くれないづきの見る夢は 紅い涙を流すこと 透明な血を流すこと 孤独にのまれず生きること
Category:NoiRouge
「でかい月だなぁ」
空を見上げると、澄んだ秋の空に大きな満月。
雲ひとつない空に煌々と輝いていた。
「珍しくもねぇだろ?」
俺はちらりと見上げただけで、手元の盃に視線を落とす。
なぜか、肴に用意されていた団子を一つつまむと、意に反して程よい塩気。
甘いかも、と覚悟してただけにそれはすごく美味かった。
「月見んの、初めてじゃねぇだろ?」
ずっと空を見上げたまま動かない捲簾が不思議だった。
「こういうの、中秋の名月、って言うんだろ? 俺のいた場所ではこんな綺麗な月、見た事ねぇかも…」
ため息でもつきそうな声で、捲簾がぽつり、と呟いた。
こいつがどこから来たのか、なんて聞いたことはないし、聞く気もねぇけど。季節の移り変わり一つ一つに感動する捲簾が可愛くて、月見しよう、って言葉につい、乗っちまった。
野郎二人で色気のねぇ話だ、とは思いつつ、こんな子供みてぇに喜ぶこいつを、他の誰にも見せたくなかったから。
捲簾の作ってくれた団子を肴に酒を飲みつつ、煙草に火を点ける。
「なぁ、月は逃げねぇし、どんなに見てたって手には入らねぇぞ? 座って飲もうぜ?」
俺のことなんかほったらかしで月に心を奪われている捲簾に声をかける。座っていた縁台から立ち上がって煙草の煙をその視線の前にわざとらしくふきかける。
それで我に返ったのか、捲簾がやっと俺を見た。
「なんだよ、悟浄。月に嫉妬でもしたか?」
笑いながら撫でてくる手がやっぱり好きだ。
月に嫉妬なんかしたって仕方ないのに。してたのか? その手が嬉しくて、捲簾が撫でやすいように、と腰を下ろした。
「月の兎も一匹だと寂しくて死んじまうのかねぇ?」
ひとしきり撫でて満足したのか、離れた手に俺から思わず不満そうな声が漏れると捲簾はもうひと撫でして、そんなことを言いだした。
「兎は性欲が強くてそんなこと言われるようになっただけ、って聞いたことあっけど?」
隣に座った捲簾の方を見もせずに俺は言った。
「知ってる。けどよ、それじゃまんま過ぎてムードねぇだろ?」
捲簾の持った盃に酒を注ぐ。
「そうだけど…。でもなぁ。あんた、それで俺を揶揄う気満々だったろ?」
盃の酒を一気に煽って、捲簾は意外そうに俺を見た。
「よくわかってんじゃねぇか」
そりゃ、わかる、っての。なんでだかわかんねぇけど、俺はこいつの考えてることが自分のことのようにわかることがある。気が合う、ってんじゃすまねぇくらい。シンクロ、って感じかね?
「でもよ、それも含めて言ってんだが、俺は」
「は?」
思わず絶句する。なんでそうなんだよっ。
「最近、俺と一緒に住むようになって落ち着いたみてぇだが、お前、夜毎にオンナとっかえひっかえしてたみてぇじゃねぇか。性欲も、かもしれねぇか、やっぱ、寂しいの、嫌だったんじゃねぇの?」
揶揄われた筈なのに。撫でてくる手が気持ち良かったから。反論できなかった。
「目も紅いしな…。兎だよ、やっぱお前は」
俺はもう何も言わず、団子をもう一つ取って口に運んだ。
塩気のあるはずのその団子は、ほのかに甘かった。
こうやって、捲簾と穏やかに過ごせる夜が、愛しいと思った。
どれだけの時間、俺たちはこうやっていられるのだろうか。
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夏風亭心太
酒、煙草が好き。
猫好き、爬虫類好き。でも、虫は全部駄目。
夜が好き。月が好き。雨の日が好き。
こんな奴ですが、よろしくお願いします。
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