くれないづきの見る夢は 紅い涙を流すこと 透明な血を流すこと 孤独にのまれず生きること
Category:最遊記
ずっとずっと夢を見てる。
生きるってなに? 死ぬって…?
もう、会えなくなること。
動かなくなること。
それが死ぬこと。
じゃぁ…
誰かに会うこと。
動くこと。
それが生きること?
だったら。
おれは死んでるの?
誰にも会わない。
動けない。
明るくなって暗くなって。
暑くなって寒くなって。
雨が降って雪が降って。
もう数えきれないぐらい、ずっと、縦に切り裂かれたそんな世界を見てる。
歌いに来てくれてた小鳥が、おれの前で動かなくなった。
手を伸ばしても届かないそこで、小鳥は静かにその姿を変えて。
あいつらもこうなっちゃったのかな?
あいつらって、誰?
忘れちゃいけないはずなのに、忘れてしまった。
でも、あいつら、を思う時、おれは少しだけ生きてる。
あったかい気持ちとちょっと痛い気持ち。
きっとそれって生きてるってことだろう?
忘れてしまったあいつらと、忘れていない約束。
俺が、お前に手を差し出すから……
手を差し出されたとき、きっと俺は夢から覚めて生きるんだろうな。
「おーい、悟空、置いてくぞ~」
悟浄が呼んでる。
俺は、空っぽの座敷牢を見てた。
この世界の瘴気で狂い、座敷牢に閉じ込められていたヤツが逃げ出した。
旅の途中に寄ったこの町は大騒ぎで。
俺たちはその妖怪を退治して。
感謝されて盛大な持て成しを受けて。
出発しようとしてた。
「どうしたんですか、悟空?」
なんでもない、と首を振る。
あの妖怪も切り裂かれた世界を見てたのかなぁ…
口に出しそうになった言葉を飲み込んだ。
そんなこと言った日には、悟浄にはバカにされっだろうし、八戒はすんげー心配すんだろうな。三蔵は?
「俺、生きてるんだもんな…」
呟いて、みんなと肩を並べる。
「…悟空…お前は…まだ夢を見るか…?」
三蔵は、小さな声でそう訊くと、俺の頭をわしわしと撫でてくれた。
「へ? 三蔵サマ?」
その行動に驚いたような悟浄の声。旅に出てからこんなふうに撫でられたことはなかったっけ。
忘れちまったあいつらと、今ここにいる仲間。
あいつらを思い出せないことには胸が痛むけど、仲間と一緒にいると、生きてるんだ、って実感できる。
なぁ、あんたは夢を見てたのか?
俺は自分が退治した座敷牢に閉じ込められてた妖怪に聞いてみたかった。
俺は夢から覚めた。
仲間とずっと歩んでいきたい。
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Category:最遊記
目が覚めると日はずいぶんと高くなってた。
昨日の酒が抜け切れねぇ頭をゆっくりと振ると、ゴソゴソとベッドから抜け出す。
あ~…コーヒー…
咥えた煙草に火を点けて、キッチンを覗くけど、あいつはいねぇ。
おーい…
呼んでみても返事は、ねぇ。
バサリ、窓の外で大きな何かが羽ばたくような音。それにつられて窓の外に目をやると、真夏のような季節外れの真っ青な空。
あ、洗濯か。
俺はあいつの姿を求めて、外へ出る。
干されてるのは、ヤロー二人分の衣類に、大きなバスタオルと真っ白なシーツ。
綺麗に干された洗濯物のそばに、あいつはいない。
きょろきょろと辺りを見回す。あ、いた。
少し離れた木陰に座っているあいつ。
お……
大声を出しかけて、やめた。
読みかけの本を胸に、どうやらあいつは寝てるみてぇ。
ずり落ちそうな眼鏡に手を伸ばす。そっと外して額にキスしてみても、起きやしねぇ。なんとまぁ、気持ち良さそうだな…。
真夏の空にさわやかな春の風。まぁ、昼寝もしたくなるってもんだ。
俺はちょうどいい二日酔い。もうひと眠りしたっていいんじゃねぇかな。
隣にゴロンと転がって空を見上げているうちにどんどん瞼は重くなって。
さて…どっちがどっちのキスで目覚めるのかなぁ…。
Category:最遊記
「生きろ」
そう言われたから生きてきた。
アノ人が死んだあの日。生も死もどうでもいいと思っていた俺に、ただ、生きろ、と言ったのは誰だったのだろう?
