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くれないづきの見る夢は 紅い涙を流すこと 透明な血を流すこと 孤独にのまれず生きること
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 奴は…なんでも自分で背負い込み過ぎるんだよ…。

 以前、奴にそう言ったら、貴方もそうでしょう、と言い返しやがった。

 笑いながらなんでもねぇみてぇな顔して。
 それに苦笑して、それよりはマシでしょう、と俺の眉間の皺を指差して、さらに笑顔で。

 なんでもかんでも背負い込むくせに、どこか全部を諦めたような顔をして、何も見てねぇところもあって。

 どこか……俺に、似ている…気がして、目が、離せねぇ。

 だから…心配なんじゃねぇか。
 知ってるのか? 
 俺の思いを。

 てめぇが欠けると困るんだよ。

 「おい、八戒…」

 何も見てねぇんなら見せてやる。すべてを諦めねぇように、生きることを諦めねぇように。
 俺が、見ててやる。

 だから…今夜も…奴を褥に誘う。
 どこか嬉しそうに微笑んで近づく奴を…俺のすべてで。
 生に引き止めるために。



 
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 捲簾にホテルを引き払わせて、街外れの家に向かう。
 暫く旅を続けてた、って割には少ない荷物に驚いたが、まぁ、旅慣れてるならそんなもんかもしんねぇ、とも思う。
 俺だって、この街に流れ着くまで、大した荷物も持たずに来たっけ。まぁ、なんも持ってなかった、ってのが正解なんだけど。
 鷭里が出て行って、一人で住むには広く感じる家に帰るのは久しぶりだった。
 ここ一週間ほどは捲簾の部屋にいたし、それまでは女んとこか酒場か賭場にいた。
 見えてきた家の玄関のドアが外れている。
「鷭里!」
 俺は思わず走り出していた。玄関のドアを毎回のように壊してたあいつ。
 街の顔役の女に手を出して街を出た、あいつ。
 心配してたわけじゃ、ねぇ。そのことで俺もどんだけチンピラに絡まれたか。生きてんなら、一発殴ってやんなきゃ気がすまねぇ。
 あ……心配、してんのか、俺。
 入りかけたドアの前で足が止まる。
 中には顔を見かけたこともある男が数人、いた。
「なぁ~んだ、戻ったのはガキだけか」
 つまらなそうに一人が言うと、もう俺には興味もない、とでも言うように無視をする。
「何やってやがんだ、人んちで!」
 実際には俺の家じゃねぇし、鷭里の家でもねぇ。空家だったここに勝手に住み着いただけだ。
 そんでも。何の執着もない俺だけど。初めて自分の家だと思える場所だったから。
「鷭里は帰って来ねぇよっ! 出て行きやがれ!!」
 何を考えるより先に手近な奴に掴みかかっていた。
 相手は5人。楽勝だと、思った、のかもしれない。
 男の首根っこを掴んだまま、飛びかかってきた奴の鳩尾目掛けて蹴りを繰り出す。
 膝が、ズキリ、と痛みを訴えた。
 バランスを崩して、掴んだ男の体重を支えられず、その場に倒れ込む。男を一人下敷きにした状態のまま、蹴られる。
 起き上がろうと身体を浮かせたらその隙間を狙って蹴りを入れられ、ひっくり返された。その上に下敷きにしてた野郎が馬乗りになって俺を殴る。口の中に鉄錆の味が広がった。
「お前ら、なぁ~にやっちゃってんの?」
 そんな状況に似つかわしくない、どこか飄々とした声がして、男たちが俺を痛めつける手が止まる。
「なんだぁ? おい、ガキ。お盛んじゃねぇの。鷭里が出てったからって早速新しい男、くわえ込んだのかよ」
 下卑た笑いに。捲簾が苦笑するのがわかった。怒りに任せて上の男を押し退けようとしたその力が思わず抜ける。
 捲簾は冷静だった。俺よりも少しタッパの低い捲簾に、男たちは俺よりも弱いと踏んだのだろう、俺をボコるのに3人残し、2人が捲簾の方に向かう。
 が、捲簾は…3人がもう一度俺に向かうより先に…自分に向かってきた2人を持ってた荷物を置きもせずにノシていた。
 俺の上から男が退く。
 痛みを堪えて身体を起こすと、捲簾に飛びかかった男から、みしり、ととんでもない音がする。
 一人の腕ともう一人の足が、あらぬ方向を向いていた。
 男たちには恐怖の表情が浮かぶ。こんなチンピラは一度恐怖を植えつけてしまえば二度と襲ってはこないだろう。
「ほら、出口はあちら、だ。もっとやりたい、ってんなら相手になんが、とっとと出てった方がいいと思うぜ? 俺、これ以上の手加減、できねぇからよ」
 捲簾は薄く笑って、自分が塞ぐように立っていたドアの前から退いた。
 男たちはほうほうの態で出て行った。


