くれないづきの見る夢は 紅い涙を流すこと 透明な血を流すこと 孤独にのまれず生きること
Category:最遊記
畳の部屋に炬燵。
寂れた町の寂れた宿の一室。
長方形の炬燵は4人で入るのに丁度良く、僕たちは四辺に仲良く入って温まっている。
山で雪に降られて徒歩で進み、やっとの思いで辿り着いた。
滑る道に足を取られて、崖から落ちそうになった三蔵とそれを助けようとして自分が落ちた悟浄。
三蔵は無傷。悟浄も積った雪のお陰か、軽く捻挫した程度ですんだ。
外はまだ雪が降り続いている。
もう、三日だ。
「煙草がねぇ…」
三蔵がぼそり、と僕の方を見て呟く。
この大雪で敵が襲って来ないのを幸いに、のんびりしすぎていたのかもしれない、と思う。
「明日には雪も止むようですしね。旅支度の買い出し、しておきますか」
離れがたいけど、と立ち上がる。
「買い出しか? 俺も行こうか?」
もそもそと動こうとする悟浄を僕は押し留めた。
「貴方はもう一日、じっとしててください。完全に足、治ってないんですから。悟空、一緒に来て下さい。三蔵と悟浄の煙草も買ってきますね」
僕は悟空を連れて雪の中、買い出しにでかけた。
「ぅ~~さっみぃ~~」
「戻りました」
部屋のドアを開ける。
震えながら駆け込む悟空に僕を苦笑しながら荷物を抱えて室内に入る。
適温で、眼鏡が曇った。
「あぁ~! 二人して寝てんじゃねぇよっ!」
悟空の声に曇った眼鏡を拭いてコタツを見る。
長方形の長い方になぜか二人仲良く並んで寝ている三蔵と悟浄が見えた。
「いいじゃないですか、悟空。寝かせておきましょう? 僕たちは…厨房に行って、甘くて暖かいココアでも淹れて飲みませんか?」
寒くて、暖かい飲み物に反応したのか、それとも甘いココアが魅力だったのか。
「ココア! 飲みてぇ!!」
悟空は急に二人に関心を失ったようで、僕の腕を掴むと厨房へ向おうとする。
僕は引っ張られるようにして、部屋を出る間際。
「ご馳走様です」
思わず呟いていた。
少し離れた二人の身体の間で、しっかりと繫がれていた指に。
胸焼けがするくらいに甘いココアもいいな、と思っていた。
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Category:最遊記
「悟浄、何か欲しい物あります?」
便箋を目の前に置き、ペンを握った八戒にいきなり聞かれた。
「へ?」
「クリスマスじゃないですか。悟空がプレゼント、と騒ぐので、ね。セント・ニコラウス…いえ、サンタクロース、ですか…に、手紙を書いているんですよ。貴方のもお願いしてみようか、と」
「…さんたくろーす? 何、それ?」
え?
という顔をされた。
「知らないんですか、サンタクロース? もしかして、クリスマスも?」
「クリスマスは知ってけどな。プレゼントは、女には貰った事あっけど」
知らないわけじゃ、ない。
ガキの頃、近所のガキどもが賑やかに話してるのは聞いてた。
けど、俺には関係ないことだったから。
サンタが来んのは、イイコのとこだけ。俺は…母親を喜ばすこともできない、いつも悲しませるだけの存在だったから。
関係ないもん、だった。
だから、知らないもん。
んな過去、言ったって仕方ねぇし。
知らないって言っちまうのが簡単だろ?
「お前さ、クリスマスパーティとか、もしかして考えてる?」
「そうですねぇ。悟空と三蔵呼びますかねぇ。楽しいですよ、きっと」
「そいつは勘弁してくれ。俺はいつもの……」
ふと、八戒の書きかけの便箋の文字が目に入る。
『彼女が天国で笑顔でいてくれますように。その様子を夢で見せてください。』
「仲間との楽しい時間…」
「え?」
「俺が欲しいプレゼント。そう、書いといてよ」
八戒はにっこりと笑うと、俺の言葉をその手紙に付け足した。
「悟空の希望が書いてねぇけど?」
「ああ。悟空は大きなケーキを食べたい、と言ってましたからねぇ。僕が作りますよ」
「じゃ、俺、手伝うわ」
楽しいクリスマス、か…。
サンタクロースなんざいなくたって、いいんじゃねぇの?
