸ばして届くのはお前の手だけで。
 どこを探しても心は見つからない。
 それはこの距離のせい?
 それとも…お前の心はここにはないから?
 だったら…どこを探せば見つかる?
 俺はどこに行ったらいい?
 一緒に探して?
 お前の…俺の心を。








 頭が真っ白になって…。
 目の前で、三蔵が、悟浄が、悟空が倒れて…。
 八戒は無意識に自分の妖力制御装置に手をかけ、外した。
 敵が倒れ、回りが静寂に包まれても、八戒の破壊衝動は収まらなかった。
 ただの物体と化した敵の屍を破壊する。
 暴走する、ってこういうことなんだろうか…頭の片隅で理性が冷静に思っている。苦しいけれど、その感覚はどこか恍惚とした抑揚で精神を蝕んでゆく。
 動くものに無意識に反応する。
 全身の蔦がその影に絡みつく。伸びた爪が獲物目掛けて振り下ろされる。
 紅い、色……。
「ばっ…かっ……八戒!!」
 それは男の色なのか、それとも……。
 鳩尾を力一杯殴られて力が抜けた一瞬に、八戒は制御装置を装着されて、意識を失った。


 八戒が意識を取り戻すとベッドに寝かされていた。
 目の前には悟浄がいる。
「悟浄! 三蔵は? 悟空は?!」
 がばり、と起き上がりきょろきょろと部屋の中を見回す八戒に悟浄は苦笑する。
「二人とも無事。お前が一番遅くまで寝てたんだぜ?」
「そう、ですか…」
 ほっとしたような表情で悟浄を見やって、八戒の顔が急に強張る。
 両腕に結構深い行く筋もの傷と首には、何かで…そう、蔦で締められたような、跡。
「オマエ、さ…。むやみやたらに制御装置外すんじゃねぇぞ?」
 傷に恐る恐る手を伸ばす八戒に、不機嫌そうな声で悟浄は言った。
「すみません……でした…」
 八戒は指先で傷に触れると、何か熱いものにでも触ったかのように、びくり、と手を引っ込めた。
「悟浄……僕が…怖くない、んですか……?」
 呟かれるその言葉に。
「オマエはオマエ、だろ?」
 悟浄はそれだけ言うと目を閉じてしまう。
 そんな悟浄に、八戒は救われた思いで、自分がつけた傷を治癒するために気孔を使った。




 花見しよう。

 言いだしたのは誰だったのか…。ただ、誰も反対しなかったから。


 夜遅くに着いた街での夜明け。
 与えられた個室で寝るでも起きるでもなく窓の外を見てたら、徐々に明るくなってくる空の下に一面の薄桃色が広がってた。
 その桜に浮かれたかのような街の様子に触発されたんだろうな…。
 
「悟浄は場所取りをお願いしますね?」
 それが当たり前だと言うように言われた。
「僕は宿の調理場を借りてお弁当を作ってから行きます」
「三蔵や悟空はど~なんだよ」
「三蔵が動くと思いますか? 悟空がじっとしてると思いますか?」
 消去法で貴方なんですよ、悟浄。
 そう言われて…仕方ないから同意した。
「お酒買って行って、先に飲んでてもいいですから、ね?」
 俺を送りだそうとする八戒に、俺は街から少し離れた丘の上の大きな桜の樹を指した。
「あそこで待ってるわ」


 酒を買って。八戒に言った樹の下に来た。
 ここまで来る途中の桜の下ではそこここで花見をしてる奴がいたのに、ここは静かで。
 樹はすげぇ大きくて、空一杯に伸ばした枝は満開で。
 樹の下に買い込んだ酒を置くと、散った花びらが一面に敷き詰められたかのような地面に横たわった。
 快晴の青い空と桜の薄桃色のコントラスト。穏やかに吹く風に、心地好くてうとうととした。


