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くれないづきの見る夢は 紅い涙を流すこと 透明な血を流すこと 孤独にのまれず生きること
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 宿の自室に大してねぇ荷物を置く。

 久しぶりに大きな街だった。
 夜遅くに到着して、宿を決めて飯食って…それぞれが割り当てられた部屋に引っ込んだ。

 シャワーを浴びて二日ほど続いた野宿の汚れを落とすと、俺はでかける準備をする。
 こういう大きな街の賭場は実入りがいい。
 三蔵の持ってるカードが使えねぇような小さな村に到着した時のために、大きな街に入ると遊びじゃなく賭場に出掛けるのは、俺の仕事みてぇなもんだ。

 出掛けようとすると、ノックの音がする。
 上着を羽織りながら声をかけると、八戒だった。

「ん? なんだ?」
「出掛けるんですね?」

 そう言う八戒もどこかへ出掛けるかのような恰好だった。

「ああ…。稼いどいたほうがいいんだろ?」
「僕も行きますよ」

 そりゃ、俺よりも賭け事には強い八戒だ、一緒に行けば実入りもさらにいいだろう。
 けど、宿に泊まれる日には、こいつには色々とすることがあるはずだった。
 そうでなくても、毎日運転で疲れも溜まっているはずだ、俺につきあって出掛けるぐれぇなら休んでほしいと思う。

「何? 俺の腕が信じらんねぇの?」
「そうじゃありませんよ。ただ…」

 歯切れの悪い物言いに俺は首を傾げる。
 なんだってんだ?

「今日は、悟浄、誕生日じゃないですか」

 誕生日?
 すっかり忘れてた。
 好む好まざるに関わらず…俺がこの世に存在を始めた日…。
 めでたいなんざ、思ったことはねぇ。
 喜びも悲しみも…23年前のこの日から始まった。
 喜びなんざ、数えるほどしか経験したことねぇし…ガキの頃は祝ってもらった記憶なんざねぇ。
 顔も覚えてねぇ、俺を置いてさっさと死んじまった両親は、それでも、俺が生まれたことを喜んでくれたのだろうか?
 俺が生まれさえしなけりゃ、アノヒト達は死ななかった…死なずにすんだんじゃねぇの?

「それがどうしたっての? んなもん、関係ねぇじゃん」

 前にもこいつには言ったはずだ、誕生日なんざ祝ってくれるな、と…。

 それでも…と、八戒は言う。

「貴方がいなければ、僕は今、ここに存在していませんから」

 この言葉に俺は弱い。
 こいつを気まぐれで拾ってから…俺はこいつのペースに巻き込まれ、結局、こいつの事を大事なんだと認識させられる。

 今日も…

「悟浄、生まれてきてくれて、僕を助けてくれて…ありがとうございます」

 ケーキよりも甘い言葉でこいつは毎年、俺を祝ってくれる。


 ガキの頃に望んでいた親愛の情をもってなされる抱擁は、どんなプレゼントよりも甘くて切なくて…暖かかった。



 二人で賭場に出掛け、大勝ちしたのは、言うまでもねぇよな?






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「経文を寄越せ、三蔵っ!」

 なんつ~か、いっつもワンパターンな登場の仕方。
 今日のは…ざっと50人か…。

 悟空は如意棒を片手にジープから飛び出して行く。

 ったく、団体で来たって割引きはねぇ、っつ~の。
 『経文奪還バスツアー』でも組んでんのかね、こいつら…。

 俺も悟空を追うようにしてジープから飛び降りた。
 連中の真ん中に飛び込みながら右手を伸ばし、錫月杖を取りだす。
 あの寺も、変な宝物を封印してたもんだぜ…。

 いつの頃からか…多分この旅を始めるようになってからだろう…しっくりと馴染むようになった俺のこの得物。
 街にいる頃にゃ、こんなもん、必要なかったからな。
 自分の手足が武器だった。
 それで十分だったし、相手を殴る時に感じる痛み、蹴り飛ばす時に感じる衝撃に、自分が生きているんだと思い、自分が誰かを傷つけているんだと意識することが出来た。
 相手が妖怪とは言え、俺らの邪魔をするやつらとは言え、殺すことを厭わなくなってる自分が怖ぇと思う。

 悟空はあいつ自身の得物と同じぐれぇ、まっすぐだ。
 自分の…いや、三蔵の邪魔をするものは、悪だと割り切ってる。

 あれくれぇ、俺もまっすぐになれりゃ、楽なんだろうけどな。
 まぁ、自在に曲がる鎖を秘めたこの得物と同じぐらい、屈折してんのかもな…。

 三蔵の銃。昇霊銃だと言う。けど、少なくとも弾はどこにでもあるもんだし…銃自体にも特に何かがあるわけでもなさそうだ。
 自分をいつでもゲームオーバーに出来るために手にした銃だと聞いた事がある。
 だとしたら、ただの銃かもしれねぇ…。
 撃ち出される弾は…あいつの念とやらが込められてるんだろうな。
 大量に撃たせたくねぇと思う。
 もう、自分を殺そうとは思ってねぇとは思うけど…命を削ってるように見える、そんな戦い方をする三蔵。

 八戒の戦いは、基本、体術、な筈だ。
 いつの間に憶えたのか…気孔、なんつ~の。
 気がついたら出来てた、って…何者なんだか…。
 これも…自分の命を削って使う業だと思う。
 他人の怪我を治したり、シールドを張ったり、と重宝はするんだが、その後の八戒の疲れ具合を見るのはどうも、忍びねぇ。


