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くれないづきの見る夢は 紅い涙を流すこと 透明な血を流すこと 孤独にのまれず生きること
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 ひらり、ひらり、と。
 白いものが舞っている。
 それはまるで…天界の櫻のよう、だった。

 冷え込んできた毎日に着る服がなくて、悟浄のセーターを借りた。
 真っ白なタートルネックのセーターは暖かいが、あいつの背が高い分だけ袖が余って、手の平が隠れてしまうのが、癪に障る。
 それでもそれを手放せないほどには寒かった。

 服を買いに行くか?
 そう言われたが、断った。多分、長らくこの場所に留まれないから。
 それでも一緒に過ごしていく毎日の中で、俺のものは増えていた。
 こうやって降り積もって行く雪のように。

 あいつの中にも、こうやって積ってゆくのだろうか、俺との思い出とかいうやつが。

 セーターから出した手の平に雪片を受ける。
 それは一瞬だけ刺すような冷たさを残して、消えた。

「雪、珍しいの?」

 背後から声をかけられる。
 振り返ると、悟浄が寒そうに肩を竦めて立っていた。

「そう、だな。俺が住んでる場所では雪は降らないから、な。櫻の花弁が雪のように振るぞ」
「へぇ…それ、見てみてぇかも」

 隣に並んで雪を見上げる悟浄の横顔を見る。
 つめてっ、と顔を顰めて、笑っていた。

 手の平に落ちて溶ける雪を見ている。
 一瞬の冷たさのあと、何も残さず消えるその雪片に。

 こいつの前から消える時は、俺もこんな雪片のように消えられたら、と思った。

 いつまでも続かぬこの毎日を。
 今だけは、積った雪につける足跡のように。
 ここにいた記憶を刻み付けて。
 降り積もる雪のように。
 思い出を重ねよう。



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 畳の部屋に炬燵。
 寂れた町の寂れた宿の一室。
 長方形の炬燵は4人で入るのに丁度良く、僕たちは四辺に仲良く入って温まっている。

 山で雪に降られて徒歩で進み、やっとの思いで辿り着いた。
 滑る道に足を取られて、崖から落ちそうになった三蔵とそれを助けようとして自分が落ちた悟浄。
 三蔵は無傷。悟浄も積った雪のお陰か、軽く捻挫した程度ですんだ。

 外はまだ雪が降り続いている。
 もう、三日だ。

「煙草がねぇ…」
 三蔵がぼそり、と僕の方を見て呟く。
 この大雪で敵が襲って来ないのを幸いに、のんびりしすぎていたのかもしれない、と思う。
「明日には雪も止むようですしね。旅支度の買い出し、しておきますか」
 離れがたいけど、と立ち上がる。
「買い出しか? 俺も行こうか?」
 もそもそと動こうとする悟浄を僕は押し留めた。
「貴方はもう一日、じっとしててください。完全に足、治ってないんですから。悟空、一緒に来て下さい。三蔵と悟浄の煙草も買ってきますね」
 僕は悟空を連れて雪の中、買い出しにでかけた。


「ぅ~~さっみぃ~~」
「戻りました」
 部屋のドアを開ける。
 震えながら駆け込む悟空に僕を苦笑しながら荷物を抱えて室内に入る。
 適温で、眼鏡が曇った。
「あぁ~! 二人して寝てんじゃねぇよっ!」
 悟空の声に曇った眼鏡を拭いてコタツを見る。
 長方形の長い方になぜか二人仲良く並んで寝ている三蔵と悟浄が見えた。
「いいじゃないですか、悟空。寝かせておきましょう? 僕たちは…厨房に行って、甘くて暖かいココアでも淹れて飲みませんか?」
 寒くて、暖かい飲み物に反応したのか、それとも甘いココアが魅力だったのか。
「ココア! 飲みてぇ!!」
 悟空は急に二人に関心を失ったようで、僕の腕を掴むと厨房へ向おうとする。
 僕は引っ張られるようにして、部屋を出る間際。
「ご馳走様です」
 思わず呟いていた。

 少し離れた二人の身体の間で、しっかりと繫がれていた指に。
 胸焼けがするくらいに甘いココアもいいな、と思っていた。





「悟浄、何か欲しい物あります?」

 便箋を目の前に置き、ペンを握った八戒にいきなり聞かれた。

「へ?」
「クリスマスじゃないですか。悟空がプレゼント、と騒ぐので、ね。セント・ニコラウス…いえ、サンタクロース、ですか…に、手紙を書いているんですよ。貴方のもお願いしてみようか、と」
「…さんたくろーす? 何、それ?」

