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くれないづきの見る夢は 紅い涙を流すこと 透明な血を流すこと 孤独にのまれず生きること
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 今夜は野宿になった。
 どこで道を間違えたのか…地図が間違っているのか…あるはずの街に着けなかった。

 最近はそういうことが増えている。
 西に行けば行くほど、地図が意味を成さなくなっているのだ。

 生ぬるい風。
 空には満月。
 ねっとりと纏わりつくような湿った空気が気持ち悪い。
 それでも、月は煌々と輝いていた。

 賑やかに食事を澄ませ…疲れているだろうジープも休ませるために、いつもはジープの上で休む野宿も今夜は三々五々、自分の気に入った樹の下に陣取って休む事にした。

 ぼんやりと空を見上げる。
 うっすらと空に帯が見える。
 天の川、か…。

 そ~いや、今夜は七夕だったっけか…。
 一年に一度の逢瀬…ロマンチックなこったぜ…。

 そのまま、眠りに落ちる。
 夢を見る。

 俺が彦星で…織姫は…誰だろうな…顔も見えねぇ…いや、顔も知らねぇ、女。
 年に一度の逢瀬なんて…考えもつかねぇ。
 俺には…一生に一度の逢瀬が多すぎるぜ…。

 自重気味に笑ったところで目が覚めた。

 時間はわからねぇ。
 月は落ちていた。
 空には、天の川がはっきりと見えた。

 七夕には…短冊に願いを書いて笹に飾り、星に祈るのだという。

 願って叶うなら…
 俺はずっとガキの頃、願っていた。
 あのヒトの愛情を、と…。
 叶うことのなかったあの願い。

 与えられたのは…憎しみだった。
 あれから、願うことをやめた。
 叶わぬ夢ならば、願うだけ無駄だと、思っていた。

 あいつらと知り合って、旅をして、少しそれは違うんじゃねぇかと思えるようになった。
 願う気持ちが、叶えようという努力を産み出すんじゃないかと思えるようになった。

 今夜は星に願いを。

 この旅が、良い結果をもたらすように。
 旅が終わった後も、あいつらと仲間でいられるように。


 いつも笑って、強く生きて行けるように…。





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 まだ、旅に出る前のことだったけなぁ…。


 八戒が三蔵に呼ばれたとかで出かけたのに同行した事がある。
 そんとき呼ばれてたのは八戒だけだったんだけどよ。

「てめえは呼んだ覚えはねぇんだがな…」
 ため息交じりに言う三蔵に舌を出して見せると、ハリセンが一発飛んできた。

 三蔵と八戒は、斜陽殿に呼ばれたらしい。
 定期的な報告とか言ってたっけ…。

 ちょっと悩んだらしい三蔵が、苦虫を噛み潰したような顔をして、俺を人差し指一本で呼んだ。
「…んだよ。俺に用がねぇなら、久しぶりにこの大きな街に来たんだ、遊びに行くぜ~?」
 ぶつぶつ言いながらもついつい、寄って行っちまうのは、なんなんだろうな?
 黙ったまま、三蔵は一番大きな金額の紙幣を二枚、俺に寄越した。

「あのバカ猿を連れだしてやってくれ。一人で留守番させてっと問題起こすし、俺は雑多なことが多くて、あまり外へ出してやれねぇからな…」
 優しいじゃねぇの、って思ったが、口には出さねぇ。褒めたのに叩かれたんじゃ割りにあわねぇしよ。

「酒場や賭場には連れて行くなよ?」
 すげ~当たり前のことを言い残して、二人は出かけて行った。

 ちびっこ猿と取り残されて一瞬悩んだが…水族館に連れて行ってみることにした。
 三蔵話を信じるなら、こいつはずっと山の上にいたらしいからな…そういうの、珍しがんだろ?

 でけぇ、水族館。
 俺も初めて来たが…しっかし、俺とこの猿、ど~見られんだろうな…?
 ま、親子にゃ見られねぇだろ?

 もう、はしゃいじまってよ、お猿ちゃん。
「あ~、この魚、寺にいる○○に似てる~~~」
 って大喜びしやがんの。
 三蔵や八戒に似てるやつらもいたぜ?
 海老見て、俺に似てるって言い出しやがった時には一発張り飛ばしといたけどな。

 大きな水槽でたくさんの鰯が群れを成して泳いでんのを見た時、お猿ちゃん、目を輝かせて
「美味そう~~!」
 って言いやがった。
 さすがに、一緒にいて恥ずかしかったぜ…。