「悟浄っ!」

 俺のすぐ横にいた妖怪が八戒の気孔で吹っ飛ばされる。
 三蔵のすぐそばで、いつもペアのように戦う八戒を見つける。
 三蔵が銃弾を装填する時に防御するためだ。

 鎖鎌が戻って来ると俺は悟空に声をかけた。

 三蔵と八戒の傍に戻る。
 敵の人数が減ってくると、俺や悟空に三蔵や八戒の流れ弾や跳弾が当たる可能性があるから、だ。
 三蔵が経文を持っている以上、近づく敵が多いのも事実。あいつの傍にいた方が、効率がいい、ってのもある。

「何、ぼさっとしてやがった」
「戦闘中に、どっかのお嬢さんのことでも思いだしていたんですか? あんな近くに敵がいるのに気付かないなんて…」

 傍に戻るとそんな風に言葉が飛んでくる。
 その言葉にほっとする。
 こいつらが疲れてねぇのがわかるから。

「あ~…悪ぃ」

 何を考えてたのかなんて言わない方がいいだろう…。まぁ、言う気もねぇが…。

 敵はあと、8人。

 悟空の「腹減った~」って一言で、この戦闘は終わる。








 嵐だった。

 強い風の中、到着した村に一軒だけの宿。
 なんとかそれぞれが個室を確保し、夕飯もすんでそれぞれが自室に引き上げたあと、雨が降ってきた。

 それは、それまでの風と相俟って、横殴りの雨になり、部屋の窓を叩く。
 さすがに、外に出る気もしねぇから、部屋で持ち込んだ酒を飲みながら、カーテンも閉めずにずっとその雨を見てた。

 夜中を過ぎても雨風は止まず、ますます激しくなる。
 こういう天気も嫌いじゃねぇ。

 回りの音が何も聞こえねぇ。
 自分だけが世界に取り残されてんじゃねぇか、って不安にもなる。
 けど、その心の揺らぎをどこかで楽しみ、心地好いと感じてる俺がいる。
 タバコの煙に白んだ空気、酒の酔いに思考は空回り。

 一人だけの世界を楽しんでると、遠慮がちにドアをノックする音が聞こえた。

 なんだ、こんな夜中に…

 面倒で、立ち上がりもせず、返事をするとおずおずと悟空が入って来た。

「なぁ~んだ……」

 バカ猿、と続けようとしてその言葉を飲み込む。
 様子が少し、おかしかった。

「どうした? 悟空?」
「なぁ…悟浄? ここで寝ていい、か?」

 いつも無駄に元気なこいつが珍しいこともあったもんだ。
 嵐の夜は………
 そういやこいつ、雪の日が苦手だったっけ…嵐も…苦手なのかもしんねぇよなぁ。
 俺に一人を楽しむ余裕があんのは、なんだかんだ言って、周りには誰かがいたからだ。
 けど、こいつはずっと一人だった…。
 一人だった頃の寂しさや苦しさ、思い出すのかもしんねぇな。

 三蔵も八戒も雨の日は苦手で、一人でいることを好む。
 そういう時は、俺はほっとくことにしてる。
 悟空もそれがわかってっから、三蔵でも八戒でもなく、俺んとこに来たんだろう。

 まぁ、今夜は雨と風の音を肴に飲んでるつもりだったからな…一人を楽しむってのは無理かもしんねぇけど、断る理由もねぇだろう。

「ん、お前はベッド使え。俺はそこのソファでいいからよ…」

 人の気配に安心したのか、悟空は程なく眠りについた。
 こいつ、寝てても賑やかなんだよなぁ…。


 雨の音と風の音、悟空のいびきに寝言…酒とタバコ。

 嵐の夜に………

 孤独を望み、願いながら…
 心は揺らがず、一人じゃねぇ今の自分を幸せだと感じた。







 人の目が、怖い。


 この紅い髪、瞳を奇異の目で見られることにはもう、慣れた。
 んなのは怖くねぇ。


 怖いのは…


 俺の最初の記憶…生のない、二対の瞳。
 俺を見てねぇ…けど、俺を睨み付けてた、あの人の瞳。

 死にかけてた奴が…笑った、碧の瞳。
 怖かったのに、俺はそいつを助けた。

 何ものも怖れぬように、力強い意思を持った…紫の瞳。
 目を逸らせば…すべてに負ける気がして、目を逸らせなくなった。

 まっすぐに、純粋に見つめる…金色の瞳。
 俺の持つ紅に、血の色以外の意味を見せてくれたその瞳に映るものをもっと見たい、と思った。


 見つめていたいと思えば思う程恐ろしいと思う、瞳…。

 その瞳に俺は、どう、映るのか…それが、怖いのかもしれねぇ。


 夜の闇が、好きだ。
 人の目を見なくてすむ、人の目が見えねぇような、闇が…。


 いつの日か…俺は…まっすぐに誰かの目を見つめることができるのだろうか?
 あいつらの目に映る、自分をまっすぐに見つめることが、できるのだろうか…。


 眩しい太陽の下で輝く大切な仲間の3対の瞳をまっすぐに見返してやれる日が…いつか…。






 俺はガキだったんだろう。

 去って行くその背中を追いかけることが出来なかった。
 そのくせ、俺はずっとその背中を追っていた。

 覚えているのはそいつの名前と…悲しそうなその背中。

 大きな背中だった。
 頼れる背中だった。
 その背中の影にいれば、ガキだった俺は安心出来た。

 ずっとずっと探していた背中を見つけた時、その背中は、もう、大きくもなかったし、頼れるとも思えなかった。

 それでも…その背中が目の前にあることが嬉しかった。

 不器用な生き方しか出来ねぇ俺たち。

 お互い、生きていた、それだけが、ただ…嬉しかった…。

 たとえ、敵として刃を交える運命だとしても…。




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