忍者ブログ
くれないづきの見る夢は 紅い涙を流すこと 透明な血を流すこと 孤独にのまれず生きること
[1]  [2]  [3
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


 捲簾にホテルを引き払わせて、街外れの家に向かう。
 暫く旅を続けてた、って割には少ない荷物に驚いたが、まぁ、旅慣れてるならそんなもんかもしんねぇ、とも思う。
 俺だって、この街に流れ着くまで、大した荷物も持たずに来たっけ。まぁ、なんも持ってなかった、ってのが正解なんだけど。
 鷭里が出て行って、一人で住むには広く感じる家に帰るのは久しぶりだった。
 ここ一週間ほどは捲簾の部屋にいたし、それまでは女んとこか酒場か賭場にいた。
 見えてきた家の玄関のドアが外れている。
「鷭里!」
 俺は思わず走り出していた。玄関のドアを毎回のように壊してたあいつ。
 街の顔役の女に手を出して街を出た、あいつ。
 心配してたわけじゃ、ねぇ。そのことで俺もどんだけチンピラに絡まれたか。生きてんなら、一発殴ってやんなきゃ気がすまねぇ。
 あ……心配、してんのか、俺。
 入りかけたドアの前で足が止まる。
 中には顔を見かけたこともある男が数人、いた。
「なぁ~んだ、戻ったのはガキだけか」
 つまらなそうに一人が言うと、もう俺には興味もない、とでも言うように無視をする。
「何やってやがんだ、人んちで!」
 実際には俺の家じゃねぇし、鷭里の家でもねぇ。空家だったここに勝手に住み着いただけだ。
 そんでも。何の執着もない俺だけど。初めて自分の家だと思える場所だったから。
「鷭里は帰って来ねぇよっ! 出て行きやがれ!!」
 何を考えるより先に手近な奴に掴みかかっていた。
 相手は5人。楽勝だと、思った、のかもしれない。
 男の首根っこを掴んだまま、飛びかかってきた奴の鳩尾目掛けて蹴りを繰り出す。
 膝が、ズキリ、と痛みを訴えた。
 バランスを崩して、掴んだ男の体重を支えられず、その場に倒れ込む。男を一人下敷きにした状態のまま、蹴られる。
 起き上がろうと身体を浮かせたらその隙間を狙って蹴りを入れられ、ひっくり返された。その上に下敷きにしてた野郎が馬乗りになって俺を殴る。口の中に鉄錆の味が広がった。
「お前ら、なぁ~にやっちゃってんの?」
 そんな状況に似つかわしくない、どこか飄々とした声がして、男たちが俺を痛めつける手が止まる。
「なんだぁ? おい、ガキ。お盛んじゃねぇの。鷭里が出てったからって早速新しい男、くわえ込んだのかよ」
 下卑た笑いに。捲簾が苦笑するのがわかった。怒りに任せて上の男を押し退けようとしたその力が思わず抜ける。
 捲簾は冷静だった。俺よりも少しタッパの低い捲簾に、男たちは俺よりも弱いと踏んだのだろう、俺をボコるのに3人残し、2人が捲簾の方に向かう。
 が、捲簾は…3人がもう一度俺に向かうより先に…自分に向かってきた2人を持ってた荷物を置きもせずにノシていた。
 俺の上から男が退く。
 痛みを堪えて身体を起こすと、捲簾に飛びかかった男から、みしり、ととんでもない音がする。
 一人の腕ともう一人の足が、あらぬ方向を向いていた。
 男たちには恐怖の表情が浮かぶ。こんなチンピラは一度恐怖を植えつけてしまえば二度と襲ってはこないだろう。
「ほら、出口はあちら、だ。もっとやりたい、ってんなら相手になんが、とっとと出てった方がいいと思うぜ? 俺、これ以上の手加減、できねぇからよ」
 捲簾は薄く笑って、自分が塞ぐように立っていたドアの前から退いた。
 男たちはほうほうの態で出て行った。


