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くれないづきの見る夢は 紅い涙を流すこと 透明な血を流すこと 孤独にのまれず生きること
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 通い慣れた17段の階段を早足で駆け上がる。
 同居をしていても別に居を構えるようになっても、この階段はいつも、私にとっては特別な場所だ。新しい冒険の第一章は、この階段から始まることが多い。
 その階段を上りきったところにあるドアを開けると、見慣れた部屋にその部屋の主はいない。
 彼が出かけるのを街灯の影から見ていて来たのだから当たり前なのだが、それでも、それが少し寂しいと感じてしまった。
 いつもの外套にいつもの帽子。そうそう長時間の外出ではないことも確認済みだ。
 下宿屋の主であるハドソン夫人に声をかける。
 彼女も心得ていて、私が頼んだ通りにセッティングをしてくれた。
 私の上着の内ポケットには一通の電報。急がないけれど、実に興味を引く内容の文面。それから…彼がいつも吸っているタバコ…。彼が喜ぶ物を他には思いつかなかったから。
 すべての準備が済むと、彼が出て行った後の状態に…暖炉の火はつけたまま、ランプの火を落として…私は自分の指定席に座って、彼の帰りを待った。


 思ったよりも遅くなってしまったな…
 私は小さく舌打ちをして、馬車を拾う。
 ワトスンが近くの街灯の影から部屋の様子を伺っているのは知っていた。だから、暖炉の火も落とさずに出かけたのだが…待っていてくれているだろうか?
 馬車を降り、部屋の窓を見上げる。ランプは点いていない。けれど、かすかに見える赤い光が、暖炉は点いたままだと教えてくれた。
 ワトスンは…帰ってしまったのだろうか?
 下宿の女将のハドソンさんももう休んでいるようだ。私は静かに階段を上がった。
 ドアを開けて…真っ先に気付いたのは、テーブルに用意された料理の数々…そして…自分の椅子で座ったまま眠ってしまっている、ワトスン…。
 さて、何か、あったのだろうか? 思いを巡らせるが、思いつくことは何もない。
 眠っている彼に毛布をかける。と、彼がかすかに身じろぎをした。
「ぅ…ん…」
 起こしてしまったか、と思ったが、ワトスンは眠ったままだ。最近、あまり顔を出さなくなっていたが、本業が忙しいのだろう。その顔には疲れが窺える。
「…ホームズ…」
 呼ばれて、顔を見やるが、どうやら寝言のようだ。
「…誕生日、おめでとう…」
 ……そうか…今日は…私の誕生日だった…私自身も忙しくてすっかり忘れていた…。
 ワトスンは忙しい合間をぬって、私にそれを言うためにここに来たのか…ハドソンさんを巻き込んで、パーティを開いてくれようと?
 私は一旦かけた毛布を取って、元の位置に戻す。
 それから静かに外へ出た。
 改めて…出来るだけ大きな音を立てるように帰宅するために。



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