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くれないづきの見る夢は 紅い涙を流すこと 透明な血を流すこと 孤独にのまれず生きること
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 花屋の店先に同じ花がたくさん並んでいた。
 5月の第二日曜日。母の日。
 ピンクに黄色に白、オレンジ。
 けれど、一番多いのは、赤、で。
 悟浄は意識してそこから視線を逸らしているようだった。

 ああ、やっぱりこの人はまだ…。

 好きになった、と言ったのに。
 自分の色だから。八戒が綺麗だと言うから。
 好きになった、と。
 悟浄にとって赤は、やはり苦手な色、なのだ。

「綺麗ですね、あの色。買って帰りませんか?」

 悟浄の肩がぴくり、と震える。立ち止まって、わざと八戒にも聞こえるようにため息を吐いた。

「…なんで、よ? 俺ら、親なんかいねぇじゃん。買って帰ってど~すんのよ」

 心なしか悟浄の声が怒ったように聞こえた。
 それでも、花屋にその花を買いに行く八戒を止めようとはしなかった。

 ダメなんだよ、あの花は。
 この髪の色も瞳の色も。あいつがこれに贖罪を求めるってんならいいと思った。
 俺も同じこと思ってたから。
 ちび猿に言われたことも、生臭坊主に言われたことも。
 全部ひっくるめて、これが俺なんだと思ったから。
 でも、あの花は……。
 俺が差し出したあの花を、アノヒトは、悲しそうに苦しそうに、それでも笑って受け取ってくれた。
 あの花は……最初で最後のアノヒトとの優しい思い出、だから…。

 戻って来た八戒の手には、ほとんど蕾ばかりの花束だった。
 それをすごく大切そうに抱えている。
 咲くのを楽しみにしているように見えるその顔は、どこか幼く、穏やかだった。

「僕は、母の日の花を贈ったことはないんです。贈る相手もいませんでしたから。でもね…。いえ、だから、です。この花は欲しかったんですよ。悟浄、貴方色だから…」

 愛おしそうに咲く前の花をまっすぐに見つめる八戒の横顔と、咲く前のその花を見ていて、悟浄は、気付いた。
 赤い花の下には………。

 そうか…。
 俺は、こいつに咲かせて貰ってるんだ。
 咲くまで、包んでくれているのは、こいつ。
 いつか、この記憶と共に大輪の花を咲かせたい。

「僕と貴方、みたいでしょう?」

 悟浄の心を読んだかのように八戒が言う。

「僕、貴方を支えることが出来ていますか?」

 まっすぐに見つめられて、悟浄は優しく微笑んだ。
 それへ、八戒も微笑み返す。
 自然に二人は手を繋ぎ、家への道を辿った。

 花は咲くことで新しい花を咲かせるための葉や茎を伸ばすんです。
 貴方が咲いてくれるから、僕もあるんですよ、悟浄……。


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 たまに、来る。
 理由なんざ、ねぇ。
 ただ……なんも感じなくなる、そんな日。

 目が覚めて、ぼんやりしてた。
 起き上がるのも面倒で見上げる天井は、ざらざらしてた。
 ダルい身体をそれでも叱責して無理矢理起き上がる。
 鏡を見なくてもわかる。今の俺は、表情が、ない。
 こんな面、あいつらには見せらんねぇ。
 
 宿に備え付けの小さなバスルームに入る。
 意識して鏡を見ないようにして、頭から冷たいシャワーを浴びた。
 身体が芯まで冷える。それでも、やめない。
 まだ、だ。まだ、俺は笑えねぇ。
 あいつらに見せられる面には、なれねぇ。

 部屋のドアをノックする音が、した。
 返事をしないでいるとドアの開く気配。
「悟浄? シャワー浴びているんですか? 早くしてくださいね? 三蔵が出発するって言ってますよ?」
 八戒の声に、俺はただ、ああ、とだけ答える。
 もしこれでホントに置いて行かれたらそれはそれでいいか、と思う。
 元々、誰かとツルむのは好きじゃねぇ。

 八戒が部屋を出た気配がして暫くしてから、俺はやっとシャワーを止める。
 濡れた身体のまま洗面台の鏡の前に立った。
 紅い髪が濡れて、べったりと顔に張り付いている。
 それはまるで血のようで。
 滴り落ちる水滴が、紅く染められているようで。
 鏡の向こうから、俺を睨んでる奴が、いた。

