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くれないづきの見る夢は 紅い涙を流すこと 透明な血を流すこと 孤独にのまれず生きること
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 ウソくせぇ、笑顔だな。
 それが俺の目の前で笑っている女を見て感じた最初の印象だった。
 まあ、泣かれるよりはマシか…。
 どうせ、一夜だけの相手だ。俺も女もそれは重々承知をした上で褥を共にしている。
「愛してる…」
 それは、駆け引きの言葉…。


 愛して欲しかった、慈しんで欲しかった、せめて、笑っていて欲しかった。
 愛を知らずに育った子供は、それがどんな物かさえも、知らない。
 愛してもらえぬならせめて、笑っていて欲しくて、いろんなことをした。彼女が、母が笑ってくれるなら、死さえも厭わなかった…
 いや、それは詭弁だ。
 あの時、俺は…死んでしまえたら楽になれるだろう、そう漠然と思っていたのだ。
 自分は存在してはいけないものだった。なくなってしまいたいとずっと思っていた。
 それなのに、ずっとずっと、俺はそこにあり続けた。


 愛とは、何? どんなもの? もうずっと探しているのに、答えは見つからない…


 雨の夜、拾った男が言った。愛していたから、と…。
 自分を修羅の道に落としてまで、守りたかった愛とは一体どんなものなのだろう?


 タバコの煙をゆっくりと吐き出すように、愛してる、と吐息だけで囁いて…俺は残酷な嘘を吐き続ける。女に、そして、俺自身に…。
 女の浮かべるのが作り物の笑顔でも、与えられるのが虚構の愛でも…俺は、今夜もそれに、縋る…。




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『ため息をつくと、幸せは逃げて行くのよ』
 そう言ったのは、自分と同じ髪色と瞳の色をした女性。
 わかっているよ、そんなこと。いつもいつも君はそう言っていたよね。
 つい、ため息をつきそうになる僕の口を少し怒ったような顔をして、塞いでくれたこともあったっけ…。
 でもね、そんなことを言うけれど、生きていくのは息苦しいよ…。
 君のいない日々は息が詰まりそうで、君にために何も出来なかった自分が悲しくて、呼吸さえ満足に出来ない気がするんだ…花喃…
 だから、僕は、ため息をつく。


「……12回目…」
「…えっ?」
「お前がこの一時間でついたため息の数」
 手持ち無沙汰にライターの蓋を開け閉めしながら、顔を上げもせずに、悟浄が言った。
「…暇、なんですね…」
 微苦笑を浮かべて言うと、彼は、黙ってタバコを一本差し出した。
「僕は、タバコは…」
「いいから、吸ってみろよ。ため息を隠すには都合がいいぜ…」
 それはきっと彼の優しさなのだと思う。僕は、言われるままにそれに手を伸ばしていた。
「目の前でなんも言わずに、ため息ばっかつかれんのは、鬱陶しいんだよ」
 火を点けてもらって…ため息をつく前に、噎せた。それを見て、悟浄が笑う。
「何を悩んでるのか知らねぇけどさ、人生なんざギャンブルみたいなもんだ、悩むだけ無駄って気がすんだ けどな」
 僕から火の点いたタバコを取り上げて、自分で吸いながら彼は言った。
「人生が博打なのだとしたら…僕は凄く負けがこんでる気がしますよ…」
 悟浄が、盛大に煙を吐き出す。
「俺もご同類、かね」
 彼が微かに笑い、僕も、微かに微笑む。
「けどま、この博打ばっかは、途中でおりるって訳にもいかねぇからな…」
 もう一度、彼は大きく煙を吐き出した。
 それはきっと彼のため息なのだろう。
 僕は、ため息をつきかけて、自分で自分の口を塞ぐ。その仕草に、彼が笑った。
「ま、俺の前ではいいけどな、八戒。あいつらの前ではやめとけよ、ため息。特に、あの猿なんか気にすんぜ、お前にずいぶん懐いてるしな」
「ですね…」
 言いながら、僕はもう一度だけ、と思ってため息を落とす。それを聞いて、彼もまた煙を吐き出す。
 そうやって、誤魔化しながらため息をつける悟浄が少しだけ羨ましいと思った。






