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くれないづきの見る夢は 紅い涙を流すこと 透明な血を流すこと 孤独にのまれず生きること
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3

 もう、朝なんだろうな…つか、どんだけ時間経ったんだろう?
 ここに来て時間の感覚がない。窓もない地下室。
 眠って目覚めたんだから、多分、朝。
 足音がしてドアが開く。
 俺を閉じ込めた奴。その顔だけが今の俺のすべて。
 拘束された手を気持ちだけ伸ばすと、口に何か放り込まれた。
 甘酸っぱい香りと味。その蜜柑の味と奴が今の俺のすべて。
 それも悪くないと思う。
 独占欲の強すぎる俺の恋人。


 俺はここでこいつと一緒に…幸福になる。  




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2

 雫が太陽に反射したキラキラの朝。
 昨夜、雨に降られて、風に揺れるは一輪の赤い花。
 そっと手を伸ばすと急に背後から声をかけられ、驚いてその花を思わず手折ってしまった。
「千切れちゃったじゃないですか…」
 背後を振り返ると手にある色と同じ色。
「千切れたんじゃなくて千切ったんだろ。仕方ねぇなぁ…」
 背後の赤が僕の手の中の赤を取り上げる。
 そして戯れにそれを僕の髪に飾った。

 たとえいつかこの花が枯れるとしても…貴方が僕から離れる日がくるとしても…。今はこうして貴方の色を持っていられるのが幸せ。




1
 
 なんだ、あれは。女に囲まれてニヤケ面しやがって。誘ったのはあいつの癖に。
 見てらんなくて店を出た。そのまま、早足にそこから遠ざかる。
 あいつはきっと、俺が出てきたことにすら気付いてねぇだろう。
 いいさ、それで。勝手にすれば、いい。街に流れるクリスマスソングは甘い恋を歌う。それがひどく滑稽に思えた。
 俺は一人だってのに。
 その歌さえ憎いと思う自分が更に滑稽だ。
 家の前の坂道。さしかかった所で、ぽつぽつと落ちてくるのは…雨か、自分の涙、か。
 クリスマスデコレーションを施した煌びやかな家々の灯りが視界に滲む。
 馬鹿らしい、何を期待してた?何がしたかった? いい加減にしろ。
 あいつと俺は結局、男同士。女になんざ適う訳ねぇことなんか最初っからわかってたこと。
 あいつはモテるしな、女に。
 それでも………。
 早足に歩いてた足が止まる。坂が急なせい、だ。こんなに苦しいのは。 あいつの声が、する。気のせい、だ。
「待てよ、待てってば!」
 急に腕をつかまれる。
 抱き寄せられる。
 走って追って来たのか、息が荒い。
「悪かった…」
 その一言で、頭に昇っていた血が、一気にさめた。




 いつものように出勤する。
 ホント、毎日思うんだが、ここってこれで稼げてるのかね?
 客は滅多に来ない。
 そんでも俺の給料は毎月ちゃんと振り込まれてんだよな…。
 世界の七不思議に入るんじゃね?

 今日はカウンターの上にオーナーからの手紙があった。

『本日は友人をお招きしてあります。先日3歳の誕生日を迎えた、保那さんという大事な友人ですので丁寧にお持て成しをお願いします』

 またオーナーの友人か…。誕生日を迎え………3歳?!
 ちょっと待て、3歳児がバーか?
 ありえねぇ……
 どうするよ……。

 しかし、考え込む時間は与えられなかった。
 カラン、と乾いたドアベルの音がしてドアが開く。
 俺は3歳の子供の顔があると思われる位置に視線を向けた。

「いらっしゃ……」

 俺の視線の位置には女性の腰。

「……いませ…」

 視線を上げると、おかっぱ頭の女が微笑んでいた。

「えっと、ほ…な、さん?」

 やすな、といいます。こんばんは。
 彼女はもう一度ニッコリと微笑むと中に入ってくる。

「えっと…オーナーが3歳って……」

 困惑顔の俺を楽しそうな視線で観察して、少しおどけたように笑って彼女…保那は言った。
 彼女に何歳になったの? って聞かれたから、3歳って答えたんですよ。もちろん、冗談で。まさか、本気にしました?
 い…いや、本気にはしてねぇけど、もしかして、ってこともあんだろ?
 もう、丁寧な接客用の言葉なんか吹き飛ぶほど動揺してた、なんて言えやしねぇ…。

「あ…どうぞ」

 入り口に立ったままの保那にようやく俺は目の前のスツールを勧める。
 彼女が座る瞬間に彼女の体臭に煙草の香りを感じて、コースターに並べて灰皿も置いた。
 灰皿に視線を向けて彼女は微笑み、バッグから煙草を取りだすと一本咥える。俺はそれへ火を差し出した。
 パチン、とジッポーの蓋が閉じられる音と、彼女の指先から立ち登る紫煙。
 どんなカクテルを作ろうか、とこの時になってようやく落ち着いて保那を見る事が出来た。

 あ、アルコールが飲めない、っていうことでなら私、子供かもしれないですね。
 笑いながら言う彼女に、俺はもし客が本当に3歳児だったら出そうと思っていたカクテルを作ることにした。

 カクテルピンにスライスレモンとマラスキーノチェリーを刺し、赤い液体の入ったグラスに飾る。

「シャーリー・テンプル、です」

 可愛い色。いただきます。
 彼女はそう言ってグラスを手にした。


「でさ、ホントは何歳?」

 思わず聞いちまった俺に保那はにっこりと笑って見せる。
 女性に歳を聞くなんて、悟浄、ホントにジゴロ?

