忍者ブログ
くれないづきの見る夢は 紅い涙を流すこと 透明な血を流すこと 孤独にのまれず生きること
[1]  [2]  [3]  [4]  [5]  [6]  [7]  [8]  [9]  [10]  [11
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


 もえるもえるもえる。

 真っ赤な華が一面に咲いている。
 それは、地獄の業火にも、天へ助けを求めて伸ばす人の手のようにも見える。

 有毒なその華の真ん中に立つのは、その華と同じ色を持った、ヒト。

 伸ばされた手を取って、並ぶ。

「ほら、綺麗、だろ?」

 貴方は笑う。

「街に入る途中で見つけてさ。見せてやろうと思って」

 この華、有毒なんですよ? 
 思わず出かけた言葉を飲み込んだ。

「お前、この色好きだって言ってたから」

 貴方は好きじゃないはずなのに。僕が貴方の色を好きだと言ったから。
 今でも、たまに、この紅を見て、顔を顰めているの、知ってるから。
 なのに、今日は笑っていてくれるから。

 思わず抱き締めていた。

「どうしたんだよ、急に…」

 困ったような貴方に、貴方がこの華に溶けてどこかに行ってすまいそうに思えたから、などとは言えず、僕はただ黙ったまま、くちづけた。
 優しくそれを受け止めてくれる貴方に甘えて。

「誕生日、おめでと。なんも用意できなかったから、さ…。こんなんでごめん」

 ちょっと照れたように言う貴方が愛おしい。

「ありがとうございます。荷物増やすと怒られちゃいますからね。この景色、大事に胸に仕舞って行きます」

 ただただ、貴方が僕の誕生日を覚えていてくれたことが嬉しかったから。
 貴方と一緒なら…ここが地獄の業火の真っ只中でも、一緒に溶けてしまってもいいと思った。


PR

 いい月の夜だった。
 中秋の名月、って言うのか、こういうの。

 近くに街はなく、野宿。
 灯りは野営のための焚き火だけ。
 そのせいか、月がいつもより輝いて見える。

 まぁ、暑いから風邪引く心配もねぇし、この満月もいい。

 猿は高鼾。その隣で寝苦しそうに三蔵が寝返りを打って、それでも眠っている。
 一日の運転で野営の時の飯作り。そして明日も運転な八戒は、無理矢理寝かせた。

 静かでいい夜だった。悟空の鼾さえ聞こえなきゃ、だけど。

 手元にはいつものカップに八戒が作って火の傍に置いておいてくれた珈琲。

 野営の寝ずの番はいつしか俺の役目になってた。けど、こんな月の夜は得した気分になるんだよな。
 単純っちゃ単純だけど。

 けど…こんな月なら、酒でも飲みながら愛でてぇもんだぜ。

「悟浄?」

 背後から声。
 八戒が起き上がって俺を見てた。

「八戒、いいから寝てろっての」
「この月、独り占めする気ですか?」

 笑いながら俺の隣に移動してくる。
 手元の荷物を漁って、出したのは、酒。

「どうですか? 一杯」

 悪戯っ子のように笑う八戒に俺は、いいねぇ、とカップの珈琲を飲み干すと空のカップを差し出した。
 なみなみと注がれる酒。その瓶を取って俺も八戒のカップに酒を注ぐ。

「中秋の名月に」
「僕たちの旅に」

 俺たちは風流さには程遠いアルミのカップで乾杯をした。

 風情を求めるより、ずっと俺たちらしい月見だった。


 悟空が酒飲める歳になったら、四人でこうやって酒を飲めたらいいな、とふとそんなことを思った。





悟浄ブログより転載


 身体を繋げる。
 それだけが、愛情を確認する術ではないけれど。
 お互いの熱が溶けるその感覚が気持ちいい。

 食べたい、唐突に思った。
 僕の身体の下で喘ぐ紅が。全身がその色に染まるのを見たい、と。

 突然「いいぜ」と言われた。
 見せ付けるように、首筋を僕に晒して、微笑んで。
 繋がるだけで心まで読むのか、この人は。

 けれど、食らいつけるわけもなく、代わりに紅い華を散々に散らした。
 思いのすべてを刻みつけるように。

 熱のすべてを、吐き出す時も、間近、だ。

 果てて疲れたようにベッドから頭だけ落として首筋を見せる貴方。
 そこに咬みつきたい。コトが終わっても、僕が彼に抱いた食欲は失われないようだ。
 自分でも抑えられない衝動に思わず歯を立てると貴方は小さく身動ぎした。

