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くれないづきの見る夢は 紅い涙を流すこと 透明な血を流すこと 孤独にのまれず生きること
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 悟浄とツルんですぐ、俺は気付いた。
 あいつは、真面目だ。
 腕っ節は強いし、世の中を斜に見てるし、俺と同じワルなんだろうと思ってたけど。
 あいつは多くを語らないけど、酒も煙草も博打もしたことないんだ、とそれはわかった。

 無理矢理飲ませた酒の酔いに任せるようにあいつが語った過去は、俺には想像もできなかった。
 12の時に一人になった悟浄は、生きるために日雇いを転々としたんだと言う。
 ガキであることで馬鹿にされないように。混血であることがあいつの引け目で武器だったんだろう。拳だけが味方だったんだ、と笑った。

 俺は悟浄がそうやって生きる事に必死になってたその年頃にはすでに酒も煙草もオンナも覚えてたっけ。
 人間と妖怪の共存する世界、とか言いながら、妖怪に対する風当たりはきつかった。妖怪の身の振り方なんか決まってて。
 妖力制御装置をつけて人間と同じ生き方をするか、ワルに走るか。
 両親は前者を選んだ小市民的な妖怪だった。
 俺はそれが納得できなくて、まぁ、可愛い言い方をすりゃ、グレて不良になった、ってところか。
 そんでも俺には両親がいたし、とりあえず、食うことには困らなかった。

 そんな俺でも、悟浄の話を聞いて、一個だけ想像出来た。
 成長期のガキが一人、日雇いで、食うや食わずの生活をしてたんなら。
 酒だの煙草だのオンナだの。そんなもんに目が行くわけねぇだろう、ってこと。

 15で生きる事に疲れるなんて、どんな人生なんだ、と思う。
 それを忘れさせてくれんなら、あんたについて行く。そう言った悟浄の目は死んだ魚の目のようだったな、と今はそう思える。
 俺だってロクな生き方してねぇけど、そんでも、生きることが面倒にはなっちゃいねぇし。

 俺は悟浄に、生きる手段としての博打を教えることにした。

 悟浄の才能はかなりのもんだった。
 俺がまともに学校も行ってねぇし、馬鹿だから。
 自分ではそう言ってたけど、その分、ガキの頃からの生活で身についたらしい駆け引きの上手さや、天賦の才なんだろう、計算高い部分が、あいつを一流のギャンブラーにした。
 気がつくと、仲間内でも1・2を争うくらいの実力を発揮してた。

 そうやって自由になる金ができるようになると、悟浄は酒の味を覚えた。
 最初のうちは俺が無理矢理飲ませてたのに、気付くと自分の金で飲むようになってた。
 その頃から、あいつは遠くを見て、溜め息を吐くことが多くなった。
 それは、重たくて。重い過去の集大成のような溜め息で。
 そんなとき、皆はあいつを遠巻きに見るだけだった。
 
 また一人になりてぇのか。
 そういうと悟浄は少し寂しそうに笑った。
 一匹狼が生きにくい世の中に連れ込んだのは俺だ。
 嫌がりもせず、流されるままに入り込んだのは悟浄自身だったが。
 だから。
 俺は、悟浄に煙草を与えた、溜め息を隠す小道具として。

 それは、酒よりも気に入ったようだった。
 俺と二人でいると、部屋が白くなるほどに吸った。
 それでも。
 悟浄はオンナを買おうとかそういうコトをしようとか。そういう気はないようだった。
 俺がオンナとしけこむと、どっか冷めた目で見送った。

 お前、ドーテーだろ?
 そう聞いたらすごい目で睨まれた。
 だからって、オトコ好きとかいうわけではないのは初対面の時にわかってる。あんときの目は、視線だけで誰かを殺せるんじゃないか、と思える程だったから。
 何か、あるんだろう。
 なぜ、俺はこんなに悟浄のことが気になるのか。

 なんとか口を割らせたくて、飲ませた。
 ようやく口を開いたのは、オチる寸前だった。
 アノヒトと呼ぶ、母親のこと。
 実の息子である悟浄の兄と、そのアノヒトの関係。
 関を切ったように零れる泪にあったのは、母親への、アノヒトへの恋慕、なんだろう。
 とんだマザコンだ。
 そのままオチた悟浄の横顔は、どこか幼くて。壊したくなった。


 眠る悟浄の頬に泪の跡。
 後悔はしてない、と言ったら嘘になるだろう。
 そんな趣味はねぇはずなのに。
 目が覚めて、悟浄がこのままこの家にまだ居たら。
 今度はオンナを教えよう。
 オンナも生きる手段になるんだと言って。

 オトナになることを覚えた悟浄は、誰よりも強くなるんだろう。
 刹那に楽しく生きるために。


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 さぁ、行きましょうか。悟浄、お祭ですよ。


「浴衣ぁ?」
 僕が、一緒に浴衣を誂えませんか、と言うと、悟浄は少し嫌そうな顔をした。
「いいじゃないですか。浴衣を着てお祭に行けば、粋だなぁって女性にモテるかもしれませんよ?」
 悟浄をノせるのは実に簡単で、僕たちは浴衣を誂える事になった。
 丈を測って、生地を選んで。
 帯も選んで、雪駄も選んだ。
 悟浄には白鼠の浴衣。帯は蘇芳香。雪駄は黒に同じ蘇芳香の鼻緒で。
 悟浄の紅い髪にその白鼠の浴衣はよく似合っていて。
 僕は銀鼠の浴衣に。悟浄が選んでくれた青丹の帯。雪駄は鼻緒に帯と同じ色の普通のものを。

