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くれないづきの見る夢は 紅い涙を流すこと 透明な血を流すこと 孤独にのまれず生きること
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「なになに? 何が始まるんだ?」
「あ、悟空。貴方はいいと思うんですけどねぇ…。視力検査をしようと思いまして」
「視力検査?」
「んなモン調べてど~すんだよ」
「今度着く街、大きな眼鏡屋さんがあるらしいんですよ。僕、そろそろ新しいのが一つ必要ですし、三蔵も必要かなぁ、と思いまして。で、どうせなら、皆の視力を確認しておいて、必要なら一緒に作ってしまえばいいかなぁ、と」
「俺は必要ねぇ」
「でも三蔵? 最近、貴方の銃の命中率、下がってますよ? 普段からかけたほうがいいんじゃないんですか?」
「いらん」
「あ、俺、サングラス欲しいわ」
「必要ねぇな」
「つれないですねぇ、三蔵は。まぁ、悟空はしたことないんでしょう、こういうの。やってみます?」
「あ、うん。してみてぇ!」
「じゃぁ、これで片目を隠して、僕が指した○のどこが開いてるか答えてくださいね? 準備はいいですか?」
「うん、いつでもいいぜっ」
「じゃ、これは?」
「右!」
「これ」
「下! 右上! 左! 左下! 上!」
「すごいですねぇ、悟空。一番下まで見えましたよ?」
「へ? その下に書いてある字も見えるぞ? 桃源眼鏡店長安支店、って書いてあんだろ」
「え? この下の……これ、見えるんですか?」
「おう。全部見えるっ!」
「反対の目は……」
「こっちでも、その字、読める」
「悟空に眼鏡は必要ないみたいですねぇ…。じゃ、次は悟浄ですよ」
「へいへい、っと」
「じゃ、これは?」
「えっと…こっち?」
「これは?」
「んと…こっち。そっち、あっち、あ、こっち…」
「ちょっと悟浄…手首の運動ですか?」
「悟浄、右は箸持つ方で…」
「わかってんだよ、バカ猿!」
「わかってねぇじゃねぇか! 指で指して!」
「わかってっけど、慌てて出て来ねぇんだよっ!」
「…ホントにばかっぱ、だな…」
「ため息ついてんじゃねぇよっ!」
「仕方ないですねぇ…じゃぁ、悟浄の検査表は変えましょう…」
「八戒、他にも持ってんの?」
「ええ。これなら、大丈夫でしょう? 平仮名ですから」
「ん…」
「じゃ、改めて。これは?」
「さ」
「じゃ、これ」
「き」
「これは?」
「あ! い! し? て…?」
「おい、八戒、このバカに何を言わせる気だ?」
「ろ??? ん???」
「どうしました、悟浄?」
「いや…俺……なんか、言わされた?」
「おい悟空、行くぞ。こいつらといると馬鹿がうつる」
「へ? あ…うん。待ってよ、三蔵!」
「???? なんなんだ、あいつら」
「それは、僕の台詞なんですけどねぇ…。なんなんですか、貴方」
「へ? 俺?」
「ええ、貴方です。ほら、こっちに来て、最後の文字、確認してください?」
「ん? ……あ…ろ、じゃなくて、る、か…」
「まだ、わかりませんか?」
「何が?」
「ホント、鈍いですねぇ…。ねぇ、悟浄…僕は貴方を愛してますよ? だから、貴方も、ね? 僕がさっき指した文字を順番に正しく読んでくださいよ」
「…………あ…あ~ぁ……。言わせんな、バカ…」
「真っ赤ですね、悟浄…。そういう貴方も好きですけど。読みますか? それとも、キスして欲しいですか?」
「嬉しそうに言ってんじゃねぇ! アイシテル! これで満足だろうがよっ!」
「はい」
「嬉しそうにしやがって。ったく、この知能犯が!」
「貴方はどうしようもない鈍感ですね。そういうところも大好きですよ」
「うっせ~よっ!」



終わっときます(^^;
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 八戒が用意したのは、笹だった。
「七夕ですからね」
 そう言って渡された短冊。
「願いを書いてくださいね? 飾りますから。悟空、短冊を書いたら、他の飾りを作るの手伝って貰えます?」
 楽しそうな八戒に、誰も何も言えなかった。
 悟空は楽しそうにしている。
 三蔵は相変わらず、苦虫を噛み潰したような顔で、押し付けられた短冊を見ていた。
 俺は……。

 八戒と悟空が笹を飾ってゆく。
 三蔵は興味なさそうに新聞に目を落としている。
 俺は手持ち無沙汰に短冊を見ていた。
「さ、三蔵も悟浄も。短冊、飾ってくださいね?」
 嬉しそうに綺麗に飾られた笹を満足そうに眺めながら八戒が声をかけてきた。
 少し考えて、俺はペンを取った。