 ああ、生きていたのか。
 目の前にいる赤い髪の男の驚いたような顔を見て、俺はニヤリと笑って見せた。
「なんで、あんたが…」
 俺は、今の名を名乗る。自分の生き様を変えることはできないのだと言うと、あいつもニヤリと笑って見せた。
 俺たちは似ているのだ。
 自分の信じた道を行くことしか出来ない、不器用にまっすぐに…。
 俺は、過去に救った命をみずからの手で屠ることになるのか、それとも、その命に滅ぼされることになるのか…。
 どちらでもかまわない、と思う。
 そいつが、生きていてくれたことが、今の俺には嬉しかった。
 お互いが信じた道を歩み、その果てに何が待つとしても、きっと後悔はしなだろう、俺たち、兄弟は。





 八戒は、盃に写りこんだ月をその酒とともに飲み下す。
 隣に座った悟浄が、その天空の月に向かってタバコの煙を吐き出した。
「月に叢雲、ですか…」
 吐き出された煙を目で追いながら、八戒が言った。
「なんだそりゃ?」
「その後に、華に風、と続くんです。良いことには差し障りが多いことの喩え、ですよ。もっとも、僕らの旅が良いことかどうかは疑問ですけどね。ただまあ、差し障りだけは売ってしまいたくなる位たくさんありますよね」
 ため息混じりに言いながら、悟浄に視線を投げかけて、微かに笑う。
 二人の盃に酒を満たす。
「こうして、写りこんだ月は、まるで魂のようだと思いませんか?」
「魂? なんだよ、そりゃ。お前、珍しく酔ってるのか?」
 何を言っているんだ、と訝しげに目を細め、彼は八戒を見た。
「…いいえ。僕が酔わないの、あなた知っているじゃないですか。ただね…」
 口をつぐんで盃を見つめる。そして、また、飲み干した。
「こうやって、魂を飲み込んで、僕は僕になってゆくのかな、とか…おかしいですか?」
 今にも笑い出しそうに歪んだ口元を見つめて、心外だ、という表情で聞くと、悟浄は大きく煙を吐き出した。
「…別に…おかしかねぇよなぁ…俺はきっと、お前の魂を飲み干すんだ、それから、あいつらの…で、俺自身の…」
「そうして、みんな一つになって、いつまでも旅を続けて行きたらいいな、と思うことがありますよ」
「…そりゃ…勘弁してくれ…」
 悟浄は肩を竦めるとすっかり短くなったタバコを灰皿に押し込む。そのタイミングで背後から悟空の声がした。
「よぉ、二人で何やってんの??」
 八戒は振り向くとにっこりと微笑んで、天空の月を指す。
「わぁ、でっけぇ月! うっまそぅ~」
 指に誘われるように天を見上げた悟空が言い、毎度のことだなよな、と小さく呟いた悟浄の言葉に八戒は失笑した。
「ああ、知ってますか、悟空? 月にはウサギが住んでいてお餅つきをしている、という言い伝えがずっと東の小さな島国にはあるらしいんですよ」
 八戒の失笑に少し気分を害した様子の悟空に彼は言った。悟空の答えが聞く前からわかって、悟浄は面白そうだ。
「え、餅つき? 俺、餅食いたいっ! ど~やったら月まで行けんのかなぁ?」
 予想通りの答えに、彼は吹き出した。
「え~~。なんだよぉ、何で笑うんだよぉ!! 笑うな! このエロ河童!!」
 悟浄に飛びかかろうと身構える悟空の目の前に、八戒は団子の乗った皿を差し出す。
「あなたには、これ、ですね」
 あっという間に機嫌を直して、嬉しそうに団子をほおばりはじめた悟空を、彼は弟を見守る兄のような微笑ましい心境で見つめた。
「…このお団子もまた、魂のようだと思いませんか?」
 ポツリとつぶやく。
「魂が、どうしたって? お前ら、明日も早いんだから、いい加減、寝ろよ」
「…ああ…三蔵、あなたもこちらへかけませんか。今日は中秋の名月ですよ」
 八戒は自分の座っていた位置をずらして三蔵のために座る場所を作る。
「ふんっ! 月なんざ、いつでも見られるだろうが…」
 面白くもなさそうに言いながら、彼は勧められるままに腰を下ろして、差し出された盃を受け取る。
「月も、お団子も…みんな誰かの魂で、僕らはそれを吸収して自分になってゆくのじゃないかな、とか…そんな他愛もないことを考えていたんです」
「自分は自分だろ、なるもならないもない」
 三蔵は注がれた酒を一息に飲み干して、言い切った。
「……明瞭ですね…」
 そのらしい言い草に、八戒は笑いをかみ殺す。そして、3人の空いた盃をまた、酒で満たした。
「それでも…」
 それぞれが盃に視線を落とす。それぞれの盃に月が写りこんでいる。悟空は三人の様子に気付いて、ふと彼らを見た。
「ん? どうしたんだ?」
「…それでも…僕は、あなたたちと一緒にいることが出来て、良かったと思っているんです…」
 盃に向かって微かに微笑むとその中身を空けた。
 悟空は首をかしげ、悟浄はふんっと鼻で笑い、三蔵は苦虫を噛み潰したような顔をした。