「てめぇ、何睨んでやがる」
 答えが返るわけもない。
 そこにあるのは俺の虚像。
 笑うことを忘れた俺は、どこにでもいるチンピラとかわんなかった。
『何、しけた面してんの、お前』
 誰かが、俺に声をかけた、気がした。
 誰もいないはずの狭いバスルームを見回す。
『どこ見てんだよ、ここよ、ココ』
 ふ、と真正面の鏡を見るとそこには……。
『そ。俺だよ、俺』
 ありえねぇ。鏡の虚像が笑ってやがる。
 笑った俺ってこんな面、なのか…。ガキ、みてぇ。
『何、むっずかしい顔してんだよ。バカの考え休むに似たり、って諺、知ってる?』
 なんだ、これ。
『悩んだってしょうがねぇだろ。お前はお前だ。笑ってようと怒ってようと…狂おうと、な。もっと、仲間ってヤツを信じろよ』
 確信をついて来やがる。

 そう、だ。
 あいつらといることが。
 自分の居場所があることが。
 苦しかったんだ、俺は。
 自分を認めて貰えることが。
 俺を、見てくれる奴がいることが。
 生きてる、ことが。

『ぶつけようもねぇ感情だもんな、それ。口に出したって、一笑されるだけだし。けどさ、わかってくれんじゃねぇ? あいつらなら』
 わかってもらえなくても。
 俺は鏡を見て、笑顔を貼り付ける。
『うっそくせぇの。でも、それで自分誤魔化せるんなら、いいんじゃね?』
 鏡の俺も不自然な笑顔で。
 ま、こんなもんか。仕方ねぇ。

 この街に入る前に咲いてた紅い花。
 ガキの頃、アノヒトに摘んで帰って、綺麗だ、と言ってもらえた花。
 俺に叩きつけられて、ぐしゃぐしゃになった、花。
 散った、花。アノヒトの命。

「やっと出て来ましたね」
 部屋を出ると、八戒がいた。俺の顔を覗き込むとちょっと心配そうな顔をして、それでも何も見なかったかのように背中を軽く叩かれる。
「行きますよ」

 街を出るのは入って来たのと同じ道。
 せめて、花が散るまで、出たくなかった、などと。
 目を閉じて過ぎても、その香りは、アノヒトの血の匂いが記憶から呼び起こされる。
 たくさんの血の匂いを嗅いできたのに、アノヒトの血の匂いだけは特別で。
 それなら、目に焼きつけようとまっすぐに、行く先を、見つめた。

 花が、なかった。
 たった一晩で、散った?
 そんなわけ、ねぇ。

 ったく、こいつらは……。
 ホント、わかってくれてんだな…。

 不自然で不器用な笑顔が、鏡の中の俺が見せてた、ガキっぽい、だけどキライじゃねぇ、ホントの笑顔になったのがわかった。
 
 あいつらといることが。
 自分の居場所があることが。
 自分を認めて貰えることが。
 俺を、見てくれる奴がいることが。
 生きてる、ことが。
 狂おしいほどに。
 嬉しい。