「大丈夫か、悟浄?」
 差し出された手を素直に取れない。そうだ、俺がこんな無様に殴られたのも、全部、こいつが悪い。こいつが…。
 じぃ、と睨み付ける俺に捲簾は苦笑して頭を撫でた。
「こりゃ、まずは修理と掃除から始めねぇと、住めねぇよなぁ…」
 俺から離れて部屋を見回すと、捲簾はおもむろに荷物を置いて、手近なゴミを拾い始める。
 どこかから袋を見つけてくるとゴミを手際良く仕分けして片付けるのを、俺はその場でそのまま見ていた。
 こまごまと動く捲簾を目で追う。こんな光景、見た事ねぇや。ガキん頃も、この家に来てからも。
「ほら、いつまでもんなとこにヘタレ込んでっとお前もゴミにしちまうぞ」
「ここは俺んち……」
 だろうが、と続けかけて、いきなり持ち上げられた。
「おい! 何しやがるっ」
 暴れる間もなく、ソファの上に落とされた。
「大人しくしてろ」
 仕方なく、手持ち無沙汰にソファの上に膝を抱えて座りこむと、暫くまだ掃除を続ける捲簾を見てた。
 それにも飽きて、ポケットを探って出てきた煙草に火を点ける。
「ガキがんなもん吸ってんじゃねぇよ」
 後から言われて、咥えてた煙草を取り上げられた。
「げっ。血の味、すんな…」
 血がついたフィルターを顰めっ面をして眺める捲簾を横目にもう一本に火を点けると、黙って灰皿が目の前に差し出される。
 本気で止める気もねぇらしい捲簾に、俺は思わず笑った。
「ホント、あんた、面白ぇ奴だな」
「いいだろ、飽きなくて」
 さらっと答えてから、もう一度室内を見渡し。
「救急箱、どこだ?」
 と聞いた。
 んなもん、ねぇよ。と答えた途端に、もう一度煙草を取り上げられる。
「返……」
 全部、言えなかった。まだ血の滲む口端をいきなり舐められる。
「何しやがる!」
「ん? 消毒」
 しれっと答えてから、煙草を返された。
 遊ばれてんのか、俺……。
 ウチに来い、なんて言ったのは……早まった行動だったんだろうか…?
 それでも。
 不貞腐れて再び煙草を咥えた俺の頭をわしゃわしゃと撫でてくれるその手が気持ちよくて。
 一人でいるよりは楽しめそうだ、と思った。



 猪八戒? うん、あるヨ、興味。
 玄奘一行の中で、一番。

 妖怪の血を1000人分浴びて妖怪になる、なんて科学では証明できないデショ?
 でも、目の前に実例があるんだから、研究したいと思って当然なんじゃない?

 捕まえて解剖して、妖怪の姿にさせてね、最後は標本にしたいなぁ。綺麗だと思うんだよネ。

 アレ? 悪趣味だって言うのかい?

 純粋に学術的興味、なんだけどネェ…。


 我は好きなんですよ、猪悟能が。

 我が戯れに与えた血で生まれ変わった彼に。
 抱いていたのは…親のような感情だったのかもしれませんねェ。

 殺されてまで執着したのは、生まれて初めて、死んだ後のことだったなんて…。

 自らを式神にしてまでの執着、猪悟能にはわかってもわらないとなりませんよねェ…彼のすべてで。

 どうしたら、猪悟能は我を見てくれるんですかねェ。

 彼の狂気を、もう一度見たい…



「ねぇ、欲しいものが…あるの…」
 貴族の別荘を気取った館の一室で熟んだ空気の中。さっきまで踊っていたその腕の中で女がねだる様な視線を男に向けた。
「お前が何かを欲しがるなんて、珍しいな…」
 そこは高級娼館と言われる場所で、女は娼婦、男はその得意客。客の素性は聞かないのが暗黙の了解だが、その館で1、2を争う女を週に二日は来て買う男が随分と裕福なことはわかる。女にはそれだけで十分だった。
「で? 何が欲しいんだ?」
 こうして春を鬻ぐ場所として豪華な寝室を与えられ、綺麗なドレスも宝石も手にすることの出来る、そんな娼婦である彼女がさらに何かを欲しがるなど、下街の片隅、毎日の寝床でさえ確保出来ない女たちから見たらどれだけ贅沢なことか。それでも、女にはそれがどれだけ恵まれていることかわからなかった、から。
「一対の…東洋の宝石が……。あの時、の…」
 女がそれを見たのは、その客と外で食事をした時だった。
 どれだけ贅沢を許されようと、自由に振舞っているように見えようと女は籠の鳥で、客が連れ出してくれなければ、外に出ることはできなかった。
 久しぶりの外にはしゃぐ女を男は黙って許していた。あくまでも、馬車の中から、だったが。
 その女が、急に黙って食い入るように何かを見つめた。男もつられる様に女が見ているものを見る。
 そこは女がいる館よりも数段落ちる、それでも娼館と一目でわかるような建物だった。
 そこの二階の窓に、どこか憂いを含んだ瞳で街を見下ろしている翡翠色があった。
 象牙のようなキメの細かい肌と、絹のような黒い髪。見上げる女と目があって、その翡翠の瞳が、色の薄い唇が笑った。まるで蔑むように。
 女は過ぎ行く馬車の窓から身を乗り出すようにしてその窓を見る。
 その人物の背後から、紅い色が見えた。その紅が翡翠を愛しむように世話する様子に、一対の宝石を見た気がして、壊してみたくなったのだ。同じ籠の鳥なのに…。
 男は暫く考えてから、買ってやる、と答えた。
 女をいつものように買って、連れて行ってやる、と。