 あ~…すまねぇ…つい…。
 苦笑して頭を掻く俺を保那は優しい目で見ていた。

 何かもういっぱい作ってもらえる? シェーカー振ってる悟浄が見たいな~。
 上目遣いでおねだりするように見上げられ、俺は少し悩む。
 ノンアルコールカクテルでシェーカー使うもの……なんかあったっけ?
 思いついて、俺はシェーカーを取った。

「ラバーズ・ドリーム。3歳で大人な誕生日の保那に。名前は大人、だろ?」

 片目を瞑って悪戯っぽく笑いながらサーブすると保那も楽しそうに笑った。
 自分用に、そのカクテルと似た色合いのエッグ・ビールを用意した。

「ハッピーバースディ、保那。保那にとっていい一年でありますように」

 軽くグラスをあわせて乾杯をすると、彼女の健康と幸せを祈ってグラスを空けた。






・シャーリー・テンプル グレナデンシロップ20ml、ジンジャーエール適量、スライスレモン1枚、マラスキーノチェリー1個 ステア

・ラバーズ・ドリーム レモンジュース20ml、砂糖2スプーン、卵1個、ジンジャーエール適量、スライスレモン1枚、マラスキーノチェリー1個 卵までをシェーク、その後ステア

・エッグ・ビール ビール1グラス、卵黄1個分 卵黄を潰しビールとステア

 サンタクロース?
 んなもん、いるわけねぇだろ~が。
 これだから、お子様ってのは………。



 多分、酔ってたんだと、思う。
 慣れねぇ、シャンパンなんつ~洒落た酒に、そして、野郎4人のなんつ~か、こそばしくなるような家庭的なパーティだか言うもんに。
 クリスマスなんてのは、酒場で飲んだくれて過ごすもんだと思ってた。ずっとそうしてきた、のになぁ。



 大体、サンタサンタって意味知って言ってんのかよ?
 聖なる、聖なる、って連呼してるだけじゃねぇか。
 へ?
 何、お前、サンタクロースの由来、知らねぇの?
 八戒、このちびっこに教えてやれよ。
 
 気にしなくていいですからね、悟空。
 サンタクロースはきっと悟空が欲しいものを持ってきてくれますよ。
 悟浄は昔から悪ガキだったから、サンタクロースからプレゼントをもらったことがないんですよ。



 プレゼント……か。
 貰ったさ。
 端の解けたようなマフラー。指先の薄くなった手袋…。
 クリスマスの朝、そんなもんが可愛らしいラッピングで枕元に置かれてた。
 兄貴のお下がり。兄貴がプレゼントを貰えない俺を気遣って置いてくれてたんだって最初からわかってた。
 近所のガキがクリスマスに来るサンタクロースの話をしてるのを俺は黙って聞いてた。
 そんなもの、いやしねぇんだって、心の中でいつも悪態ついてた。
 俺が欲しかったのは、ガキどもが欲しがってたようなおもちゃでもなきゃ、兄貴がくれた、暖かな衣類でもなかった。
 ただ…抱き締めてくれる…腕が、欲しいだけだったのに。
 そんなガキの小さな願いさえ叶えられないサンタクロースなんて…。



 そっか、悟浄はサンタクロースにプレゼント貰った事ねぇんだぁ~。
 じゃぁ、しょうがねぇよなぁ。
 俺さ、サンタクロースにいっぱい菓子貰うんだ。
 貰ったらみんなに分ける!
 悟浄にも、分けてやるからな。

 うるせぇよっ!
 じゃぁよ、聞くけど。
 お前、一人でいた長い間、一度でもサンタクロース、来たことあんのか?
 お前の願い、叶えてくれたこと、あんのかよ。



 一度口に出した事を撤回するのは、無理、だ。
 俺のその一言で悟空の表情が歪む。
 三蔵が俺を睨み、八戒の笑顔が凍った。
 取り繕おうとした言葉が咽喉から出て来ない。
 居たたまれなくなって、俺はそのまま家を、出た。


 五行山にいたのが500年なら、その500年目にあいつの願いは叶ったんだ。
 金髪に紫暗の瞳の坊主の姿のサンタクロースが来たんだろう。
 そして…ガキの頃、俺が求めていたもんは、その紫暗や黄金色、碧で来てた。
 気付いた日が、別れの日になるとは、な…。
 あいつらのあんな顔見たら、戻れねぇ………。


 セント・ニコラウス…あんたがホントにいるのなら…
 セント・ニコラウス…あんたがサンタクロースだと言うのなら…
 他には何も望まない…。
 俺の居場所を、もう一度、この手に………。


*** ** ***


「……じょう? 悟浄? 起きてください?」

 肩を揺すられる。
 徐々に意識が覚醒して自分が涙を流している事に気付く。

「大丈夫、ですか? どうか、しました?」

 心配そうに覗き込む碧に俺はゆっくりと笑って見せた。

「なんでも、ねぇよ」
「だったらいいんですけど…」

 しばらくまだ俺の様子を伺っているような八戒にもう一度、大丈夫だと言うと立ち上がる。
 冬の朝の空気が冷たくてぞくり、と震えた。

「リビングは暖かいですからね。あっちで…今日は働いてもらいますよ? 今夜、三蔵と悟空も一緒にクリスマスパーティ、やるんですから」

 ああ、そうだったっけ…。


 今夜は飲みすぎに注意しよう。
 そう誓った、クリスマスイブの朝。



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