八戒を拾って初めてのクリスマス、だった。
Category:最遊記
「俺を…殺せ…」
貴方が苦しそうに言う、僕の手を握って。
旅が終わり、使命も果たした。
けれど、そこまで、だったのだ。
過酷な旅に、三蔵はすっかり身体を壊してしまっていて、帰ることなど考えられなかった。
三蔵が動けないのならその場にそのまま残る、と言う悟空を宥めて、長安への使いにした。もっと快適に移動できる手段を算段してきてくれるように、と頼むと、悟空はしぶしぶといった感じで、ジープとその運転手として悟浄と共に出発をした。
世話をするために残るのは、僕が一番適役だと、二人とも納得をしていたから。
ゆっくりと伸びてきた三蔵の腕が僕の頭に回される。
そのまま引き寄せられて…キスをされた。
ずるい。
僕は呟く。
こんな時にキスをするなんて。
二人きりになって。
本当なら、これから、だったはずなのに。
彼がもう、長くはないことは…わかっていた。
きっと、悟空や悟浄が戻って来るまで持たないだろう。わかってて、二人を送りだした。
少しでも、二人でいたいと…そう望んだのは…僕だけではなかった、から。
唇が離れる。
「俺を…殺せ…」
手が僕から離れる寸前、僕の妖力制御装置が外された。
するり、と伸びる蔦が離れる三蔵の手を追って絡みつく。離れたくない僕の心を代弁するかのように。
「その姿なら…簡単だろうが。今すぐ、俺を…殺せ」
熱に潤んだ紫暗がまっすぐに僕を見た。
三蔵の真意が、見えない。
彼が死んでしまうまでの時間を、ただ二人で…肩を寄せ合っていたい、とそれだけを望むのは…間違っている?
「お前が…姉のことを引きずっていることは知っている。お前に殺せ、と頼むのは…良くないことだと、わかって、いる…」
殺せるわけが、ない。こんなにも…こんなにも…。
優しく頬を撫でると、妖怪の伸びた爪が、その皮膚を微かに傷付けた。
滲む紅いそれに惹かれるように、舌を伸ばして舐め取った。
「誕生日に何が欲しいか、と聞いたな? 俺は…自分の身体が動かなくなって死ぬのは嫌だ。動けるうちに死にてぇ。お前に、殺されてぇ。死んでも、お前を縛りつけたい、と望むのは…」
ああ…。それならば。
間違っていないですよ、三蔵。
妖怪の姿のまま、三蔵を、抱く。
彼が望むままに。痛みと快楽を与えて。
僕は、貴方に縛り付けられる。
貴方に僕を刻みつけて。
「骨の一つも残さず、僕が食べてあげますから…。ねぇ…三蔵?」
快楽の中に落としこんで。
僕は彼を………殺した。
誕生日おめでとうございます、三蔵。
貴方が生まれた日が貴方の命日。
そして…新しく…僕の中で…僕が死ぬまでの時間を共に生きるために、生まれ変わった、日。
Category:最遊記
やっぱ、この街は落ち着くなぁ。
別に、街に執着してたわけじゃねぇけど。
目的達成したら、当然、三蔵サマは帰んないと、なわけだし。
なんとなく、一緒に帰って来ちまった。
旅の間、あちこちの街でキレーなおねいちゃんと懇ろにもなったし、美味い酒出す店もあったし、カモの多い賭場もあったけど。
ここが、落ち着くんだよな…。
と、馴染みのおねいちゃんは…。
いねぇのか…。
あれ?
こんな場所には不似合いな……ガキ?
なんでだ?
紅い髪?
あっちのガキは……目が紅ぇ…
「悟浄、待ってたわ。貴方の子、よ?」
へ?
馴染みのおねいちゃんが…何人もガキ連れて……。
え?
えぇ~~!
全部、俺の、子?
待ってくれ!
ちょっと……
待ってくれ~~~!!
** *** **
「悟浄? 大丈夫ですか?」
八戒の声で目が覚める。
飛び起きると目の前にコップに入った水が差し出された。
「随分とうなされてましたけど…。どんな夢、見たんです?」
言葉を濁して受け取った水を飲む俺を見つめる翠の瞳が幸せそうに笑って、臨月とも思える大きな腹をゆっくりと摩っていた。
** *** **
慌てて飛び起きる。
炬燵でうたた寝したらしい。
横で八戒が美味そうに蜜柑を食ってた。
「どうしました、悟浄? 随分とうなされてたみたいですけど?」
言いつつも、忙しく蜜柑を剥く手は止まらない。
「いや…俺らの住んでた街に戻ったら…俺のガキだってのが何人も待っててよ…」
「あはは。ありえそうですよね、それ」
笑いながら何個目かわからない蜜柑を頬張る八戒に…二重の夢の二つ目を思い出した。
「八戒…まさか?」
「何が、まさか、なんです?」
「いや…妊娠すると酸っぱいもんが欲しくなるって……」
「僕、男ですよ? 妊娠なんてするわけないじゃないですか。ただ、この蜜柑、すごく美味しくて」
そう言って一房差し出して来たのを、そのまま口に咥えて噛んだ。
甘くて酸っぱくて、美味い。
「もう一個食べます?」
差し出される蜜柑ごと、その白い指に軽く歯を立てた。
今の俺にはこいつがいればいい。
ガキが出来る心配もねぇし…な…。
蜜柑の味のキスを、した。