 藤の花が咲いていた。
 この花を見ると、あの女を思い出す……。





 鷭里とつるんで暫く経ったあの日は、雨、だった。
 いつもの喧嘩に明け暮れた。
 その日も喧嘩には勝ったけど、俺も鷭里も下手打っちまって、傷だらけで。
 ねぐらに着いてお互いを見やると、笑えるぐれぇにびしょ濡れで泥んこで血に塗れてた。
 高揚した気分のまま、二人で一緒にバスルームに行って。脱いだ服はゴミ箱に突っ込んで、熱い湯を浴びた。
「なぁ、悟浄、お前さぁ…」
 急に鷭里が声をかけてきて、背後から抱きつかれる。
 あまりに急なことに俺は動きを止めてしまった。
「な…何、しやがるっ!」
 鷭里の手が俺のに伸びてきて、俺は思いっきり鳩尾狙って肘を突き出す。
 それは予想された反撃だったのか、奴はそれを軽々と空いた方の手で受け止めると俺のをその手の中に納めてしまった。
「て、めっ! 頭、沸いてんのかっ!」
「どーだろーな。いいんじゃね? たまには」
 笑いを含んだ声で言われ、俺は完全に頭に血が昇った。
 つるんで喧嘩に明け暮れ、酒を飲み、煙草を吸い…奴は喧嘩に強い俺と組んで街を闊歩し、俺は全部忘れさせてくれる怠惰なこの毎日が楽だから、一緒にいる。それだけの関係。
 なのに。
 鷭里の手は俺のを扱き上げる。俺は抵抗しようと暴れるが、急所をしっかり握られていてはできることなんざたかが知れてる。
 結局俺は、鷭里の手の中に果ててしまった。
「は…はぁ……一体何のつもりだ、てめぇ……」
 思わすその場に座りこんだ俺は鷭里を睨み付けるように見上げた。
「お前さ、ちゃんとヌイてる? 最近のお前はよ、なんつーか、ブレてんだよな、喧嘩に。んで、タマッてんじゃねぇかと思って、手伝ってやったんじゃん。つか……」
 急にニヤニヤとイヤらしい笑いを浮かべる。
「お前、オンナとシたことねぇの? 俺の…ヤローの手コキで簡単にイッちまうなんてよ」
「う…うるせぇ!」
 んなもんにどう反応しろ、ってんだ。さらに睨み付けてやると、鷭里は楽しそうに笑った。
「図星、だな。よし、明日はオンナんとこ、連れてってやっか。ドーテー君なんてモテねぇぞ? さっさと筆下ろししちまえ?」
 兄貴然としたふざけた真顔で俺の頭を軽く叩くと、鷭里は一人でさっさとバスルームから出て行ってしまった。
 ったく…どーしろ、ってんだ……。


 俺はオンナが怖かった。
 夜毎にあのヒトが兄貴に…爾燕に抱かれて上げる嬌声が……。
 それが何の声か…わかりたくなかった。
 俺の知ってるオンナはあのヒトだけで…あのヒトが俺を見る目が…オンナが俺を見る目のすべてだった。
 虫けらでも見るような、目。
 憎いものを見る、目。
 憎悪の感情に支配された、目。
 悲しい、目。
 苦しい、目。
 そして……死人の……目。
 オンナが俺に向ける目は、きっと…。
 鷭里がオンナを連れてねぐらに帰って来ると、俺は目をあわせないようにした。
 あのヒトが俺に向けた視線のどれかを見てしまうのが怖かった、から。
 鷭里がオンナと部屋に引っ込むと、でかけるようにした。
 あのヒトの嬌声を思い出すのがイヤだった、から。
 そんな俺が、オンナと、だって……?
 そんなの、無理だ…。


 鷭里には…いや、誰にも…オンナが怖い、なんて言ったことはねぇ。
 言うつもりもねぇし、知られたくもなかった。
 だから結局、誘われるまま、奴の行きつけだという娼館に来ていた。
「……つ~わけで、こいつさ。まっすぐにオンナの顔も見られねぇぐれぇ初心な奴だけどよ、よろしく頼むわ、藤華(とうか)」
 下を向いたままの俺の視界の中にすらり、と細くて綺麗な指をした手が差し出された。
「行きましょう?」
 耳元で囁かれる声はすげー穏やかで。
 あのヒトの興奮したような声とあの嬌声しか知らない俺には新鮮だった。
 ゆっくりと顔を上げると、名前のままに薄紫に染められた髪の優しい顔があった。
 そして、俺の知らない、優しい目をしてた。


 オンナはあのヒトだけじゃ、なかった。
 鷭里が紹介してくれたオンナはずっと優しい目をしてて、優しい声をしてて…。
 記憶の彼方に消えてしまった、ずっと昔の…あのヒトではない、母親の胸に抱かれるようで。
 柔らかくて、あったかくて…幸せな気分、ってやつを存分に味わった。





 藤の花が咲いてた。
 この花を見るとあの女を思い出す。
 俺の初めてのオンナ。
 藤華、という名の、優しい娼婦のことを…。



 永い間、待ってた気がする。
 何を?
 それはわからないけど。
 ただ、その笑顔が見たかった。
 覚えてるのは笑顔だけ。
 瞳の色や髪の色、肌の色、そんな詳しいことは何ひとつわからないけど。
 笑顔だけ、覚えてる…。
 あ、もう一個覚えてた。
 この耳たぶの食感。
【「食感」「詳しい」「永い」】