17年、必死で生きたと思う。もう、いいよな………意識が……遠のく……遠くで…あいつらの…声が…する………。
気が付くと俺は一本の道の上に立っていた。嫌なくらいに見覚えのある道。自然と足が震える。それでもその先にしか自分の帰る場所はないのだと知っている。
いや、違う。俺は自分の手を見つめる。もう、あのころの非力な俺じゃない。今の俺なら……それでも、染みついた恐怖は拭えない。
「……かぁ…さん……」
アノ人はもうとっくに死んじまってる。戻ったところで誰も迎えてなどくれない家に恐怖するとかどうかしてる。もっとも、アノ人に迎えてもらった記憶なんてどこにもないけど。
ただ…もしもまだアノ人の骸がそのままあったらどうしよう、とは思う。腐って溶けて骨になってりゃいいけど、もしも、ミイラだったり、死蝋になってたりしたら。俺は…そこにアノ人の面影を見つけてしまって…どうするのだろう? きっと、恐怖の本質はそこにある。自分の感情の不確定さが…。
それにしても…そもそもコレはナンだ? 俺はあいつらと一緒に西に向かって旅をしていたはずだ。なぜ、一人でこんなトコにいる?
俺の躊躇いと疑問とは関係なしに足は勝手に家へと向かう。
家が、見えてきた。
バンッ、と玄関のドア大きな音を立てて男が一人、飛び出してきた。
「えっ……」
男は俺の横をすり抜けるようにして行ってしまう。
その男には見覚えがあった。
「………兄貴…?」
ココは…あの日、なのか…?
血が…流れてる。そいつはまるで生き物みたいに、おれの方へ近づいてくる。
「かぁさん?」
おれがそう呼ぶといつも飛んでくる平手打ちが飛んでこない。
おれはただ、かぁさんに笑っていて欲しかっただけなのに。
なんでおれが生きててかぁさんがうごかなくなっちゃったんだろう。
紅い、血。おれの色。かぁさんの大嫌いな色。
ねぇ、かぁさん、そんなにおれのこと嫌なの?
血はまるでその持ち主に嫌われていることを知っているように、どんどんどんどん流れ出てくる。
溺れそうだよ、かぁさんの血で…おれの紅で…。
「ねぇ…かぁさん…」
伸ばしかけたおれの手は真っ赤で。この手で触ったらきっとまたぶたれる。
おれは膝を抱えて丸くなって目を閉じる。
笑った顔が見てみたかったな、かぁさんの…。
きっと、すごくきれいだったんだろうな。町のみんなが言ってたもの。
あにき、出て行っちゃったから、おれ、ここにいるね?
起きたら、おれのこと、叩いても蹴ってもころしてもいいから…笑ってよ……。
「おい、ガキ!」
いつの間に入ってきたんだろう、知らない人。
あ、この人、おれとおんなじ色だ。
この人もかぁさんに嫌われてたのかな?
い…痛いよ、腕をそんなに引っ張らないで…。
その人は、おれのこと抱え上げるようにして家から引っ張り出すと、そのまま町のそばまで連れてきた。
「生きろ!」
一言だけいうと、その人はまっすぐにおれの目を見た。
おれはうなづく。だって、かぁさんはもう、おれをころせないから。
だったら生きるしかないし、この人の言うことはきかないといけない、って思ったから。
その人は、ちょっと困ったような悲しいような顔をしてそれでも笑って、おれの頭に手を置いてやさしく二度叩いた。
「生きろ」
もう一度そう言うと、その人はおれの家の方へ行ってしまった。
ああ、やっぱりそうか。これは、あの日だ。
ガキの俺を町に置いて、俺は戻った。
アノ人の死に顔を見るために。
「かぁさん…」
そこに死んでいるのは小さな女で。笑顔ならさぞや美人だったんだろうな、とわかる。
恐怖も恨みもなかった。
だって、そこにあるのは、ただの死んだばかり女。
躊躇や恐怖の源は、きっと、弔ってやれなかったことへの後悔だったんだろう。
死ぬ前に見る走馬燈とやらが、この過去だったなんてな。
夢のくせに覚えてないアノ人の顔がやけにはっきりわかる。
触れたくても触れられなかった、アノ人の手、頬、髪。
静かに触れて、抱き上げた。
裏庭にちょうどいい場所がある。
シャベルは倉庫にあった。
丁寧に埋めてやる。
手向ける花は、ない。
それを残念に思って、しばしその場に佇む。
足元に落ちているのは…アノ人の…指輪?