 散らした華をなぞるように優しく何度も噛み付くと、呟くように「月が」と言った。

 貴方と同じ景色が見たくて隣で同じ体勢を取る。 
 逆さになった世界の窓から。大きくて紅い月が…空に沈んでいた。

 その紅い光に染まって、貴方の身体も紅く見える。

 僕は…それに満足して、もう一度貴方の身体を抱き締めた。

 逆さになった世界の中で、僕は貴方と地に昇る。


○月○日

『本日は李厘様が失礼しました。
 友達と遊んできたとでも言うように貴方たちの事を話す李厘様にも困ったものです。
 遊び疲れた、と言いながら、お腹が空いた、と夕飯を催促する李厘様、今日は何を作りましょう。』

「李厘さんには大したお構いもしませんで、すみませんでした。
 彼女には、三蔵が肉まんを5つほど食べさせていましたので、食べすぎにならないよう、気をつけてあげてくださいね?
 僕たちは今夜は野宿なので、いつものように、適当に食材を入れたボリュームたっぷりのお鍋にでもしましょうかねぇ。
 味よりも量優先になってしまうので、腕の振るいがいがなくて、少し寂しいです。」


×月□日

「今日、滞在している街には大きなスーパーがありました。
 明後日は安売りの日だそうですので、明々後日までは滞在します。
 生鮮食品も安価で、宿の厨房を借りられることになったので、久しぶりに美味しいものでも作りましょう。
 旅の食材に生鮮食品が向かないのが残念です。
 この間教わった、保存食をいくつか作っておこうと思います。」

『どちらの街にご滞在ですか?
 私も明後日、その街に食品の買い出しに行こうと思います。
 お逢い出来るといいですね。
 よろしければ、新しい保存食のレシピをいくつかと、お薬を少し持って行こうと思います。』

「今、滞在している街は…○○という街です。
 街の方々に迷惑になるといけませんので、他言無用に願えますか?
 いつもすみません、ありがとうございます。
 それでは、僕も…李厘さんが喜びそうなお料理のレシピをいくつか用意しておきますね?
 では、明後日に。」


×月△日

『今日は…少しお元気がなかったようにお見受けしましたが、大丈夫ですか?』

「ああ…すみません。八百鼡さんにまで心配させてしまいましたね。
 なんでもありませんよ、いつものことです。
 悟浄が…女性を口説いて朝帰り、なんて…」

『また、悟浄さん、ですか…。
 まだ三日、ですよね?
 三日でそんな…』

「一晩で、というのも珍しくないですから…。
 もう、諦めていますよ。
 今夜も、別れの挨拶に行く、と出かけてしまいました。
 せっかく、彼の好きな料理を作ったのに…
 ああ、すみません。愚痴ってしまいました。」

『仕方のない方ですねぇ、悟浄さん…。
 よく、我慢してますね、八戒さんは。
 あ、今日渡したお薬の中に、赤い包み紙のものを一つだけ入れてあります。
 次、街で何日か滞在することになった時、悟浄さんに投薬してみてください。』

「何、ですか?」

『男性が…その…元気にならなくなるお薬、です。
 自分を守るために作ったお薬なのですが、もし、八戒さんのお役に立てば、と思ったので。
 必要なければ、捨ててください。』

「ありがとうございます。
 そう、ですね…。
 今度、お灸を据える意味で使ってみます。」

『私も実際に使ったことはないので、よければ、レポートをお待ちしています。』

「はい、必ず。」


○月×日

「八百鼡さんのお薬、すごいですねぇ。
 悟浄にはいい薬になったようです。
 青い顔をして帰って来たと思ったら、情けなさそうな顔をして僕に縋ってきましたよ?
 あれ、効果は何日ぐらいなんですか?」