「大丈夫か、悟浄?」
 差し出された手を素直に取れない。そうだ、俺がこんな無様に殴られたのも、全部、こいつが悪い。こいつが…。
 じぃ、と睨み付ける俺に捲簾は苦笑して頭を撫でた。
「こりゃ、まずは修理と掃除から始めねぇと、住めねぇよなぁ…」
 俺から離れて部屋を見回すと、捲簾はおもむろに荷物を置いて、手近なゴミを拾い始める。
 どこかから袋を見つけてくるとゴミを手際良く仕分けして片付けるのを、俺はその場でそのまま見ていた。
 こまごまと動く捲簾を目で追う。こんな光景、見た事ねぇや。ガキん頃も、この家に来てからも。
「ほら、いつまでもんなとこにヘタレ込んでっとお前もゴミにしちまうぞ」
「ここは俺んち……」
 だろうが、と続けかけて、いきなり持ち上げられた。
「おい! 何しやがるっ」
 暴れる間もなく、ソファの上に落とされた。
「大人しくしてろ」
 仕方なく、手持ち無沙汰にソファの上に膝を抱えて座りこむと、暫くまだ掃除を続ける捲簾を見てた。
 それにも飽きて、ポケットを探って出てきた煙草に火を点ける。
「ガキがんなもん吸ってんじゃねぇよ」
 後から言われて、咥えてた煙草を取り上げられた。
「げっ。血の味、すんな…」
 血がついたフィルターを顰めっ面をして眺める捲簾を横目にもう一本に火を点けると、黙って灰皿が目の前に差し出される。
 本気で止める気もねぇらしい捲簾に、俺は思わず笑った。
「ホント、あんた、面白ぇ奴だな」
「いいだろ、飽きなくて」
 さらっと答えてから、もう一度室内を見渡し。
「救急箱、どこだ?」
 と聞いた。
 んなもん、ねぇよ。と答えた途端に、もう一度煙草を取り上げられる。
「返……」
 全部、言えなかった。まだ血の滲む口端をいきなり舐められる。
「何しやがる!」
「ん? 消毒」
 しれっと答えてから、煙草を返された。
 遊ばれてんのか、俺……。
 ウチに来い、なんて言ったのは……早まった行動だったんだろうか…?
 それでも。
 不貞腐れて再び煙草を咥えた俺の頭をわしゃわしゃと撫でてくれるその手が気持ちよくて。
 一人でいるよりは楽しめそうだ、と思った。


PR

 いつものように二人で出かける酒場に。笹飾りが置いてあった。
「何、これ?」
 俺がそれを物珍しげに見ていると、捲簾が笑う。
「悟浄、お前、七夕、知らないのかよ?」
 知らないわけじゃない。ただ、そういう行事をしたことがないだけで。
「書いてみるか? 願い事」
 バーのマスターが短冊とペンを差し出してきた。
 願い事なんざ、したこともなかったっけ。願うことも、思いつかねぇし。
「しっかし、あんたら仲いいねぇ。最初にあんだけ殴りあってたってのに」
 マスターが捲簾に向かって話し掛けている。
 そう、殴りあった。俺が酔って絡んだらしい。そして、結局怪我したのも自分で。
 なのに、気付いたら俺は捲簾と一緒に暮らすようになっていた。
『来年も一緒に過ごせるように』
 気が付くとそんなことを書いていた。
 そう、捲簾の傍が居心地が良かったんだ。
 捲簾の手元を見る。奴の手の中にも短冊が一枚。何も書かれていなかった。
 俺の短冊を見ると、捲簾はどこか寂しそうな表情をした。
「ったく、ガキだなぁ。野郎が二人でつるんで、何が楽しいってんだよ」
 その表情は一瞬で、俺の頭をわしゃわしゃとやる。俺はその手が好きだった。
「……いいんだよ、ガキだって…」
 ぼそり、と呟く俺に、捲簾はもう一度黙って頭を撫でた。
「あんたの願いはなんなんだよ?」
 白紙のままの短冊に俺は視線を向ける。
「俺の…願い、か…そうだな…。願いは……ここに書けるほど、ちっちゃくねぇのよ」
 意味深に笑って、捲簾は俺の手から取った短冊と一緒に自分の白紙の短冊も飾った。



