あぁ？　ああ、あのメガネ、か。

　慇懃無礼なヤツだな。

　この俺を「自愛と淫猥の象徴」なんざ言いやがったからなぁ。

　ここにいた時からそうだったか…。まぁ、あそこまで素直に言いやしなかったが、天蓬元帥も同じ事を思ってたんだろうよ。
　生まれ変わって素直になったんじゃねぇか？

　いい意味でも、悪い意味でも。

　自分の信じるもんにはまっすぐで、キライなもんははっきりしてる。
　自分が嫌悪の対象だってのは、いただけねぇけどな。

　あいつも…天蓬元帥も……そうだった、んだろうか？



　それでも。
　
　メガネは、あいつと同じ顔を見せやがる。
　すべてに立ち向かう強さと、それに恐怖する弱さと。


　いいんじゃねぇか…？



　あいつらが再び、出逢ったことは。

　猪八戒？

　ああ、三蔵一行の、モノクルの男、か。

　どうだ、と聞かれても困るのだが…。

　そうだな…俺たちで言えば、八百鼡の役どころ、かもしれん。
　世話好きなんだろう。

　あの男は…そうだな…他の連中に比べ、まだ迷いがあるように見える。
　それでも、三蔵や悟空と肩を並べて歩めるだけの強さも持っている。

　少しだけ、羨ましいと思う。

　主従ではなく、仲間、として肩を並べていられる、強さと…弱さが。


　
　八百鼡や独角兕も、俺を…主ではなく、仲間、と見てくれないものだろうか…。

　頭はいいと思いますよ、そして、なんでもそつなくこなせる。
　でも、それだけじゃ満足しないんだと思います。
　器用だけど、不器用、なんでしょうね。

　理由なんかないですよ、なんとなく、わかるんです。

　そして…回りの人の死には、敏感なんでしょうねぇ、彼。
　僕もそうですから。
　そして彼は…きっと、それを体験したら、壊れて仕舞うんじゃないでしょうか。
　そこが、僕との違い、ですかね？


　彼、僕の来世、なんでしょう？
　なんか、複雑だなぁ。
　僕、死んじゃうんですね。
　まぁ、天界人とは言えど、こんな職業ですから、死なないなんて思ってませんけど。


　でもね、なんか…ちょっと羨ましいなぁ。
　色々あったみたいですけど…彼、しっかり前見てる感じじゃないですか。
　とてもいい人間関係があるんでしょうね…。


　え？
　僕、ですか？
　僕にも…とてもいい友人関係、ありますよ。
　生まれ変わっても、また共に歩みたい…そんな仲間が、ね。

　俺さ、八戒の目の色が好きなんだ。
　木陰でさ、昼寝してて目が覚めると、頭の上に広がってる、あの翠。
　見ててさ、落ちつくし、見られてんのも気持ちいいんだ。
　すんげ～優しいの。


　ジープの運転もして、俺らの飯作って、洗濯もしてくれて。
　色々教えてくれっしさ。
　傍にいっと、安心すんだ。あったかいし。

　こういうの、母さん、って言うんだっけ？

　俺、そんなのわかんねぇけどさ、八戒が「母さん」だったら嬉しいなぁ。

　僕、ですか？

　僕は…面倒臭い人間だと思いますよ。
　あ…人間じゃないですね、妖怪です、と言ったほうがよかったでしょうか？
　こんなところも…面倒臭いのかもしれませんね（苦笑）

　妖怪である自分が大嫌いで、けど、僕を必要だと言ってくれる人達のために、好きになろうと努力はしてます。

　色々なことが、ありました。
　それでも僕は、生きています。
　
　僕には、誰もいませんでした。
　産まれて初めて愛した相手は…実の姉、という冗談みたいな人生でした。

　最近になって、友人と呼べる人たちができました。
　ありのままの僕を受け入れてくれる人たちが。

　彼らが僕を必要だと言ってくれる間は、生きて行こうと思っています。
　亡くなってしまった彼女も、それくらいの時間なら、待っていてくれるでしょうし。

　生きているのは辛いこともあります。
　死、というものに甘美なものを感じることも。

　それでも、僕は…これからも。
　友人たちと肩を並べて歩んで行くんでしょうね…。



　ね？
　面倒臭いでしょう？