ホント、ちっせぇ。俺の小指にも入りゃしねぇ。
こんなちっせぇ女が怖かったなんて。
でも…彼女が、おれのせかいのすべてだったんだ…。
小さな指輪を握りしめる。
ああ、そう、か…生きろ、と言ったのは俺で、おれはその約束を必死に守って生きていたのか…。
じゃぁ、まだ…死ねねぇな…。
あいつらんとこ、帰らねぇと。
ふ、と目を開けると見慣れぬ天井で。長い旅の最中で。
アノ人の墓の場所がわかったのはあの日から17年後で。おいそれとは行ってみることもできないことがもどかしい気がした。
「悟浄、目が覚めました?」
心配なんてしてませんよ、とでも言いたげな表情で、八戒がのぞき込んできた。
そうやってのぞき込んでるだけで十分心配してたことはわかる、って。
「…俺……」
手に何かを握っている気がする。
そろそろと身体を起こすと八戒が手伝ってくれた。
「3日も起きないから……」
俺の状態を説明している八戒の言葉を聞き流しながら、手を開いてみると、そこには小さな指輪が一つ。
「なんです、それ?」
「さぁ?」
俺は言葉を濁す。てか、俺にもわかんねぇし。
夢で行った場所のもん、持って帰ってきた、なんて信じらんねぇ話だし。
立ちたい、というと八戒が肩を貸してくれる。
鏡を見る。
そこには、困ったような悲しいような顔で笑顔を作る男が映っていて。
「まだ、生きるぞ…」
その男につぶやくと、八戒があきれたようにため息をついた。
「当たり前じゃないですか。あなた、殺したって死なないでしょうに」
自分への約束だ、などと言ったらこいつはどんな顔をするんだろう。
旅が終わったら、花を手向けにアノ人のもとへ行こう、と心に決めた。
それまでは「生きろ」
そう言われたから生きてきた。
アノ人が死んだあの日。生も死もどうでもいいと思っていた俺に、ただ、生きろ、と言ったのは誰だったのだろう?
17年、必死で生きたと思う。もう、いいよな………意識が……遠のく……遠くで…あいつらの…声が…する………。
気が付くと俺は一本の道の上に立っていた。嫌なくらいに見覚えのある道。自然と足が震える。それでもその先にしか自分の帰る場所はないのだと知っている。
いや、違う。俺は自分の手を見つめる。もう、あのころの非力な俺じゃない。今の俺なら……それでも、染みついた恐怖は拭えない。
「……かぁ…さん……」
アノ人はもうとっくに死んじまってる。戻ったところで誰も迎えてなどくれない家に恐怖するとかどうかしてる。もっとも、アノ人に迎えてもらった記憶なんてどこにもないけど。
ただ…もしもまだアノ人の骸がそのままあったらどうしよう、とは思う。腐って溶けて骨になってりゃいいけど、もしも、ミイラだったり、死蝋になってたりしたら。俺は…そこにアノ人の面影を見つけてしまって…どうするのだろう? きっと、恐怖の本質はそこにある。自分の感情の不確定さが…。
それにしても…そもそもコレはナンだ? 俺はあいつらと一緒に西に向かって旅をしていたはずだ。なぜ、一人でこんなトコにいる?
俺の躊躇いと疑問とは関係なしに足は勝手に家へと向かう。
家が、見えてきた。
バンッ、と玄関のドア大きな音を立てて男が一人、飛び出してきた。
「えっ……」
男は俺の横をすり抜けるようにして行ってしまう。
その男には見覚えがあった。
「………兄貴…?」
ココは…あの日、なのか…?
血が…流れてる。そいつはまるで生き物みたいに、おれの方へ近づいてくる。
「かぁさん?」
おれがそう呼ぶといつも飛んでくる平手打ちが飛んでこない。
おれはただ、かぁさんに笑っていて欲しかっただけなのに。
なんでおれが生きててかぁさんがうごかなくなっちゃったんだろう。
紅い、血。おれの色。かぁさんの大嫌いな色。
ねぇ、かぁさん、そんなにおれのこと嫌なの?
血はまるでその持ち主に嫌われていることを知っているように、どんどんどんどん流れ出てくる。
溺れそうだよ、かぁさんの血で…おれの紅で…。
「ねぇ…かぁさん…」
伸ばしかけたおれの手は真っ赤で。この手で触ったらきっとまたぶたれる。
おれは膝を抱えて丸くなって目を閉じる。
笑った顔が見てみたかったな、かぁさんの…。
きっと、すごくきれいだったんだろうな。町のみんなが言ってたもの。
あにき、出て行っちゃったから、おれ、ここにいるね?