 一目でそれとわかる建物の前に、紋章を隠した立派な四輪馬車が停まった。
 滅多にないことに建物の中が慌しく動く。
 更にないことに、その馬車の客は女を同伴していたのだ。
「ここには東洋人がいるね?」
 客の所望する人物を出し渋る主に男はたくさんの金を握らせる。
「彼を世話する男も一緒に頼むよ」
 金を見た主は掌を返したように下へも置かぬ様子で二人を案内させる。もう一人の所望品である紅い髪の男に。
 客を案内して部屋を出ようとする彼を、女が初めて口を開いて止めた。
「見たのよ、私。ねぇ、貴方も私と同じ籠の鳥、なのに…。いいのかしら?」
 その言葉に。責められるべき二人は少し驚いたような顔をしてそれから代表したように翡翠の瞳がにっこりと笑った
「僕は、ね…。籠の鳥ではないんですよ…。好んでここにいるんです。ねぇ、悟浄? 彼が、ここにいよう、と言ったから…だから…」
「そゆこと。だからさ、こいつは客を選べるんだぜ? まぁ、ここの主人には世話んなってっし、どうしても、って言われたからよ、あんたらを入れただけ」
 綺麗な碧と紅が男と女を見比べる。
「で? 僕たちに何をお望みなんですか?」
 悔しそうな顔で女が二人の性交を見せろと言い出し、男は、1時間後に迎えに来ると言い残し、そこを後にした。
 

 男が女を迎えに行くと、そこに女はいなかった。
 そして…一対の宝石と女が言った、二人の東洋人も。
 ただ…紅く染まった部屋と、男のことなど見た事もない、と言い張る主だけが残されていた。




 愛する女を殺されて八戒は狂った。
 殺した男を殺して、血に狂った。
 それを止めたのが悟浄だった。彼の持つその色に、八戒は落ち着いたが、彼らにはその国を出奔するしか道は残されていなかった。
 だから、この国に来た。
 女性に過剰な反応を示す八戒を隠すように、男娼館に落ち着いて、そのまま二人で朽ちるはずだった。
 けれど。
 運命はそんなに優しくはなかった。
 もう、彼らに隠れる場所は残されていなかった。
 下街の裏道の、影の中に、悟浄は八戒を抱えて隠れるしかなかった。

 再び血の狂気に囚われてしまった八戒は、悟浄がいれば落ち着いていたが、彼がいないと血を求めて出歩く。殺傷沙汰が日常茶飯事なその街では、その欲求もなんとか解消できた。
 それがわかっていても、悟浄は二人が生きるために夜の街で、小さなパブで働いた。
 仕事が終わるとすぐさま八戒を探して見つけると家に連れて帰り、抱き締めて眠る。
 そんな毎日でも、悟浄は満足だった。狂気に支配された八戒が満足していたかどうかはわからないが。

 それもやがて、破綻をきたす。
 悟浄はいい意味でも悪い意味でも目立つ男だった。女が放っておくには、目立ちすぎたのだ。
 いつものように、仕事が終わって八戒を探して歩いた悟浄は、彼が殺人を犯す現場を目撃してしまった。
 その夜、悟浄に声をかけてきた女、だった。
 いつもなら、血の色に満足するはずの八戒が、女を切り裂いて、いた。
 少し前から話題になっていた、まさにその殺し方、で。
 悟浄は思い出す。
 この前も、そしてその前も…。殺された女は、悟浄に声をかけてきた女じゃなかったか?

 もう、潮時なのだ、とこの時になって、悟浄は思った。

 いつものように八戒を連れて、歩く。
 澱んだ水を湛える大きな河の前で。
「もっと早く…こうしてたら良かったのかもしんねぇな…。ごめんな、八戒…」
 優しく額にキスをする。
 八戒はにっこりと笑顔でそれを受け、血塗れの身体で悟浄に抱きついた。
「貴方となら……。ねぇ、悟浄? 僕を…連れて行ってくださいね? どこまでも…」
 国を出奔した時と同じ台詞で。



 一対の宝石は、消えた。


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