『どれだけ効果が続くのか、その辺りが未知数なのですが…。
 それ以外、身体には害はないと思いますので、そのうち、効果は消えると思います。
 今、悟浄さんはどうしていますか?』

「お酒を飲んでふて寝しちゃいましたよ。
 今回は、三蔵が三仏神と連絡を取る必要があるとかで、一週間は滞在する予定ですので、その間、効果が続いてくれると助かりますねぇ。
 平和で。」

『八戒さん、ひどいこと言いますねぇ。
 でも、お役に立たみたいで良かったです。
 必要ならまた仰ってくださいね?
 調合しますので。』

「ええ、ありがとうございます。
 でも…これで少しは懲りてくれるんじゃないかと思ってますよ?
 女性に結構ひどい事言われたようなので。
 でも…お守り代わりによければもう一個だけいただけますか?」

『はい。
 では、次にお逢いできるとき、持って行きますね?』

「ええ、お願いします。」



「ねぇ、欲しいものが…あるの…」
 貴族の別荘を気取った館の一室で熟んだ空気の中。さっきまで踊っていたその腕の中で女がねだる様な視線を男に向けた。
「お前が何かを欲しがるなんて、珍しいな…」
 そこは高級娼館と言われる場所で、女は娼婦、男はその得意客。客の素性は聞かないのが暗黙の了解だが、その館で1、2を争う女を週に二日は来て買う男が随分と裕福なことはわかる。女にはそれだけで十分だった。
「で? 何が欲しいんだ?」
 こうして春を鬻ぐ場所として豪華な寝室を与えられ、綺麗なドレスも宝石も手にすることの出来る、そんな娼婦である彼女がさらに何かを欲しがるなど、下街の片隅、毎日の寝床でさえ確保出来ない女たちから見たらどれだけ贅沢なことか。それでも、女にはそれがどれだけ恵まれていることかわからなかった、から。
「一対の…東洋の宝石が……。あの時、の…」
 女がそれを見たのは、その客と外で食事をした時だった。
 どれだけ贅沢を許されようと、自由に振舞っているように見えようと女は籠の鳥で、客が連れ出してくれなければ、外に出ることはできなかった。
 久しぶりの外にはしゃぐ女を男は黙って許していた。あくまでも、馬車の中から、だったが。
 その女が、急に黙って食い入るように何かを見つめた。男もつられる様に女が見ているものを見る。
 そこは女がいる館よりも数段落ちる、それでも娼館と一目でわかるような建物だった。
 そこの二階の窓に、どこか憂いを含んだ瞳で街を見下ろしている翡翠色があった。
 象牙のようなキメの細かい肌と、絹のような黒い髪。見上げる女と目があって、その翡翠の瞳が、色の薄い唇が笑った。まるで蔑むように。
 女は過ぎ行く馬車の窓から身を乗り出すようにしてその窓を見る。
 その人物の背後から、紅い色が見えた。その紅が翡翠を愛しむように世話する様子に、一対の宝石を見た気がして、壊してみたくなったのだ。同じ籠の鳥なのに…。
 男は暫く考えてから、買ってやる、と答えた。
 女をいつものように買って、連れて行ってやる、と。


 一目でそれとわかる建物の前に、紋章を隠した立派な四輪馬車が停まった。
 滅多にないことに建物の中が慌しく動く。
 更にないことに、その馬車の客は女を同伴していたのだ。
「ここには東洋人がいるね?」
 客の所望する人物を出し渋る主に男はたくさんの金を握らせる。
「彼を世話する男も一緒に頼むよ」
 金を見た主は掌を返したように下へも置かぬ様子で二人を案内させる。もう一人の所望品である紅い髪の男に。
 客を案内して部屋を出ようとする彼を、女が初めて口を開いて止めた。
「見たのよ、私。ねぇ、貴方も私と同じ籠の鳥、なのに…。いいのかしら?」
 その言葉に。責められるべき二人は少し驚いたような顔をしてそれから代表したように翡翠の瞳がにっこりと笑った
「僕は、ね…。籠の鳥ではないんですよ…。好んでここにいるんです。ねぇ、悟浄? 彼が、ここにいよう、と言ったから…だから…」
「そゆこと。だからさ、こいつは客を選べるんだぜ? まぁ、ここの主人には世話んなってっし、どうしても、って言われたからよ、あんたらを入れただけ」
 綺麗な碧と紅が男と女を見比べる。
「で? 僕たちに何をお望みなんですか?」
 悔しそうな顔で女が二人の性交を見せろと言い出し、男は、1時間後に迎えに来ると言い残し、そこを後にした。
 