起きたら、おれのこと、叩いても蹴ってもころしてもいいから…笑ってよ……。
「おい、ガキ!」
いつの間に入ってきたんだろう、知らない人。
あ、この人、おれとおんなじ色だ。
この人もかぁさんに嫌われてたのかな?
い…痛いよ、腕をそんなに引っ張らないで…。
その人は、おれのこと抱え上げるようにして家から引っ張り出すと、そのまま町のそばまで連れてきた。
「生きろ!」
一言だけいうと、その人はまっすぐにおれの目を見た。
おれはうなづく。だって、かぁさんはもう、おれをころせないから。
だったら生きるしかないし、この人の言うことはきかないといけない、って思ったから。
その人は、ちょっと困ったような悲しいような顔をしてそれでも笑って、おれの頭に手を置いてやさしく二度叩いた。
「生きろ」
もう一度そう言うと、その人はおれの家の方へ行ってしまった。
ああ、やっぱりそうか。これは、あの日だ。
ガキの俺を町に置いて、俺は戻った。
アノ人の死に顔を見るために。
「かぁさん…」
そこに死んでいるのは小さな女で。笑顔ならさぞや美人だったんだろうな、とわかる。
恐怖も恨みもなかった。
だって、そこにあるのは、ただの死んだばかり女。
躊躇や恐怖の源は、きっと、弔ってやれなかったことへの後悔だったんだろう。
死ぬ前に見る走馬燈とやらが、この過去だったなんてな。
夢のくせに覚えてないアノ人の顔がやけにはっきりわかる。
触れたくても触れられなかった、アノ人の手、頬、髪。
静かに触れて、抱き上げた。
裏庭にちょうどいい場所がある。
シャベルは倉庫にあった。
丁寧に埋めてやる。
手向ける花は、ない。
それを残念に思って、しばしその場に佇む。
足元に落ちているのは…アノ人の…指輪?
ホント、ちっせぇ。俺の小指にも入りゃしねぇ。
こんなちっせぇ女が怖かったなんて。
でも…彼女が、おれのせかいのすべてだったんだ…。
小さな指輪を握りしめる。
ああ、そう、か…生きろ、と言ったのは俺で、おれはその約束を必死に守って生きていたのか…。
じゃぁ、まだ…死ねねぇな…。
あいつらんとこ、帰らねぇと。
ふ、と目を開けると見慣れぬ天井で。長い旅の最中で。
アノ人の墓の場所がわかったのはあの日から17年後で。おいそれとは行ってみることもできないことがもどかしい気がした。
「悟浄、目が覚めました?」
心配なんてしてませんよ、とでも言いたげな表情で、八戒がのぞき込んできた。
そうやってのぞき込んでるだけで十分心配してたことはわかる、って。
「…俺……」
手に何かを握っている気がする。
そろそろと身体を起こすと八戒が手伝ってくれた。
「3日も起きないから……」
俺の状態を説明している八戒の言葉を聞き流しながら、手を開いてみると、そこには小さな指輪が一つ。
「なんです、それ?」
「さぁ?」
俺は言葉を濁す。てか、俺にもわかんねぇし。
夢で行った場所のもん、持って帰ってきた、なんて信じらんねぇ話だし。
立ちたい、というと八戒が肩を貸してくれる。
鏡を見る。
そこには、困ったような悲しいような顔で笑顔を作る男が映っていて。
「まだ、生きるぞ…」
その男につぶやくと、八戒があきれたようにため息をついた。
「当たり前じゃないですか。あなた、殺したって死なないでしょうに」
自分への約束だ、などと言ったらこいつはどんな顔をするんだろう。
旅が終わったら、花を手向けにアノ人のもとへ行こう、と心に決めた。
それまでは「生きろ」
Category:最遊記
指が、冷たかった。
握るつもりはなかった、ただ、触れただけだった。
その冷たさに心が……騒いだ。
宿の部屋に入る。
いつものように、ベッドの上で横になった奴は、煙草に火をつけた。
「八戒と一緒だとできねぇし」
笑いながらそう言う奴に、先ほど感じた嫌な気配は感じない。
奴は煙草を消して、缶ビールを煽る。
夕方から降りだした雨が、窓をうるさいほどに叩く。
かたん、とサイドテーブルに置かれる缶の音が響く。
缶を離れる手を、思わず取っていた。
「冷てぇ……」
また、心が、騒いだ。
「なんなんだよ」
奴はうるさそうに俺の手を振り払い、ごろり、とベッドに横になった。
何日も野宿が続き、誰もが疲れていた。
それは、わかっている。
俺も、疲れきっていた。
それでも。
いや……だから。
横になった奴のうえに、俺は乗った。
そのまま、胸に耳を押し付ける。
「なんなんだよ。もしかして、そんな気分?」