 この世界には、海、って名前の大きな大きな、対岸も見えないくれぇ大きな水ばかりの場所がある。
 そこから昇る朝日、そこに沈む夕日はとても綺麗で、俺の好きな景色だ。

 そう話してやった。
 目をキラキラ輝かせて、俺の話を聞く悟空。

 記憶という名の海の中、こいつの心は…たゆたっているんだろう。
 果ても見えない、霧の中を…。
 三蔵の言葉を信じるなら…だがな。


 帰宅した俺は、八戒に鰯の刺身を作ってもらった。






 愛することを知らない。
 愛されることを知らない。
 信じることを知らない。

 それでも生きていける。
 身体の温もりだけなら、酒場で隣に座った女に強請れば、一夜の宿と一緒に手に入れられた。

 それでいいと思ってた。
 それが孤独だってことなんて気づいちゃいなかった。



 俺たちは、出逢うべくして出逢った。
 雨に憂う八戒と三蔵。
 雪を怖れる悟空。

 皆が孤独を知っていた。
 孤独の中で生きていた。

 磁石のS極とN極が引き合うようにして、俺たちは出逢い…一つの場所に流されているのだろう。
 どこまで流されるのか…どこまで行けるのか…。



 心の中から、ぽろり、と小さな何かが落ちた。
 少しだけ、心が…小さく小さく、脈を打った。

 この欠片がもっともっと落ちて、心が大きく脈打つことが出来た時、俺は愛することを愛されることを知る。
 信じる心を持つことが出来る。

 落ちた目に見えないその何かを拾った。
 それは…

 孤独の欠片。



 願わくば、この心の孤独がすべて溶けてなくなるまで…

 ……こいつらと旅を続けたい……






 小さな池のほとりで休息を取った。
 ちびっこ猿は相変わらず「腹減った~」って叫んで八戒に飯をねだってるし、生臭坊主はどっから出したのか、木陰で新聞を読んでる。
 しっかし、三蔵、新聞読む時だけ眼鏡かけっけど…あれ、老眼鏡か?

 俺はすることもなく、池の回りを咥えタバコでぶらぶらしてた。

 池の水面を覗き込むと紅い色を目の端に捕えた。

 自分が映りこんでいるのかと思った。

 目を凝らすと水面に花が咲いていた。
 誰かが落とした血の色のように、見えた。

 俺の心は…この花と同じ…ただ、その場に浮いて、咲いている事だけしかできない。
 この紅い色を誰かの心に映し、ただ、咲いている。

 池の水がなくなれば、この花もなくなるのだろう。
 この池があったことすら忘れられてしまえば、この花など、最初からなかったも同じ、なのかもしれない。

 俺もこの花と変らぬ、そんな存在なのかもしれない。

 だが、池はここにあって、花はここで咲いている。
 俺も生きていて、ここにいる。

 この池みてぇに静かじゃねぇけど…俺は俺を生かしてくれる、この花にとっての池のような存在の仲間がいる。

 純真な心で…あいつらに礼を言える日が来るんだろうか…。

 池の向こうで飯が出来たと俺を呼ぶ声がした。

 日が沈む。今夜はここで野宿だろう。
 睡蓮は静かにその花を閉じた。



睡蓮…花言葉「純真な心」









 さぁさぁと音がする。
 雨が降っている。

 細く開けた窓からタバコの煙を逃がしながら、ぼんやりと雨の音を聞いていた。

 あいつは部屋から出て来ない。
 俺は声をかけない。
 かける言葉を持ってねぇから。

 あいつが自分でなんとかするしかないことだから。

 ノックが聞こえる。
 ドアを見るとあいつが入ってきた。

「湿っぽいですねぇ」

 入ってきたあいつの顔が沈んでいないことに安堵する。

「触角、萎れてませんか?」

 入ってくるなり、それかよ…。

「触角じゃねぇ~!」
「でも、それを切ってしまうとまっすぐ歩けなくなる、って噂ですけど?」
「んな訳あるかっ」

 くすくすと二人で笑う。
 でも、その時のあいつの瞳の中に…瞑い色は残っていた。
 俺は………



 しとしとと雨が降っている。
 宿の細く開けた窓からタバコの煙を逃がしながらぼんやりと外を見ていた。

 雨が降ると足止めだ。
 ぼんやりと過去のことを思い出すぐらいしかすることもねぇ。

 部屋の戸をノックする音がする。

「ぅんぁ?」

 間の抜けた声をあげると、八戒が入ってきた。

「触角萎れてませんか?」

「俺の触角は鋼鉄製だから大丈夫」

 あの時、瞑い瞳の色に明かりが差したのは、確か、この一言だった。
 苦しく辛い時でも、人はおかしければ笑う。
 それが、生きる、ということ。

「食事ですよ」

 くすくす笑いながら言う八戒に、俺は片手を上げて応えると、並んで部屋を出た。



 雨はまだ、降っている…。



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