 男が女を迎えに行くと、そこに女はいなかった。
 そして…一対の宝石と女が言った、二人の東洋人も。
 ただ…紅く染まった部屋と、男のことなど見た事もない、と言い張る主だけが残されていた。




 愛する女を殺されて八戒は狂った。
 殺した男を殺して、血に狂った。
 それを止めたのが悟浄だった。彼の持つその色に、八戒は落ち着いたが、彼らにはその国を出奔するしか道は残されていなかった。
 だから、この国に来た。
 女性に過剰な反応を示す八戒を隠すように、男娼館に落ち着いて、そのまま二人で朽ちるはずだった。
 けれど。
 運命はそんなに優しくはなかった。
 もう、彼らに隠れる場所は残されていなかった。
 下街の裏道の、影の中に、悟浄は八戒を抱えて隠れるしかなかった。

 再び血の狂気に囚われてしまった八戒は、悟浄がいれば落ち着いていたが、彼がいないと血を求めて出歩く。殺傷沙汰が日常茶飯事なその街では、その欲求もなんとか解消できた。
 それがわかっていても、悟浄は二人が生きるために夜の街で、小さなパブで働いた。
 仕事が終わるとすぐさま八戒を探して見つけると家に連れて帰り、抱き締めて眠る。
 そんな毎日でも、悟浄は満足だった。狂気に支配された八戒が満足していたかどうかはわからないが。

 それもやがて、破綻をきたす。
 悟浄はいい意味でも悪い意味でも目立つ男だった。女が放っておくには、目立ちすぎたのだ。
 いつものように、仕事が終わって八戒を探して歩いた悟浄は、彼が殺人を犯す現場を目撃してしまった。
 その夜、悟浄に声をかけてきた女、だった。
 いつもなら、血の色に満足するはずの八戒が、女を切り裂いて、いた。
 少し前から話題になっていた、まさにその殺し方、で。
 悟浄は思い出す。
 この前も、そしてその前も…。殺された女は、悟浄に声をかけてきた女じゃなかったか?

 もう、潮時なのだ、とこの時になって、悟浄は思った。

 いつものように八戒を連れて、歩く。
 澱んだ水を湛える大きな河の前で。
「もっと早く…こうしてたら良かったのかもしんねぇな…。ごめんな、八戒…」
 優しく額にキスをする。
 八戒はにっこりと笑顔でそれを受け、血塗れの身体で悟浄に抱きついた。
「貴方となら……。ねぇ、悟浄? 僕を…連れて行ってくださいね? どこまでも…」
 国を出奔した時と同じ台詞で。



 一対の宝石は、消えた。


前のページ     HOME    次のページ
カレンダー
09 2025/10 11
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
プロフィール
夏風亭心太


 酒、煙草が好き。
 猫好き、爬虫類好き。でも、虫は全部駄目。
 夜が好き。月が好き。雨の日が好き。
 
 こんな奴ですが、よろしくお願いします。
フリーエリア
最新記事
リンク

 最遊記の二次創作投稿サイト。
夏風亭心太も参加しています。


 ここの素材をお借りしたサイト様。

Atelier EVE**Materials**
 バナー素材をお借りしたサイト様
最新コメント
[11/19 https://www.getjar.com/categories/all-games/action-games/Rules-of-Survival-Cheat-960889]
[11/16 https://truoctran.com/viet-nam-vs-malaysia-tip-keo-bong-da-hom-nay-16-11]
[11/14 سنسور صنعتی]
[06/27 aypo]
[08/27 そういち]
カウンター
バナー

 ここのバナーです。ご入用の方はどうぞ♪
忍者ブログ [PR]