 満月の夜。友とともに友の魂を身の内に満たして、静かに夜は、更ける。





 はらり…はらり…
 薄く色づいたそれが一枚ずつ落ちるさまはどこか、あの下界に降る冷たく白い雪片に似ていて。
 この間の戦闘で傷つき、今だ癒えない左腕に右手を添えながら視線を逸らした先にもその花びらは舞っていて。
 僕は、何も見たくはない、と目を閉じる。
 誰も信じていないのではない、もう二度と誰も失いたくないと、そう思っているだけなのだと。
 それは、優しさなどではなく、誰かを失って悲しむ僕自身が哀れに思うためのエゴなのだとわかっているから。
 その思いは誰にも告げられずにいた。



 それは、隊を率いる立場になって初の戦闘だった。
 雪が、降っていた。
 それまでは自分が生き残るのに必死で、周りなど見えていなかったのだろう。
 目の前で倒れる者の姿に…初めて、恐怖を覚えた。
 この戦いの理不尽さを呪った。不殺生を義務付けられている自分たちと、すべてを破壊しようとするものとの戦いに…。
 辛うじての勝利…抱きしめる身体から流れ出る、紅い…血…。
 降ってくる雪が、その紅に解けるのを見ていることしか出来なかった。
 助けを呼んで叫んだかもしれない…しかし…結局はその身体を抱きしめながら、己の手が、服が紅く染まって行くのに任せていることしか出来なかった。
 最後の呼吸で死が吸い込まれ、魂が吐き出されるのを、見ていた。
 天上人が不死などというのはまやかしだと、知った。
 まだ温もりのあるその身体に降り積もる雪は、紅く解け…やがて体温を奪われそれでも降り続く雪は紅く染まり…それすら隠してすべてが白く染まるまでその身体を抱きしめていた。
 その骸と同じに冷え切っても、それでも体温のある己が手の紅を、雪が、洗い流す…。



 忘れたい過去は、失うことの許されない記憶…。
 掌に受けた花びらはあの日の雪にも似ていて。
「雪は、嫌いです」
 その言葉に何も聞かず黙って頷いてくれる者が隣に居てくれる限り、己の道を進んでゆくことができる。
 戦場に立ち続けることができる。
 優しく肩に手を置かれる。今、僕が信じて背後を任せようと思っている男に。
 少し離れたところで酒を酌み交わし、自分が来ることを待っていてくれる仲間の元へと歩を進める。
 なくなることのないこの天上の桜はいつも僕にあの日を思い出させるけれど。
 彼となら…彼らとなら僕はこの花を見あげることが出来る。
 あの雪の日を忘れぬために。僕は舞い散るその花びらを睨みつけるように見据えた。



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