 バーのドアを開けると、笹飾りがあった。
 去年も一昨年も見たが、何度見ても違和感がある。
「あ、笹飾りですね。もう、七夕なんですねぇ」
 八戒がどこか楽しそうに言う。
「ねぇ、悟浄? 願い事、書きませんか?」
 マスターに短冊とペンを借りて八戒が嬉しそうだ。
「あ~…俺はいいわ」
 来年も一緒に過ごせるように。
 その願いが叶わなかったから。
 星に願いを、なんて……。
 行き場のない視線が、店内を彷徨う。
 無意識に探すのは、あの、あったかくて大きな手。
 いた。
 いるはずなどないのに。
 俺に向かって歩いてくるのは間違いなく捲簾で。
 俺の隣に立つと、あのときのように、頭をわしゃわしゃとやった。
「あ…あの…」
 捲簾と俺の様子に驚いたように、八戒が声を上げる。
 それへ捲簾は視線をまっすぐに向けるとゆっくりと全身を見てから頭を下げた。
 つられたように八戒も頭を下げる。
「見つけたじゃねぇか。ちゃんと」
 捲簾は、何を、とは言わない。それでも、俺にはわかった。
「俺も見つけたぜ」
 にやり、と笑うその顔が、昔と変わっていなくて。
 お互いに見つけたいものを見つけたのだ、と。
 俺は、マスターに短冊とペンを要求した。
『来年も一緒にすごせるように』
 捲簾が自分の道を見つけて進んだのなら。
 俺も、自分の道を進もうと、決心がついた。





 悟浄は柔軟に現状に適応した。
 薬で眠って目覚め、最初は噛み付かんばかりの勢いだったが、まともに立ち上がれず、一人で便所も行けないとわかると、素直に俺の手を借りた。
「尿瓶でも用意してやろうか?」
 と、俺がからかったのが原因だったとしても、言う事を聞いてくれるようになって世話してやんのも楽になった。
 左膝を固定された悟浄は下着姿で、それが滑稽で見るたびに笑ってしまうが、最初は一々睨んできたそれにも反応を示さなくなってしまったのは、少し残念だったが。
 怪我をさせたのが自分とはいえ、殴りかかって来た相手を甲斐甲斐しく世話してる俺自身に苦笑する。
「ん? なんだ?」
 俺が用意してやった飯を俺のベッドを占拠したまま食っていた悟浄が不思議そうに見上げたのに、なんでもねぇよ、と軽く頭を撫でてやると急に興味を失ったように飯に戻った。

 痛むのか、鎮痛剤のせいなのか、どこかぼんやりした表情のままの悟浄の世話を続ける。
 そして、気付いた。こいつはペットみてぇだ、と。
 犬みてぇで、でも、猫みてぇで。見てて、飽きない。
 そして…強がってるわりにはやっぱりガキなんだと、思った。構われるのが嫌いじゃないらしい。
「ここ、居心地いいわ。足、暫く治んなくてもいいかも」
 そんなことを言い出す悟浄に俺は。
「治ったって別に追い出しゃしねぇよ。居付いたって構わねぇんだぞ」
 思わずそんな風に言っていた。
 正直言って、一人気ままな下界生活にも少し飽きていたんだと思う。こいつといたら、少しは刺激的な滞在になるんじゃないか、と思ってしまったのだ。

 それでも、結局医者が言ったより二日遅れて、膝の固定も外され自由に動けるようになると悟浄は嬉しそうだった。
 まぁ、出て行くんだろうな、とその姿を見ていると、悟浄は俺の方を向いて唐突に言いやがったんだ。
「なぁ、捲簾。あとどんだけこの街にいるんだ? まだ暫くいるんなら、俺んち来いよ」
と。