 え?
 という顔をされた。

「知らないんですか、サンタクロース? もしかして、クリスマスも?」
「クリスマスは知ってけどな。プレゼントは、女には貰った事あっけど」

 知らないわけじゃ、ない。
 ガキの頃、近所のガキどもが賑やかに話してるのは聞いてた。
 けど、俺には関係ないことだったから。
 サンタが来んのは、イイコのとこだけ。俺は…母親を喜ばすこともできない、いつも悲しませるだけの存在だったから。
 関係ないもん、だった。

 だから、知らないもん。
 んな過去、言ったって仕方ねぇし。
 知らないって言っちまうのが簡単だろ?

「お前さ、クリスマスパーティとか、もしかして考えてる?」
「そうですねぇ。悟空と三蔵呼びますかねぇ。楽しいですよ、きっと」
「そいつは勘弁してくれ。俺はいつもの……」

 ふと、八戒の書きかけの便箋の文字が目に入る。

『彼女が天国で笑顔でいてくれますように。その様子を夢で見せてください。』

「仲間との楽しい時間…」
「え?」
「俺が欲しいプレゼント。そう、書いといてよ」

 八戒はにっこりと笑うと、俺の言葉をその手紙に付け足した。

「悟空の希望が書いてねぇけど?」
「ああ。悟空は大きなケーキを食べたい、と言ってましたからねぇ。僕が作りますよ」
「じゃ、俺、手伝うわ」

 楽しいクリスマス、か…。
 サンタクロースなんざいなくたって、いいんじゃねぇの?



 八戒を拾って初めてのクリスマス、だった。



「俺を…殺せ…」
 貴方が苦しそうに言う、僕の手を握って。


 旅が終わり、使命も果たした。
 けれど、そこまで、だったのだ。
 過酷な旅に、三蔵はすっかり身体を壊してしまっていて、帰ることなど考えられなかった。
 三蔵が動けないのならその場にそのまま残る、と言う悟空を宥めて、長安への使いにした。もっと快適に移動できる手段を算段してきてくれるように、と頼むと、悟空はしぶしぶといった感じで、ジープとその運転手として悟浄と共に出発をした。
 世話をするために残るのは、僕が一番適役だと、二人とも納得をしていたから。


 ゆっくりと伸びてきた三蔵の腕が僕の頭に回される。
 そのまま引き寄せられて…キスをされた。
 ずるい。
 僕は呟く。
 こんな時にキスをするなんて。
 二人きりになって。
 本当なら、これから、だったはずなのに。
 彼がもう、長くはないことは…わかっていた。
 きっと、悟空や悟浄が戻って来るまで持たないだろう。わかってて、二人を送りだした。
 少しでも、二人でいたいと…そう望んだのは…僕だけではなかった、から。
 唇が離れる。
「俺を…殺せ…」
 手が僕から離れる寸前、僕の妖力制御装置が外された。
 するり、と伸びる蔦が離れる三蔵の手を追って絡みつく。離れたくない僕の心を代弁するかのように。
「その姿なら…簡単だろうが。今すぐ、俺を…殺せ」
 熱に潤んだ紫暗がまっすぐに僕を見た。
 三蔵の真意が、見えない。
 彼が死んでしまうまでの時間を、ただ二人で…肩を寄せ合っていたい、とそれだけを望むのは…間違っている?
「お前が…姉のことを引きずっていることは知っている。お前に殺せ、と頼むのは…良くないことだと、わかって、いる…」
 殺せるわけが、ない。こんなにも…こんなにも…。
 優しく頬を撫でると、妖怪の伸びた爪が、その皮膚を微かに傷付けた。
 滲む紅いそれに惹かれるように、舌を伸ばして舐め取った。
「誕生日に何が欲しいか、と聞いたな? 俺は…自分の身体が動かなくなって死ぬのは嫌だ。動けるうちに死にてぇ。お前に、殺されてぇ。死んでも、お前を縛りつけたい、と望むのは…」
 ああ…。それならば。
 間違っていないですよ、三蔵。


