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くれないづきの見る夢は 紅い涙を流すこと 透明な血を流すこと 孤独にのまれず生きること
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 捲簾にホテルを引き払わせて、街外れの家に向かう。
 暫く旅を続けてた、って割には少ない荷物に驚いたが、まぁ、旅慣れてるならそんなもんかもしんねぇ、とも思う。
 俺だって、この街に流れ着くまで、大した荷物も持たずに来たっけ。まぁ、なんも持ってなかった、ってのが正解なんだけど。
 鷭里が出て行って、一人で住むには広く感じる家に帰るのは久しぶりだった。
 ここ一週間ほどは捲簾の部屋にいたし、それまでは女んとこか酒場か賭場にいた。
 見えてきた家の玄関のドアが外れている。
「鷭里!」
 俺は思わず走り出していた。玄関のドアを毎回のように壊してたあいつ。
 街の顔役の女に手を出して街を出た、あいつ。
 心配してたわけじゃ、ねぇ。そのことで俺もどんだけチンピラに絡まれたか。生きてんなら、一発殴ってやんなきゃ気がすまねぇ。
 あ……心配、してんのか、俺。
 入りかけたドアの前で足が止まる。
 中には顔を見かけたこともある男が数人、いた。
「なぁ~んだ、戻ったのはガキだけか」
 つまらなそうに一人が言うと、もう俺には興味もない、とでも言うように無視をする。
「何やってやがんだ、人んちで!」
 実際には俺の家じゃねぇし、鷭里の家でもねぇ。空家だったここに勝手に住み着いただけだ。
 そんでも。何の執着もない俺だけど。初めて自分の家だと思える場所だったから。
「鷭里は帰って来ねぇよっ! 出て行きやがれ!!」
 何を考えるより先に手近な奴に掴みかかっていた。
 相手は5人。楽勝だと、思った、のかもしれない。
 男の首根っこを掴んだまま、飛びかかってきた奴の鳩尾目掛けて蹴りを繰り出す。
 膝が、ズキリ、と痛みを訴えた。
 バランスを崩して、掴んだ男の体重を支えられず、その場に倒れ込む。男を一人下敷きにした状態のまま、蹴られる。
 起き上がろうと身体を浮かせたらその隙間を狙って蹴りを入れられ、ひっくり返された。その上に下敷きにしてた野郎が馬乗りになって俺を殴る。口の中に鉄錆の味が広がった。
「お前ら、なぁ~にやっちゃってんの?」
 そんな状況に似つかわしくない、どこか飄々とした声がして、男たちが俺を痛めつける手が止まる。
「なんだぁ? おい、ガキ。お盛んじゃねぇの。鷭里が出てったからって早速新しい男、くわえ込んだのかよ」
 下卑た笑いに。捲簾が苦笑するのがわかった。怒りに任せて上の男を押し退けようとしたその力が思わず抜ける。
 捲簾は冷静だった。俺よりも少しタッパの低い捲簾に、男たちは俺よりも弱いと踏んだのだろう、俺をボコるのに3人残し、2人が捲簾の方に向かう。
 が、捲簾は…3人がもう一度俺に向かうより先に…自分に向かってきた2人を持ってた荷物を置きもせずにノシていた。
 俺の上から男が退く。
 痛みを堪えて身体を起こすと、捲簾に飛びかかった男から、みしり、ととんでもない音がする。
 一人の腕ともう一人の足が、あらぬ方向を向いていた。
 男たちには恐怖の表情が浮かぶ。こんなチンピラは一度恐怖を植えつけてしまえば二度と襲ってはこないだろう。
「ほら、出口はあちら、だ。もっとやりたい、ってんなら相手になんが、とっとと出てった方がいいと思うぜ? 俺、これ以上の手加減、できねぇからよ」
 捲簾は薄く笑って、自分が塞ぐように立っていたドアの前から退いた。
 男たちはほうほうの態で出て行った。


「大丈夫か、悟浄?」
 差し出された手を素直に取れない。そうだ、俺がこんな無様に殴られたのも、全部、こいつが悪い。こいつが…。
 じぃ、と睨み付ける俺に捲簾は苦笑して頭を撫でた。
「こりゃ、まずは修理と掃除から始めねぇと、住めねぇよなぁ…」
 俺から離れて部屋を見回すと、捲簾はおもむろに荷物を置いて、手近なゴミを拾い始める。
 どこかから袋を見つけてくるとゴミを手際良く仕分けして片付けるのを、俺はその場でそのまま見ていた。
 こまごまと動く捲簾を目で追う。こんな光景、見た事ねぇや。ガキん頃も、この家に来てからも。
「ほら、いつまでもんなとこにヘタレ込んでっとお前もゴミにしちまうぞ」
「ここは俺んち……」
 だろうが、と続けかけて、いきなり持ち上げられた。
「おい! 何しやがるっ」
 暴れる間もなく、ソファの上に落とされた。
「大人しくしてろ」
 仕方なく、手持ち無沙汰にソファの上に膝を抱えて座りこむと、暫くまだ掃除を続ける捲簾を見てた。
 それにも飽きて、ポケットを探って出てきた煙草に火を点ける。
「ガキがんなもん吸ってんじゃねぇよ」
 後から言われて、咥えてた煙草を取り上げられた。
「げっ。血の味、すんな…」
 血がついたフィルターを顰めっ面をして眺める捲簾を横目にもう一本に火を点けると、黙って灰皿が目の前に差し出される。
 本気で止める気もねぇらしい捲簾に、俺は思わず笑った。
「ホント、あんた、面白ぇ奴だな」
「いいだろ、飽きなくて」
 さらっと答えてから、もう一度室内を見渡し。
「救急箱、どこだ?」
 と聞いた。
 んなもん、ねぇよ。と答えた途端に、もう一度煙草を取り上げられる。
「返……」
 全部、言えなかった。まだ血の滲む口端をいきなり舐められる。
「何しやがる!」
「ん? 消毒」
 しれっと答えてから、煙草を返された。
 遊ばれてんのか、俺……。
 ウチに来い、なんて言ったのは……早まった行動だったんだろうか…?
 それでも。
 不貞腐れて再び煙草を咥えた俺の頭をわしゃわしゃと撫でてくれるその手が気持ちよくて。
 一人でいるよりは楽しめそうだ、と思った。


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夏風亭心太


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