 色んな街をふらふらとして、ホテルを転々としてた俺だったが、その一言で、帰るまでの時間を、この街で、悟浄と一緒に過ごそうと、決めた。



 ゆっくりと意識が浮上する。ぼんやりと見る天井は見覚えのないとこで、またオンナのとこに転がり込んだのか、とぼんやりと思う。
 飲みすぎたせいか、はっきりしない頭のままじっとしてた。オンナがそのうち起こしに来るだろうと思って、もう一度目を閉じる。
「ったく…まだ寝てんのかよ…」
 ところが、聞こえたのは男の声で、俺は慌てて飛び起きた。
「ようやくお目覚め? 仔猫ちゃん?」
 起き上がった途端に全身に激痛が走って、そのまま蹲る俺にそいつはやけに気に障る口調で言った。
「てめっ! なんなんだよっ!」
 咥え煙草のそいつのふてぶてしい顔にイライラする。殴りかかってやりたい衝動に狩られたが、痛みに身体が利かない。諦めて、それでも睨むことはやめずに柔らかなベッドに身体を沈めた。
「お前さ、自分が殴りあった相手ぐらい覚えとけ。そのうち闇討ちにあうぞ?」
 そいつから伸びてきた手が俺の頭を撫でる。苦笑を禁じえない、という表情のそいつの口から煙草を掠め取って吸ったのは、ほとんど動けない俺のちょっとした抵抗、ってやつか。
 そいつの口元が腫れていて俺が一方的にやられたんじゃねぇ、ってことが少しだけ俺の自尊心を助けた。
「お前があんま暴れるんで、関節堅めちまったからな…。三日は動かせねぇみてぇだし。ま、大人しくしとけ、悟浄」
 さらに頭を撫でられ…自分の名前を呼ばれたことに驚く。
「なんで俺の名前!」
「ん? ああ。バーのマスターがそう呼んでたからな。ホント、なんも覚えてねぇんだな…」


 目が離せなかったのは事実だが、別に見たくて見てたわけでもなかった。ましてや、目の前のこいつを口説こうなんてこれっぽっちも考えたりはしなかった。
 なのにすぐ横に座ってた紅毛の男は何が気に食わなかったのか、いきなり俺に殴りかかってきたのだ。
 喧嘩なら外でやってくれ。とマスターに追い出され、暫くそいつが俺を殴るのに任せてやった。
 軍に入る前、こいつぐらいの時には俺もそうだったから。
 すべてがつまらなかったから。
 似すぎてるから。どんな無茶をやらかすのか、気が気じゃねぇから。こいつがこの先、どうなるか。自分ならどうするか考えるとわかるから。
 あのときの自分を重ねちまったから。
 それでもただ殴られるのはやっぱり気がすまなくて、反撃してやったら、結構あっけなく落ちた。
 酔ってたせいもあるだろう。喧嘩慣れはしてるみてぇだったけど、訓練を受けた俺と、素人のそいつじゃ結果は最初から見えてた。
 そこにそのまま転がして帰らなかったのは…やっぱりそいつに昔の自分を重ねたから、だったんだろう。


「俺は、捲簾だ」
 そいつはそう名乗った。俺の口から煙草を取り返し、美味そうに吸うそいつ…捲簾はあっけらかんとした表情で、俺がしかめっ面をしてるのも我関せずな感じで、頭を撫でてくる。
「鎮痛剤飲ませたから、動けるようになるまで寝とけ?」
 にやにやと笑う捲簾に、どうやって飲ませたんだ、とか、余計な世話だ、とか色々言いたいいことは浮かんだが、うっかり、撫でられる手が気持ちいい、と思ってしまい、俺は薬の誘う眠りに落ちてしまった。



 捲簾と悟浄。

 前世と現世。

 この二人が出逢ったら…。


 と、こんな感じでシリーズ化しようと思い書き始めました。
 連作短編のような形式になると思います。
 気長にお付き合いくださいませ。
前のページ     HOME    次のページ
カレンダー
09 2025/10 11
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
プロフィール
夏風亭心太


 酒、煙草が好き。
 猫好き、爬虫類好き。でも、虫は全部駄目。
 夜が好き。月が好き。雨の日が好き。
 
 こんな奴ですが、よろしくお願いします。
フリーエリア
最新記事
リンク

 最遊記の二次創作投稿サイト。
夏風亭心太も参加しています。


 ここの素材をお借りしたサイト様。

Atelier EVE**Materials**
 バナー素材をお借りしたサイト様
最新コメント
[11/19 https://www.getjar.com/categories/all-games/action-games/Rules-of-Survival-Cheat-960889]
[11/16 https://truoctran.com/viet-nam-vs-malaysia-tip-keo-bong-da-hom-nay-16-11]
[11/14 سنسور صنعتی]
[06/27 aypo]
[08/27 そういち]
カウンター
バナー

 ここのバナーです。ご入用の方はどうぞ♪
忍者ブログ [PR]