 妖怪の姿のまま、三蔵を、抱く。
 彼が望むままに。痛みと快楽を与えて。
 僕は、貴方に縛り付けられる。
 貴方に僕を刻みつけて。
「骨の一つも残さず、僕が食べてあげますから…。ねぇ…三蔵?」
 快楽の中に落としこんで。
 僕は彼を………殺した。


 誕生日おめでとうございます、三蔵。
 貴方が生まれた日が貴方の命日。
 そして…新しく…僕の中で…僕が死ぬまでの時間を共に生きるために、生まれ変わった、日。





 今日も客は来ない。
 誰もない空間で時間を過ごすのも慣れてしまった。
 それでも、いつ誰が来てもいいように、乾いたクロスでグラスを磨く。
 時計を見ると、日付が変わった時刻だった。
 手を止めるとカウンターから出て、スツールに座り、煙草に火を点けた。

 カラン…。

 ドアベルが軽い音を立てて、ドアが開く。
 吸いかけの煙草を慌てて消すと立ち上がり客を迎えようとして…。

「なんだ…」

 なんだとはなんだ。
 相手が苦笑しながら入ってくる。

「久しぶり、だな」

 カウンターに戻って使っていた灰皿を片付けると、グラスを一つ取って、目の前の席に座るように勧めた。

「最近、どうよ?」

 どうよ、とは?
 目の前に座りながら、そいつ…独角兒が言った。
 おたくんとこの王子サマとか、みんな元気か?

 やべぇ。話題が思いつかない。
 旅がすんで。すべてが終わって。
 俺らもだけど…それ以上にこいつらの方が色々大変だったんじゃねぇかな、とは思うんだけど。

 皆、元気だ。賑やかにやってる。
 短く答えられて、それを鵜呑みに出来るほど単純じゃねぇけど。それでも嬉しそうな顔に安心をした。
 それから………。

 無意識に作っていたカクテルを独角兒の前に置いた。

「ゴッドファーザーだ」

 カクテルの名前を問うのに、そう答える。
 名付け親? なんでまた?
 聞き返されても困る。俺だって、なんでこんなカクテル作ったのか…。

 お前が生きてて…いい仲間と一緒で…俺は嬉しかった。敵でも味方でも、そんなことは関係なかった。
 一口酒を飲んで、ぼそり、と言う。

 それは俺だって同じだ。ずっとずっと探していた奴と、拳を交える事になるとは思わなかったけどな。
 俺は苦笑しながら答えた。

 ずっと追っていた背中に。もう一度守って欲しいなどとは言わないけど。肩を並べて一緒に酒を飲んでみたいと思っていた。
 今、それが叶う、のか。

「俺が生きてられたのは、あんたのお陰、だから、かな? 親みてぇなもんじゃね?」

 だから、ゴッドファーザーなのだ、と。
 多分、それが答え。

 泣くんじゃねぇよ。
 カクテルを飲み干した独角兒が急に言った。

 それは…泣いていいんだ、と言われていたんだって知ったのは…オトナになってから。

「ガキじゃねぇんだ、泣いたりしねぇっての」

 笑って答えるけど、声、震えてなかっただろう、か…。
 こうやってなんも考えず、血の繋がった家族と一緒に過ごすことが、どれだけ…。
 これを味わうことの出来るのが、一緒に旅をしたあいつらの中で、俺だけだってことが…。

 グラスを二つ用意する。
 酒を注ぎ、底にオリーブを沈める。
 独角兒と…兄貴とグラスを傾けるなら、これがいい、と思ってたカクテル。

 軽く縁をあわせて乾杯すると、そのショートカクテルを一気に咽喉に流し込んだ。

「マティーニのオリーブが嫌い。一人取り残されてるみたいで。ってなんかの台詞にあったっけ…」

 カクテルピンに刺さったオリーブを転がすと、兄貴は自分のそれを口に運んだ。

「もう、取り残したりしない。紅たちも…お前も…」

 俺は、それに頷くと、自分のそれをぱくり、と食べた。
 酒の味とオリーブの香りが口いっぱいに広がって…それはきっと幸せの味なんだ、と思った。




・ゴッドファーザー ウイスキー45ml、ディ・サローノ・アマレット(杏の核のリキュール)15ml ビルド

・マティーニ ドライ・ジン50ml、ドライ・ベルモット10ml、オリーブ1個 ステア


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