 急に一陣の強い風が吹く。
 身体を起こすと、花びらが視界を埋めていて……それが落ち着くと、樹の前に真っ黒な人影があった。
 あまりに唐突な出現に一瞬、どうしたらいいのかわからなくなる。
 それでも身体を反転させて起き上がると、手には錫杖を取りだして身構えていた。
「なんだ、てめぇ…」
 足元の花びらを踏みしめたまま、じりり、と一歩近づく。
 出てきたそいつは俺をまっすぐに見つめひどく不思議そうな顔をすると、きょろきょろと辺りを見回す。その姿に敵意は感じず、思わず力が抜けた。
「なんなんだよ、あんた…」
 力が抜けた拍子に錫杖が消える。
「ここは、どこだ?」
 まっすぐに俺を見てるから俺に聞いているんだろう。
「まさかその後に、俺は誰だ? とか言い出さねぇだろうな?」
 場所を聞かれたって、街の名前すらあやふやだから、誤魔化すように言ってみる。
「あ~…それはわかってんぜ?」
 困ったように頭を掻く男に、俺は苦笑いしかできなかった。
 敵意のての字すら感じられなかった男に武器を向けてしまったことへの申し訳なさもあったのかもしれない。
「さて…どうしたもんかね…」
 相変わらず困ったような顔で辺りを見渡す男に。
「ど~したのよ?」
 思わず声をかけていた。野郎が困ろうがどうしようが知ったこっちゃねぇとは思うんだが…。
「あ~…いや…ま、なんとかなんだろ…」
 俺の方を見ると男はどこか諦めたような表情を浮かべ、樹の下に座りこんだ。
「あ……」
 俺が場所取りしてんのに…。
 思わず呟くと、男はきょとん、とした顔で俺を見上げた。
「場所取り?」
「そ、花見の、な。仲間が来んの待ってんの」
 言いながら、別にこいつ、花見に来たわけじゃねぇよな、と思い直す。
「あのさ、よかったらあんたも混ざる?」
 気がつくと誘っていた。
「仲間と飲むんだろ?」
 男は根元に置かれた酒に気付いたようで、そこを見ながら心配気に聞いた。
「あいつらなら一人ぐれぇ増えても文句言わねぇと思うけどなぁ…。あ、そだ。今から飲んでるか。すでに飲んでりゃ、追い出したりしねぇだろ~し。先に一人で呑んでていい、つってたし。ど?」
 手近な酒の瓶を取って軽く振って見せる。一人で呑むより共犯者がいたほうが楽しいし。
 男もまんざらではない顔をしたから、俺は一緒に持って来ていたカップを二つ取ると、男の前に座った。


 男はどこから取り出したのか白い盃で俺の差し出す酒を受けている。
 俺は旅の共に、とそれぞれが買ったホーローのマグカップを片手に男の酒を受ける。
 お互いに名乗らない。二人しかいなけりゃ、話せば相手しかいねぇんだし、別に困ることもねぇ。
「お前の仲間はお前を入れて4人か…」
 カップを見て確認したらしい。俺のは赤、八戒のは緑、悟空のは黄色で、三蔵は派手な色は嫌だ、と白いカップを使っている。
 俺は男を観察する。黒くて短い髪に、紫がかった瞳。白い肩当てのついた黒くて丈のある服はどこか堅苦しくて…軍人かなんかのようだった。
 逢って間もないのに、桜の下から急に現れたのに、俺はなぜかその男に親近感を覚えていた。男もそうなんだろう。大して会話もしてねぇのに、男といるのは無性に心地好かったから。
 男が懐から出した煙草をくしゃり、と握り潰す。
「あれ? 切れてんの? 俺のでよけりゃ、吸うか?」
 俺は煙草を差し出し、火を点けてやる。男の煙草はあんま見かけねぇもんだったけど、ハイライトはお気に召したらしい。美味そうに吸うそれにつられたように、煙草の本数も進んだ。そして、酒も。
「この煙草、気に入った? 良かったら持ってく?」
 二箱ほど渡すと男は嬉しそうに受け取った。
「ところでさ、そんなカップで飲んで美味いのか?」
 俺がカップで酒を飲んでいるのがどうにも不思議らしい。最初からそんな目で見られてんなぁ、とは思ったけど、まっすぐに聞かれるとは思ってなかった。
「美味い、ぜ? ま、俺らずっと旅してっし、壊れ物持って歩くわけにもいかねぇからなぁ。酒も珈琲もスープもみんなこれだ。慣れた、って方が正しいのかもしんねぇけどさ」
「慣れ、か…。まぁ、そんなもんかもしれねぇなぁ…」
 男は持っていた盃を地面に置くと、俺に手を差し出した。
「ん?」
「それ、見せてくれねぇか?」
 なぜか興味津々な様子でいる男に俺は酒が入ったままのカップを差し出した。
「珍しくもなんともねぇだろ? どこにでもあるようなカップだぜ?」
「どこにでもある、のか…丈夫で軽くて…いいな、これ…」
「悟浄! お待たせしました~」
 丘の下の方で八戒の声がして昇ってくる。その声に気付いて男が立ち上がり、俺も立ち上がった。八戒の姿が見え……。
 そこで、また、一陣の強い風が、吹いた。


