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くれないづきの見る夢は 紅い涙を流すこと 透明な血を流すこと 孤独にのまれず生きること
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 はらり…はらり…
 薄く色づいたそれが一枚ずつ落ちるさまはどこか、あの下界に降る冷たく白い雪片に似ていて。
 この間の戦闘で傷つき、今だ癒えない左腕に右手を添えながら視線を逸らした先にもその花びらは舞っていて。
 僕は、何も見たくはない、と目を閉じる。
 誰も信じていないのではない、もう二度と誰も失いたくないと、そう思っているだけなのだと。
 それは、優しさなどではなく、誰かを失って悲しむ僕自身が哀れに思うためのエゴなのだとわかっているから。
 その思いは誰にも告げられずにいた。



 それは、隊を率いる立場になって初の戦闘だった。
 雪が、降っていた。
 それまでは自分が生き残るのに必死で、周りなど見えていなかったのだろう。
 目の前で倒れる者の姿に…初めて、恐怖を覚えた。
 この戦いの理不尽さを呪った。不殺生を義務付けられている自分たちと、すべてを破壊しようとするものとの戦いに…。
 辛うじての勝利…抱きしめる身体から流れ出る、紅い…血…。
 降ってくる雪が、その紅に解けるのを見ていることしか出来なかった。
 助けを呼んで叫んだかもしれない…しかし…結局はその身体を抱きしめながら、己の手が、服が紅く染まって行くのに任せていることしか出来なかった。
 最後の呼吸で死が吸い込まれ、魂が吐き出されるのを、見ていた。
 天上人が不死などというのはまやかしだと、知った。
 まだ温もりのあるその身体に降り積もる雪は、紅く解け…やがて体温を奪われそれでも降り続く雪は紅く染まり…それすら隠してすべてが白く染まるまでその身体を抱きしめていた。
 その骸と同じに冷え切っても、それでも体温のある己が手の紅を、雪が、洗い流す…。



 忘れたい過去は、失うことの許されない記憶…。
 掌に受けた花びらはあの日の雪にも似ていて。
「雪は、嫌いです」
 その言葉に何も聞かず黙って頷いてくれる者が隣に居てくれる限り、己の道を進んでゆくことができる。
 戦場に立ち続けることができる。
 優しく肩に手を置かれる。今、僕が信じて背後を任せようと思っている男に。
 少し離れたところで酒を酌み交わし、自分が来ることを待っていてくれる仲間の元へと歩を進める。
 なくなることのないこの天上の桜はいつも僕にあの日を思い出させるけれど。
 彼となら…彼らとなら僕はこの花を見あげることが出来る。
 あの雪の日を忘れぬために。僕は舞い散るその花びらを睨みつけるように見据えた。






 サイトより。

 オリジナルの「雪の記憶」のキャラ固定バージョン。

 2007年3月19日UP。
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