くれないづきの見る夢は 紅い涙を流すこと 透明な血を流すこと 孤独にのまれず生きること
Category:最遊記
「ねぇ、欲しいものが…あるの…」
貴族の別荘を気取った館の一室で熟んだ空気の中。さっきまで踊っていたその腕の中で女がねだる様な視線を男に向けた。
「お前が何かを欲しがるなんて、珍しいな…」
そこは高級娼館と言われる場所で、女は娼婦、男はその得意客。客の素性は聞かないのが暗黙の了解だが、その館で1、2を争う女を週に二日は来て買う男が随分と裕福なことはわかる。女にはそれだけで十分だった。
「で? 何が欲しいんだ?」
こうして春を鬻ぐ場所として豪華な寝室を与えられ、綺麗なドレスも宝石も手にすることの出来る、そんな娼婦である彼女がさらに何かを欲しがるなど、下街の片隅、毎日の寝床でさえ確保出来ない女たちから見たらどれだけ贅沢なことか。それでも、女にはそれがどれだけ恵まれていることかわからなかった、から。
「一対の…東洋の宝石が……。あの時、の…」
女がそれを見たのは、その客と外で食事をした時だった。
どれだけ贅沢を許されようと、自由に振舞っているように見えようと女は籠の鳥で、客が連れ出してくれなければ、外に出ることはできなかった。
久しぶりの外にはしゃぐ女を男は黙って許していた。あくまでも、馬車の中から、だったが。
その女が、急に黙って食い入るように何かを見つめた。男もつられる様に女が見ているものを見る。
そこは女がいる館よりも数段落ちる、それでも娼館と一目でわかるような建物だった。
そこの二階の窓に、どこか憂いを含んだ瞳で街を見下ろしている翡翠色があった。
象牙のようなキメの細かい肌と、絹のような黒い髪。見上げる女と目があって、その翡翠の瞳が、色の薄い唇が笑った。まるで蔑むように。
女は過ぎ行く馬車の窓から身を乗り出すようにしてその窓を見る。
その人物の背後から、紅い色が見えた。その紅が翡翠を愛しむように世話する様子に、一対の宝石を見た気がして、壊してみたくなったのだ。同じ籠の鳥なのに…。
男は暫く考えてから、買ってやる、と答えた。
女をいつものように買って、連れて行ってやる、と。
一目でそれとわかる建物の前に、紋章を隠した立派な四輪馬車が停まった。
滅多にないことに建物の中が慌しく動く。
更にないことに、その馬車の客は女を同伴していたのだ。
「ここには東洋人がいるね?」
客の所望する人物を出し渋る主に男はたくさんの金を握らせる。
「彼を世話する男も一緒に頼むよ」
金を見た主は掌を返したように下へも置かぬ様子で二人を案内させる。もう一人の所望品である紅い髪の男に。
客を案内して部屋を出ようとする彼を、女が初めて口を開いて止めた。
「見たのよ、私。ねぇ、貴方も私と同じ籠の鳥、なのに…。いいのかしら?」
その言葉に。責められるべき二人は少し驚いたような顔をしてそれから代表したように翡翠の瞳がにっこりと笑った
「僕は、ね…。籠の鳥ではないんですよ…。好んでここにいるんです。ねぇ、悟浄? 彼が、ここにいよう、と言ったから…だから…」
「そゆこと。だからさ、こいつは客を選べるんだぜ? まぁ、ここの主人には世話んなってっし、どうしても、って言われたからよ、あんたらを入れただけ」
綺麗な碧と紅が男と女を見比べる。
「で? 僕たちに何をお望みなんですか?」
悔しそうな顔で女が二人の性交を見せろと言い出し、男は、1時間後に迎えに来ると言い残し、そこを後にした。
男が女を迎えに行くと、そこに女はいなかった。
そして…一対の宝石と女が言った、二人の東洋人も。
ただ…紅く染まった部屋と、男のことなど見た事もない、と言い張る主だけが残されていた。
愛する女を殺されて八戒は狂った。
殺した男を殺して、血に狂った。
それを止めたのが悟浄だった。彼の持つその色に、八戒は落ち着いたが、彼らにはその国を出奔するしか道は残されていなかった。
だから、この国に来た。
女性に過剰な反応を示す八戒を隠すように、男娼館に落ち着いて、そのまま二人で朽ちるはずだった。
けれど。
運命はそんなに優しくはなかった。
もう、彼らに隠れる場所は残されていなかった。
下街の裏道の、影の中に、悟浄は八戒を抱えて隠れるしかなかった。
再び血の狂気に囚われてしまった八戒は、悟浄がいれば落ち着いていたが、彼がいないと血を求めて出歩く。殺傷沙汰が日常茶飯事なその街では、その欲求もなんとか解消できた。
それがわかっていても、悟浄は二人が生きるために夜の街で、小さなパブで働いた。
仕事が終わるとすぐさま八戒を探して見つけると家に連れて帰り、抱き締めて眠る。
そんな毎日でも、悟浄は満足だった。狂気に支配された八戒が満足していたかどうかはわからないが。
それもやがて、破綻をきたす。
悟浄はいい意味でも悪い意味でも目立つ男だった。女が放っておくには、目立ちすぎたのだ。
いつものように、仕事が終わって八戒を探して歩いた悟浄は、彼が殺人を犯す現場を目撃してしまった。
その夜、悟浄に声をかけてきた女、だった。
いつもなら、血の色に満足するはずの八戒が、女を切り裂いて、いた。
少し前から話題になっていた、まさにその殺し方、で。
悟浄は思い出す。
この前も、そしてその前も…。殺された女は、悟浄に声をかけてきた女じゃなかったか?
もう、潮時なのだ、とこの時になって、悟浄は思った。
いつものように八戒を連れて、歩く。
澱んだ水を湛える大きな河の前で。
「もっと早く…こうしてたら良かったのかもしんねぇな…。ごめんな、八戒…」
優しく額にキスをする。
八戒はにっこりと笑顔でそれを受け、血塗れの身体で悟浄に抱きついた。
「貴方となら……。ねぇ、悟浄? 僕を…連れて行ってくださいね? どこまでも…」
国を出奔した時と同じ台詞で。
一対の宝石は、消えた。
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プロフィール
夏風亭心太
酒、煙草が好き。
猫好き、爬虫類好き。でも、虫は全部駄目。
夜が好き。月が好き。雨の日が好き。
こんな奴ですが、よろしくお願いします。
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