 風が一瞬視界を覆い、舞い上がり舞い散った桜の花びらが落ち着くと目の前には八戒がいた。
「八戒…こい…つ…」
「どなたか、いらっしゃったんですか?」
 きょろきょろと辺りを見回す八戒と一緒になって俺も樹の後ろまで回ってみるが、男はいなくて…。
「いや、なんでもねぇわ」
「桜の精にでも逢いました?」
 くすくすと笑いながら八戒が聞く。男の容姿を思い浮かべて俺は首を傾げた。
「桜の精、ねぇ…」
「この桜は樹齢1000年以上にもなるようですよ。樹上でたまに紅く光るものが見える、とか言われていて街の人は近づかないそうです。桜の精がいても不思議じゃないでしょう? どんな美人さんでした?」
「美人……? じゃねぇな…ヤローだったし…軍人みてぇだった…な…」
 強風にも奇跡的に倒れずにいた、白い盃を手に取る。一枚の花びらが浮かんだその中の酒を一息に飲み干した。
「軍人、か…。桜の樹の下には屍体が埋まっているとも言うからな…桜の精とやらも血生臭ぇのかもしんねぇな…」
 持っている荷物を揺らさないように、とゆっくり歩く悟空にあわせ、のんびりと歩いていた三蔵が樹の下に来ると桜を見上げながらとんでもねぇことを言いだした。
「三蔵、悟浄はそういうの苦手なんですから…」
 俺が微妙な表情をしたせいだろう、八戒が苦笑しながら言う。
「なんかさ…兄貴、みてぇだった…」
 盃を見つめながら男を思いだして出た言葉がそれだった。自分でも驚いたけど、それに対しては他の3人も驚いたようだった。
「独角兕、だったのか?」
 きょとん、としたように悟空が聞く。
「んなわけあっかよ、バカ猿」
「だから俺は猿じゃねぇ!」
 お約束とばかりに飛びかかってくる悟空をそのまま受け止め、一緒に桜の下に転がった。
「そんなんじゃねぇ…けどさ…なんつ~か…懐かしかったんだよ…」
 見上げる薄桃色と空色のコントラストは相変わらず綺麗だった。
「さ、じゃれてないで。食べますよ、お弁当」
 俺と悟空を見てた八戒が、悟空が細心の注意を払って持って来た大きな包みを広げる。
 悟空は俺から離れると広げた弁当の前に行く。俺も起き上がると、にこにこと笑う八戒と仏頂面でいる三蔵の間に移動した。
「まずは、乾杯ですね」
 俺が持って来ていた酒の中からそれぞれのカップを探し出していた八戒は、手を止める。
「悟浄? 貴方のカップが見当たらないんですけど…」
 ちょっと困惑したような声に、そ~いや男に渡したままだった、ということに気付いて俺も困惑した。
「俺はこれで飲むわ」
 白い盃が手元に残り、俺のカップはあの男の手に。
 それはあの男が本当にその場にいた証拠のようで…。
「いいですけど…。無くしたのなら、新しいのを買わないといけませんねぇ…。あんな派手な色のを無くすなんて…」
「桜の精、とやらと交換したんだよ、こいつと」
 にやり、と笑って見せると八戒は困ったように笑ってから、三蔵と自分のカップ、そして俺の手の盃に酒を満たし、悟空にはコーラを手渡した。


