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くれないづきの見る夢は 紅い涙を流すこと 透明な血を流すこと 孤独にのまれず生きること
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 またこの時期、か…。
 気分が沈む。
 仕方ねぇよな、こればっかは。
「どうしたよ?」
 同居してる奴が聞いて来るのにただ、笑って見せる。
 いつものように撫でられるけど、嬉しいとは感じねぇ。
「よし、これから出かけるぞ!」
 気を使ってくれてんのはわかる。
 出かける気分じゃなかったけど、俺は付き合うことに、した。




 出かける、つっても行先はいつもの酒場。
 大して大きくもない街で、野郎が二人で行くとこなんざ、限られる。
 結局いつもの酒場でいつもの席に落ち着くしかねぇ。
「あら、悟浄。今日も彼氏と一緒?」
 馴染みのオンナが俺たちの間に割って入る。
「彼氏ってなんだよ」
 いつもの会話。オンナたちは俺や捲簾を構って遊びたいだけなのだ。
「ねぇ悟浄? 明日、暇? あたしと遊ばない?」
 他の女が声をかけてくる。
「あら、悟浄は明日は私と遊ぶの。ねぇ、いいでしょう?」
「悟浄、お誕生日のプレゼント、何か欲しいもの、ある?」
 オンナたちに取り囲まれた。
 その中の一人の腰に手を回す。
「そだな、アンタをちょうだい?」
 上目遣いに見上げると、オンナたちは黄色い声を上げた。

 オンナって…なんで誕生日なんか気にすんだろ?
 祝われたりしたくねぇから黙ってた。
 ある日、行為の後、占いするから誕生日教えて? って言われて、深く考えずに答えちまったのが運のつき、だったのかもな…何日か後には酒場で出会うオンナみんなが俺の誕生日知ってて驚いた。
 去年はそれで鷭里やオンナたちとバカ騒ぎしたっけ。
 一体、何が楽しいんだか…俺にはさっぱりわかんなかった。
 翌日は見覚えのねぇ部屋の大きなベッドの上で、二人のオンナと一緒だった。ひどい二日酔いで最悪な朝。
 やっぱり、誕生日なんざ、いいこと、ねぇ。

 オンナたちに気づかれないようにため息を煙草で隠す。
 目の前に置かれたいつもの酒を飲み干して、誤魔化すように笑う。
「悪ぃな。こいつの明日は俺の貸しきりなの」
 オンナたちの間から、急に手が伸びてきて、俺の肩を抱き寄せた。
「おい、何すんだっ」
 身を捩る俺と離そうとはしない腕。オンナたちの揶揄うような悲鳴。
 暫く黄色い悲鳴で俺たちを揶揄っていたオンナたちは、やがて飽きたのか、一人、二人、と傍から離れて行った。
「せっかくの今夜の寝床、ど~してくれんだよ」
 オンナの背中を見送りながら、俺は捲簾に悪態をつく。
「それでそのまま、誕生日パーティとやらになだれ込むのか? 望んでもいないくせに」
 見透かされてる、と思った。
 だから、その顔を見る事もせず、俺は一人、目の前の酒を空にすると席を立った。


** *** **


 席を立った紅い髪の男を追いかける。
 店を出て行くその背中は、小さく見えて。
 すれ違った親子連れを、羨ましそうに、寂しそうに、苦しそうに、悲しそうに…なんとも言えない顔で見送るその横顔に、俺は言ってやる言葉をみつけることができなかった。
「俺、生まれてきて良かったのかな?」
 ぼそり、と呟かれる言葉に、俺は黙って隣に並んだ。
「俺が生まれて、両親は死んじまって。アノヒトを壊したのも、俺。兄貴を親殺しの犯罪者にしたのも…。なのにさ、俺はマトモなことなんざ一つもして来なかった。生まれてこなきゃ良かったのにな…」
 そんなことない。
 言葉で言うのは簡単だけど、言えなかった。
 だから、黙ったまま並んで歩く。
「あんたは言わねぇのな、そんなことない、って」
「言ったらその言葉を信じるか、お前は?」
「多分…信じねぇ…な…。そんな事、言われたこともねぇし、言われたいと思ったこともねぇからな…」
 それ以上悟浄も俺も何も言わず、帰路を辿った。




「飲み直すか?」
 家に着くと俺は返事も待たずに酒の用意をする。家中の酒を集めて、冷蔵庫から肴になりそうなもんを引っ張りだして。
 ソファに悟浄を座らせるとグラスを持たせて酒を注いだ。
 黙ったままグラスを空ける悟浄。
 俺も黙ったまま、グラスを傾ける。
 話すことはなかった、から。
 この家の古びた時計が日付が変わったことを教える。
「誕生日、おめでとう、悟浄」
 言われたくないだろうと思いつつ、俺は一言だけ、言った。
 悟浄は、潰れてテーブルに突っ伏して寝ていた、から。


** *** **


 あったま痛ぇ…。
 ガンガンする頭とぼんやりと焦点のあわない視界。
 昨夜、そんなに飲んだっけ?
 飲んだ、か…。
 オンナに騒がれて、すぐに酒場を出て。
 家で飲み直した。
 この日がイヤで、忘れたくて…思い出したくなくて。
 くしゃり、と頭を撫でられる。
「今日は一日、なんもしたくねぇ…」
 俺を撫でる大きな手がぼそり、と呟く。
 こいつも飲みすぎたのか、と思うとおかしくて笑ったら、それが頭に響いて思わず顔を顰めた。
「このままダラダラしててもいいんじゃねぇか?」
 起き上がろうとした俺の腕を引っ張るその温もりに。
 おめでとう、なんて面と向かって言わないこの男の優しさに。
「じゃぁさ、今日はずっと撫でててくんねぇ?」
 そう言って、もう一度捲簾の隣に猫のように丸くなった。
 こんな…ダラダラとした何もない一日が、俺にとっては一番のプレゼント。
 撫でられる心地好さに目を閉じて微睡みの時間に身を委ねた。




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夏風亭心太


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