『来年も一緒に過ごせるように』





 俺が書いたその短冊を覗き込んで、八戒がくすり、と笑う。
「来年だけでいいんですか?」
 その笑みが綺麗で。
 俺は八戒の短冊を見た。
『旅の目的が達成されますように』
 几帳面な字で書かれてあったその裏に。
『いつまでも紅と寄り添っていられますように』
 少し小さく控え目な字でそう書かれてあった。
 笹飾りの陰に隠れるように、三蔵と悟空の目を盗んで、八戒にキスをした。











「まだ来年もこの馬鹿げた旅を続けよう、ってのかこのバカッパが」
 三蔵が俺の短冊を見てバカにしたように笑う。
「なっ! 誰もそんなこと言ってねぇだろうが!」
「じゃ、悟空と一緒か。ガキだな」
 悟空の短冊を見ると『ずっとみんなでいられますように』と書いてある。
「そうでも、ねぇ…」
 わかってるくせに。こいつはいつだってそう、だ。
 俺が一緒にいたいのは。来年もこうしていたいのは…。
「俺はてめぇと一緒に歩いて行くつもりはねぇ。さっさと目的を成し遂げて、平穏な生活がしてぇだけだ。それにてめぇが付き合うってんなら止めはしねぇが、な。追いかけてきやがれ」
 短冊を笹に飾りながら、三蔵がぼそり、と言った。
「願い、なんざ星に頼むもんじゃねぇ。自分で成し遂げるもんだ」
 三蔵の短冊に書かれていたのは願い、ではなかった。ただ一言、『西へ』とあった。
 今のこいつにはそれがすべてなんだろう。そして、その後、は?
「それでも、一年に一度ぐれぇ付き合ってやるさ。てめぇの願いにも、な」
 織姫と彦星のように。それが喩え、一年に一回の逢瀬になってしまったとしても。
 追いかけてもいいんだと許された気がして、俺は少し微笑んで、短冊を笹に飾った。





 いつものように二人で出かける酒場に。笹飾りが置いてあった。
「何、これ?」
 俺がそれを物珍しげに見ていると、捲簾が笑う。
「悟浄、お前、七夕、知らないのかよ?」
 知らないわけじゃない。ただ、そういう行事をしたことがないだけで。
「書いてみるか? 願い事」
 バーのマスターが短冊とペンを差し出してきた。
 願い事なんざ、したこともなかったっけ。願うことも、思いつかねぇし。
「しっかし、あんたら仲いいねぇ。最初にあんだけ殴りあってたってのに」
 マスターが捲簾に向かって話し掛けている。
 そう、殴りあった。俺が酔って絡んだらしい。そして、結局怪我したのも自分で。
 なのに、気付いたら俺は捲簾と一緒に暮らすようになっていた。
『来年も一緒に過ごせるように』
 気が付くとそんなことを書いていた。
 そう、捲簾の傍が居心地が良かったんだ。
 捲簾の手元を見る。奴の手の中にも短冊が一枚。何も書かれていなかった。
 俺の短冊を見ると、捲簾はどこか寂しそうな表情をした。
「ったく、ガキだなぁ。野郎が二人でつるんで、何が楽しいってんだよ」
 その表情は一瞬で、俺の頭をわしゃわしゃとやる。俺はその手が好きだった。
「……いいんだよ、ガキだって…」
 ぼそり、と呟く俺に、捲簾はもう一度黙って頭を撫でた。
「あんたの願いはなんなんだよ?」
 白紙のままの短冊に俺は視線を向ける。
「俺の…願い、か…そうだな…。願いは……ここに書けるほど、ちっちゃくねぇのよ」
 意味深に笑って、捲簾は俺の手から取った短冊と一緒に自分の白紙の短冊も飾った。



 バーのドアを開けると、笹飾りがあった。
 去年も一昨年も見たが、何度見ても違和感がある。
「あ、笹飾りですね。もう、七夕なんですねぇ」
 八戒がどこか楽しそうに言う。
「ねぇ、悟浄? 願い事、書きませんか?」
 マスターに短冊とペンを借りて八戒が嬉しそうだ。
「あ~…俺はいいわ」
 来年も一緒に過ごせるように。
 その願いが叶わなかったから。
 星に願いを、なんて……。
 行き場のない視線が、店内を彷徨う。
 無意識に探すのは、あの、あったかくて大きな手。
 いた。
 いるはずなどないのに。
 俺に向かって歩いてくるのは間違いなく捲簾で。
 俺の隣に立つと、あのときのように、頭をわしゃわしゃとやった。
「あ…あの…」
 捲簾と俺の様子に驚いたように、八戒が声を上げる。
 それへ捲簾は視線をまっすぐに向けるとゆっくりと全身を見てから頭を下げた。
 つられたように八戒も頭を下げる。
「見つけたじゃねぇか。ちゃんと」
 捲簾は、何を、とは言わない。それでも、俺にはわかった。
「俺も見つけたぜ」
 にやり、と笑うその顔が、昔と変わっていなくて。
 お互いに見つけたいものを見つけたのだ、と。
 俺は、マスターに短冊とペンを要求した。
『来年も一緒にすごせるように』
 捲簾が自分の道を見つけて進んだのなら。
 俺も、自分の道を進もうと、決心がついた。