どこか余裕を持ったように聞かれるが、俺は答えない。
生きてる。
指の冷たさに、彼の人の死を思い出した、など言えるわけもなくて。
奴の首がかすかに動く。
「そっか」
一言そう言うと、奴の両腕が俺の肩を抱いた。
俺は……ただ、奴の鼓動を、聞いていた。
Category:最遊記
煙草が美味い。
討伐に予想外に時間がかかってしまった。
見上げた夜空の真ん中を薄っすらと白い光の帯が走っていた。
「天の川、ですねぇ」
隣からも煙が立ちのぼる。
「下界から天界は見えねぇのに、なんで、あの川だけ見えんだろうな」
天の川、そんな名前じゃなかった気もすっけど、あの流れは見覚えがある。この下界にある海にも似た対岸すら見えない大きな、河。
下界から見上げると、あんななのか。
夏のこの季節だけ、こうして綺麗に見えるんだという。
「僕の両親はね、織姫と彦星なんです」
しごく真面目な声に、思わず噎せる。
「んじゃさ、お前の誕生日って、5月17日?」
どの暦を採用するかによりますねぇ。しれっと言われる。
それが本当なら、とんだ落とし胤だが、そんなことありえないってわかってる。
いつものわけのわかんねぇ冗談だ。
「下界では七夕になると短冊に願いを書いて、笹に飾るらしいですよ」
天蓬との会話はいつもこんな感じだ。
何が話したいわけでもないけど、何かを話したい。
討伐の後のこの一時が日常に戻るための儀式のようになっていた。
時間の流れが緩慢で全然動きもしていないようにも感じる天界で。年に一度の逢瀬を待つ恋人同士に下界の人間は何を祈るのだろう。
「僕らも、書いてみません? 短冊」
どこから取りだしたのか。一枚の短冊とペンを渡された。
あの河の畔の恋人に願うなら……。
手渡されたのは短冊とペン。
なんだよ、これ。
「こういうイベントには乗っておくべきでしょう?」
にっこり笑って言われたら逆らえねぇ、よな。
「ねぇ、悟浄?」
書こうとペンを持ったところで声をかけられた。
「貴方の願いは、叶いましたか?」
まだ書いてねぇし。
言いかけて、ふと、思い出す。
「叶った、んじゃね?」
こうして隣にいるんだから、さ。
討伐に予想外に時間がかかってしまった。
見上げた夜空の真ん中を薄っすらと白い光の帯が走っていた。
「天の川、ですねぇ」
隣からも煙が立ちのぼる。
「下界から天界は見えねぇのに、なんで、あの川だけ見えんだろうな」
天の川、そんな名前じゃなかった気もすっけど、あの流れは見覚えがある。この下界にある海にも似た対岸すら見えない大きな、河。
下界から見上げると、あんななのか。
夏のこの季節だけ、こうして綺麗に見えるんだという。
「僕の両親はね、織姫と彦星なんです」
しごく真面目な声に、思わず噎せる。
「んじゃさ、お前の誕生日って、5月17日?」
どの暦を採用するかによりますねぇ。しれっと言われる。
それが本当なら、とんだ落とし胤だが、そんなことありえないってわかってる。
いつものわけのわかんねぇ冗談だ。
「下界では七夕になると短冊に願いを書いて、笹に飾るらしいですよ」
天蓬との会話はいつもこんな感じだ。
何が話したいわけでもないけど、何かを話したい。
討伐の後のこの一時が日常に戻るための儀式のようになっていた。
時間の流れが緩慢で全然動きもしていないようにも感じる天界で。年に一度の逢瀬を待つ恋人同士に下界の人間は何を祈るのだろう。
「僕らも、書いてみません? 短冊」
どこから取りだしたのか。一枚の短冊とペンを渡された。
あの河の畔の恋人に願うなら……。
** *** **
手渡されたのは短冊とペン。
なんだよ、これ。
「こういうイベントには乗っておくべきでしょう?」
にっこり笑って言われたら逆らえねぇ、よな。
「ねぇ、悟浄?」
書こうとペンを持ったところで声をかけられた。
「貴方の願いは、叶いましたか?」
まだ書いてねぇし。
言いかけて、ふと、思い出す。
「叶った、んじゃね?」
こうして隣にいるんだから、さ。
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プロフィール
夏風亭心太
酒、煙草が好き。
猫好き、爬虫類好き。でも、虫は全部駄目。
夜が好き。月が好き。雨の日が好き。
こんな奴ですが、よろしくお願いします。
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