Category:最遊記
『HAPPY BAD BIRTHDAY。
生まれた事に祝福と罪を。
HAPPY BAD BIRTHDAY。
生きてることは最悪だけど。』
買い出しに出かけた街の中で、両親の腕にぶら下がるようにして歩いてるガキ。まだ、3歳にもなってねぇんだろうな。
それを、なんとなく見送る。
「どう、しました?」
すっかり足を止めてしまってたんだろう。二三歩前を歩いてた八戒が振り返って俺の肩に手を置いた。
「あ…いや…。なんでもねぇよ」
何かを吹っ切ろうとして勢い良く、足を前に出してみるが、あの幸せそうな家族が気になって振り返ってしまう。
「ねぇ、悟浄?」
俺と並んでその家族を見送って、八戒が言う。
「幸せそう、でしたね、あの家族。羨ましい、ですか?」
「べっつにぃ…」
今度こそ歩きだそうとした俺を八戒が引き止めた。
「前に貴方、自分は生まれてきて良かったのか、って聞いたことありましたよね? 自分が生まれたせいで両親も、育ての母親も死なせてしまった、と」
なんでそんなこと、今頃言い出すんだよ、こいつは…。
両親もアノヒトも俺がいたことを後悔してるんじゃないか、ずっとそう思ってた。なんで、俺を産んだんだ、って…どこかで恨んでいたのかもしれない、産みの親を。なんで俺を引き取ったんだよ、って恨んでたかもしれない、アノヒトを。
だから…幸せそうな家族は…羨ましくて、恨めしい。
けどさ…だったら…こいつらだってかわらない、か…。
「キリスト教では…」
いきなり八戒が話し始める。
「堕胎は罪、なんです。悟浄のご両親がクリスチャンではなかったのでしょう? 普通、産みたくなければ、そういう方法もあったんじゃないですか? ほら…」
八戒が指を差した方に、妊婦がいた。
大きなお腹を抱えて、でも幸せそうに。自分のそのデカい腹に笑みを浮かべて語りかけている。
「貴方のお母さんもきっと、ああやって貴方を愛してくれてたんだと思いますよ? 十月十日は長いです。気持ちの浮き沈みもあるでしょう。それでも命を育み、愛してくれたから、今の貴方があるんです。僕も…三蔵も…。みんな、そう、なんですよ? だから、誕生日は生まれておめでとうの日であると同時に…産んでくれてありがとう、の日でもあるんです」
翡翠の瞳がまっすぐに俺を見る。
「それに…家族なら、いるじゃないですか。三蔵や悟空や…僕も。もう、家族みたいなもの、でしょう? 家族って、血の繋がりだけじゃないと思うんです。一緒に過ごした時間とその重みが、家族を作るんです。だから…ね?」
すっ、と視線を伏せ、胸の前で両手を組むと、八戒は言葉を続けた。
「貴方を育んでくれたご両親に感謝を。僕たちと家族より強い絆で繋がれた、悟浄の生まれた日に…。悟浄に祝福を…」
照れくさいな、と思いつつ…俺は八戒のその言葉に…少しだけ素直に、今日のこの日、自分の誕生日って日を楽しんでみようと思った。
「んじゃ、小煩ぇ親父と賑やかな弟の待つ宿に戻りますか」
「なんですかそれ、本人たちに言っちゃダメですよ」
歩きだした俺に並んで、八戒が笑いながら言った。
「ところで、三蔵が父親で悟空が弟なら…僕は何なんですか?」
「え? おふくろ、だろ?」
にやり、と笑って答えてやると、八戒はひどく嫌そうな顔をした。
「何? 三蔵と夫婦じゃイヤなのか?」
「いえ…もう、三蔵とはそんな関係なんだろうな、とは思いますけどね。野球のバッテリー的な感覚で、夫婦なのじゃないかな、と。僕が嫌なのは…」
なぜかまっすぐに俺の顔を見た。
「貴方みたいな不良息子が居ると思うと…」
ため息を吐かれる。
「そっちかよ…」
「ええ、そっちです」
きっぱりと言い切った後、それは楽しそうに笑うから、背中を思いきり叩いてやった。
また、家族連れとすれ違う。
その光景が少し眩しくて……。
真ん中で父親の腕にぶら下がってるガキが……幼い頃の自分に見えて。
でも、もう、その光景は羨ましいものではなかった。
俺にも、家族はあるんだ。
「悟浄、誕生日、おめでとうございます」
ちょっとだけ、涙が、零れた。
『HAPPY HAPPY BIRTHDAY。
誰かが一緒にいてくれるなら。
HAPPY HAPPY BIRTHDAY。
生きてて良かったと。
生まれて良かったと。』
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プロフィール
夏風亭心太
酒、煙草が好き。
猫好き、爬虫類好き。でも、虫は全部駄目。
夜が好き。月が好き。雨の日が好き。
こんな奴ですが、よろしくお願いします。
酒、煙草が好き。
猫好き、爬虫類好き。でも、虫は全部駄目。
夜が好き。月が好き。雨の日が好き。
こんな奴ですが、よろしくお願いします。
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