「なぁ、お前の名前のさ、八つの戒めってなんなんだ?」
 それは単なる興味だった。
 一緒に暮らすようになって間もない頃のことだった。
「そうですねぇ…。仏教で言うところの…不殺生戒、不偸盗戒、不邪淫戒、不妄語戒、不飲酒戒、不著香華瓔珞香油塗身戒、不作唱技楽故往観聴戒、不過中食戒の八つですね」
 すらすらと答えるそれに、俺は異国の言葉を聞いているのかと勘違いしちまいそうだった。
「もっと、わかりやすく教えてくんねぇ?」
 俺の顔にはきっと、クェッションマークが浮かんでいたんだろう、八戒は苦笑しながら答えてくれた。
「生き物を殺してはいけない、他人のものを盗んではいけない、自分の配偶者以外のものと交わってはいけない、嘘をついてはいけない、酒を飲んではいけない、身を飾り立ててはいけない、故意に芸術を成したり鑑賞したりしない、正午から日の出まで固形物を口にしない。この八つですね。もっとも、今の生活から、最後のものは守れそうにありませんが」
 至極真面目な顔でそう答える八戒に。
「他は、守れそう?」
 それも素朴な疑問だった。
「さぁ、どうでしょうね…」
 八戒は、俺の問いにとても綺麗な笑顔を浮かべて、答えた。


「なぁ…お前の名前の八つの戒めってさ…」
 ぼんやりと天井を見上げながらふと口をついて出る。
「守れてる?」
 隣の八戒の顔を見つめる。
「さぁ…どうでしょうね…。旅に出て、たくさん殺しましたし…必要ならば盗むことも…嘘もつきますしね。読書も芸術ですし、飲酒もしてます…」
 そこで言葉を切ると、自分の耳のカフスに指を這わせながら、一糸纏わぬ裸体で俺に擦り寄る。
「ねぇ、悟浄? 貴方は、何を悟りました? 貴方は穢れてないですか? 清らか、ですか? 名前なんてね…所詮はそれだけのもの、なんですよ…ねぇ?」
 そして…素足で俺の足を絡め取り、熟れ過ぎたような夜の続きをねだった。



 悟浄は柔軟に現状に適応した。
 薬で眠って目覚め、最初は噛み付かんばかりの勢いだったが、まともに立ち上がれず、一人で便所も行けないとわかると、素直に俺の手を借りた。
「尿瓶でも用意してやろうか?」
 と、俺がからかったのが原因だったとしても、言う事を聞いてくれるようになって世話してやんのも楽になった。
 左膝を固定された悟浄は下着姿で、それが滑稽で見るたびに笑ってしまうが、最初は一々睨んできたそれにも反応を示さなくなってしまったのは、少し残念だったが。
 怪我をさせたのが自分とはいえ、殴りかかって来た相手を甲斐甲斐しく世話してる俺自身に苦笑する。
「ん? なんだ?」
 俺が用意してやった飯を俺のベッドを占拠したまま食っていた悟浄が不思議そうに見上げたのに、なんでもねぇよ、と軽く頭を撫でてやると急に興味を失ったように飯に戻った。

 痛むのか、鎮痛剤のせいなのか、どこかぼんやりした表情のままの悟浄の世話を続ける。
 そして、気付いた。こいつはペットみてぇだ、と。
 犬みてぇで、でも、猫みてぇで。見てて、飽きない。
 そして…強がってるわりにはやっぱりガキなんだと、思った。構われるのが嫌いじゃないらしい。
「ここ、居心地いいわ。足、暫く治んなくてもいいかも」
 そんなことを言い出す悟浄に俺は。
「治ったって別に追い出しゃしねぇよ。居付いたって構わねぇんだぞ」
 思わずそんな風に言っていた。
 正直言って、一人気ままな下界生活にも少し飽きていたんだと思う。こいつといたら、少しは刺激的な滞在になるんじゃないか、と思ってしまったのだ。

 それでも、結局医者が言ったより二日遅れて、膝の固定も外され自由に動けるようになると悟浄は嬉しそうだった。
 まぁ、出て行くんだろうな、とその姿を見ていると、悟浄は俺の方を向いて唐突に言いやがったんだ。
「なぁ、捲簾。あとどんだけこの街にいるんだ? まだ暫くいるんなら、俺んち来いよ」
と。

 色んな街をふらふらとして、ホテルを転々としてた俺だったが、その一言で、帰るまでの時間を、この街で、悟浄と一緒に過ごそうと、決めた。


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