 苦しんで悲しんで。
 薄っすらと目に涙さえ浮かべながら。
 それでもあいつは弱音の一つ吐くわけでもなく。
 不殺生なんざくそくらえだ、と思いながら、今日もその背中を追う。
 折れそうなのに折れない、あいつの心は、性格は…手を伸ばしても掴めそうで掴めない。
【「薄い」「弱音」「性格」】



 伸びる影に顔を上げる。
 あの人の色の空が僕を見下ろしていた。
 もう、そんな時刻なのか…。
 買い物袋を抱えなおして早足になる。
 今夜は出かけないと言っていたっけ、あの人。
 そろそろ咲き始めた花。
 もう、忘れたかな、あの人は。
 この花の下で酒宴をしようとした約束。
 今夜辺り…
【「咲く」「忘れた」「時刻」】


 まだ夜は冷える。
 そんな中、雨が、降った。
 冷たい、雨が。
 それはあいつの涙なのかもしれない、と思う。
 自分の肩を抱き締めて震えるあいつ。
 ろうそくの明かりに光る頬を伝う涙を黙って拭った。
 寒い訳じゃないんです…ここが…。
 胸を押さえるその身体を包みこんだ。
【「ろうそく」「拭う」「寒い」】


 震える肩を見て見ないふり。
 どんな顔してるのか想像はつくけど、見られたくねぇんだろうな、後向いたまんまでさ。
 いいぜ、それで。
 溺れちまえよ、俺に。
 心を閉ざすな。
 古い記憶なんか、封印しちまえ。
 ただ、快楽に溺れるその紫の瞳が、見てぇ。
【「後」「閉ざす」「古い」】


 彼女を失って、自分が見えなくなって。
 ぽっかりと胸に穴が空いた。
 それでも僕は呼吸をしてて。
 それが不思議で仕方なかった。
 貴方に逢うまでは。
 貴方は何も言わず、いつも僕の傍に居てくれる。
 忘れられないけど、乗り越えられそうにないけど。
 それでも乗り切る力をくれる。
【「胸」「空く」「乗り切る」】



 キてごらん?
 モット奥まで。
 イヤがったってワカルんだよ、ボクには。
 だってさ、離したがらないじゃナイ、ボクのコト。
 イイよ、ドコまでも一緒にイこうか?
 キミのすべてを搾り取ってあげる。
 その、心も身体も………命も。
【「奥」「離す」「取る」】


 手を繋ごうとしたら避けられた。
 なんで避けんだよっ。
 怒ったように言うと、困った用な笑顔を向けられた。
 すみません、でもね…。
 伸ばされた手を握ろうとしたら、ビリッってしたんだ。
 静電気ですよ。ちょっと精密な機械持っていたので……。
 悲しそうに手の中の時計を見つめた。
【「電気」「手」「時計」】



 お前と二人、櫻の下で。
 ゆっくりとした時間が過ぎる。
 こんなに傍にいるのに。
 お前の心はいつも空虚で。
 俺の言葉はただ、素通りするだけで。
 それでも優しく髪を梳き、頬に口づけ。
 いつかお前がそれに驚いて、俺の言動すべてにかまえてくれるのを望みながら。


 突然髪を触れられた感触にどきりとし。
 そして頬に貴方の唇。
 なにも感じないように。
 ポーカーフェイス。
 こうやって自分のココロを偽るのは、慣れた。
 このまま感情のまま流されていけたら楽なんだろうなぁ。
 そう頭のどこかで思いながら。
 流れていく雲をぼんやりと見上げた。


 なぁ、お前の心はどこにあんの?
 どこに行っちまったんだ?
 俺を見てよ。
 こうやっているだけじゃ物足りない。
 イヤなら殴ったっていいんだぜ?
 こうやって空虚なお前よりずっといいんだから、さ。
 髪についた花びらを一枚、戯れに唇で摘んで食べた。



 はっきりしない花曇りの空に投げ捨てた僕のココロ。
 見失って消えた。
 そのまま帰ってこなくてもいい。
 所詮僕という空虚な器に入れるべきココロなんてどこにもない。
 世界は灰色に染まる。
 貴方の唇に摘まれた花弁。
 妙に艶かしくて。
 なぜかそこだけ鮮やかな色に彩られていた。




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