「では、乾杯」
 こういう時、面白がって音頭を取るのはいつも八戒で。
「何に乾杯するってんだ?」
 それに乗らずに水を差すのが三蔵で。
「なんでもいいじゃん。早く喰おうぜ!」
 それに頓着しないのが悟空で。
「桜に、でいいんじゃねぇの?」
 適当なことを言うのが俺。
「そう、ですね…。悟浄の桜の精に、でいかがですか?」
 笑いながら八戒がカップを軽く上げて、しぶしぶといった表情で三蔵もそれに倣い、俺はどこか釈然としない表情でそれに従った。
「桜の精に!」
 悟空が大きな声で言うと大きな声を上げる。
 その悟空の声に応対するかのようにまた、一陣の強い風が吹いた。
 桜の精…あの男も仲間に入りてぇのかな…ふとそんなことを思って樹を見上げると、俺の頭の上に何かがヒットした。
「いってぇ…」
 それはかなりの衝撃で、俺はその場に頭を押さえて蹲る。
 俺の頭の上に落ちてきたものを八戒が拾った。
「これ……貴方のカップじゃありませんか?」
「なんだよ、悟浄。どこ置いてたんだよ、自分のカップ」
 すでに弁当に手をつけながら笑う悟空に八戒が困ったような笑顔を向ける。
「三蔵、これ…」
 まだ痛む頭を摩りながら、俺も三蔵と一緒に八戒の手の中にあるカップを見た。
 それは確かに俺のカップのようだったけど、紅い色はかなり褪せ、ボロボロで取っ手は取れかけ、穴さえ開いていた。
「街の人の言っていた紅く光るもの、ってこれだったんでしょうか…」
 俺たちはお互いに狐に摘まれたような表情の顔をつきあわせた。
「そう、かもしれんな…。…おい、悟浄。お前、何と逢ったんだ?」
 それは俺が聞きてぇ、そう答えながら八戒の手からそのカップを受け取る。
「どちらにしても、新しいカップは必要ですね」
 深く考えてもどうしようもないことは深く考えない。それがいつしか俺たちの中に出来たルール。
 俺はそのカップを傍らに置くと、悟空に全部喰われちまう前に、八戒の手製弁当に箸を伸ばした。


 たくさん食ってたくさん飲んで。おまけにそこで昼寝までして。
 夕方、薄桃色と夕焼け色の頭の上の色を堪能して。
 そこを後にしようとした時、俺は男の残して行った盃を桜の樹の下に小さく穴を掘ると埋めた。
 何か…ずっと心に残っていた遠い遠い約束を果たせた満足感のようなものが……あった。



 温もりもしっかりとわかるのに。
 それでも心はそれを拒否する。
 架空のものだと信じたいのだ。
 俺に向かって与えられる愛情も微笑みも全部架空のものだと。
 俺にはそれをもらう資格などないから。
 寂しい微笑みで掴んだ手を離したら…抱き締められた。
 それは確かに存在してた。


 貴方が貰ってくれるというから。
 僕のこの汚れた手もカラダもキモチも全てを。
 この僕という存在全てを。
 それなのに架空じゃない。
 此処に居る。
 貴方のすぐ隣に。
 離さないで。
 今度は僕が抱きとめて包むから。
 貴方の存在全てを。
 僕にくれるんでしょう?
 それなら。
 離さないで。


 俺でいいの?
 本当に?
 誰からも愛されなかったから、愛し方も知らない。
 どう愛されればいいかもわからないのに。
 離すなというなら、離さない。
 愛することは知らなくたって、欲しいモンはある。
 例えば…お前のこの温もり。
 架空の存在じゃねぇというなら…もっと感じさせて?


 本当の愛し方なんて誰にも解らない。
 僕だって。
 本当の愛され方なんて誰にも解らない。
 模範解答が欲しいの?
 欲しいとか感じたいとか。
 そういうシンプルな、本能の赴くままじゃだめですか?
 DNAにプログラムされたままに求め合えば、それが正解だから。
 僕も。
 カンジタイ。


 模範解答なんていらない。
 俺は必要とされているんだと…ただそれだけを信じたい。
 本能じゃないとこで、本当の心を感じたい。
 俺の存在が虚構じゃないと…この温もりが嘘じゃないと…。
 貪欲なまでに求めてる。
 愛して欲しいと。
 縋って伸ばした手をしっかりと掴んで欲しい。


 信じたいなら、信じればいい。
 僕は、ずっと信じてきた。
 虚構や嘘、というのならそれでも僕はかまわない。
 その虚構や嘘でも信じていけるから。
 それほどまでに網膜に焼き付いた紅は嘘偽りなく僕を求めてくれている気がして。
 縋った手は掴んで離さない。
 欲張りな僕、だから。


 お前のその碧の瞳が俺を見ていてくれるなら。
 それはきっと嘘でも虚構でもないんだ。
 そう自分に言い聞かせて。
 愛とか恋とか不確かなものよりも。
 この腕の中の温もりを信じよう。
 これだけが、俺のモノだと言い切れるから。



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