 結局、僕たちはその浴衣を着て祭に行くこともなく、旅立ってしまった。


 旅が終わって戻った家で、浴衣は待っていた。

 するり、と袖に腕を通す。
 少し袖が短い。そして、丈は少し長くて、踝もすっかり隠れてしまった。
 僕より背が高く、痩せていた悟浄の寸法。白鼠の浴衣。
 右前で着て。きっと、この意味がわかる人などいないだろうから。
 青丹の帯を締めて。蘇芳香の鼻緒の雪駄を履いて。
 



 さぁ、悟浄。お祭、ですよ?
 何、しましょうか……。



 山を抜けると、目の前には黄金の大地が広がっていた。

「え? 秋?」

 間の抜けた隣の声に思わず吹き出す。

「んなわけねえだろうが」

 頭を一つ叩いてやると、かなり本気で怒りだす。
 実は、この瞬間は結構好きだ。まぁ、言ったりしねぇけど。

「あながち、間違いでもないですよ?」

 喧嘩になりそうな気配を感じとったのか、三蔵の機嫌が良くないのを汲み取ったのか、八戒が苦笑しながら振り向いた。

「悟空、これは麦ですよ。こうして麦が実る時期を、麦秋、と言うんです」
「ばくしゅう?」
「麦の秋、と書くんですよ。この先の村は、お米よりも麦で作る麺類とか、パンなどが主食なのかもしれませんね」
「え? マジ?」

 そう聞いて俺との喧嘩を忘れたかのように瞳を輝かせる悟空に、少しイラッとした。
 それほどまでに退屈だったのだ。
 それが意味のない苛立ちだとわかっているけど。

「もしかしたら、美味しい地ビールもあるかもしれませんねぇ」

 ごくり、と咽喉が鳴った。
 俺も悟空のことは言えねぇか…。

 初夏の風が金の大地を撫でて行く。
 ざわり、と揺れる。

 これが、俺たちの旅。
 俺たちも、風に吹かれて揺れて行く。



「えーと…なんでしたっけ?」
 愛し合った後のベッドの上で眉間に皺を寄せて。
 ぽつり、と呟いて視線を彷徨わせる。
 その翠の瞳に俺なんか映ってなくて。
 俺を見て欲しくて眉毛にキスをしたら、擽ったそうに笑って眉間の皺が減った。
 その途端に、思い出したのか。
「ロゼッタストーンですよ、悟浄!」
 あんまり嬉しそうに言うもんだから、その勢いに負けて思わず頷いちまったけど。
「何考えてんだよ、ベッドの中で…」
 面白くなさそうに言葉を返したら、八戒はすごく綺麗に笑った。
「貴方、行為の最中に想いを刻み付けてやる、って言ってくれたじゃないですか」
 そんなこと憶えてんのか。思わず視線を逸らす。
「悟浄? 赤くなってますよ?」
 くすくすと笑いながら、八戒は優しく鼻の頭にキスをくれた。
「嬉しいんです、その気持ち。でもね、貴方と同じですよ、僕だって、恥ずかしいですよ。だからね、考えてたんです、どうやって刻み込もうかな、って。貴方の言葉、貴方の温もり…」
「刻まなくても、いつでもやっからっ」
 さすがに、日記にでも残されたら…恥ずかしくて軽く死ねる。
「僕だって、見える言葉で残そうとは思ってませんから」
 さらに面白そうに笑う八戒を睨み付けてやった。
「だから…僕の中にロゼッタストーンを作って、誰にもわからない言葉で綴ります。そう、もし零れ出たとしても誰にもわからないように。トーマス・ヤングでもいなければ、綴った僕と刻みつけた貴方にしか、ね?」
 悪戯っぽく笑って、そのロゼッタストーンやらヤングやらの薀蓄を展開しそうな八戒の唇を自分のそれで閉じた。

 夜はまだ長い。
 八戒の薀蓄は明るい時にゆっくりと聞かせてもらおう。
 今は…そのロゼッタストーンとやらに、俺の思いをもっともっと刻み付ける時間。

 気付くと皆が八戒の部屋にいる。
 町に着いて、宿で個室が取れた時の最近の傾向だった。

 名目的には、明日の予定の打ち合わせ。八戒は宿に入ってからもけっこう一人でごそごそと荷物の整理だのなんだのとやってるから。
 以前は、三蔵の部屋に集まるのが常だった。
 が、そうするとその後に八戒が一人で荷物整理を始めるから。

 そう、けれど、それはあくまでも、名目。

 明日の予定の打ち合わせもすませ、なんとなく八戒のやってる荷物整理や買出しリストの作成も手伝って。
「じゃぁ、僕、シャワーを浴びて休みますね?」
 そう言い置いて八戒はバスルームへと消える。
 それでも残された三人は自室に戻ろうとはしない。
「鍵もかけずに、なんて無用心じゃね? 俺らの荷物、みんなここにあるんだし」
 とは悟浄の談。
「バカッパ一人で置いとくと、何しでかすかわからんからな」
 と、三蔵談。
「ちゃんとお休みって言ってねぇし」
 と、素直な悟空。

 かちゃり、と軽い音がして、バスルームのドアが開いた。
「まだ、いたんですか?」
 旅装を解いて、ボトムにシャツという簡単な服装でバスタオルで頭を拭きつつ、八戒が呆れたように言って出てくる。
 上下に動かされる腕。その動きにあわせて上下するシャツの裾。ちらちらと見え隠れする脇腹が悩ましい。
 思わずそこに視線が行ってしまう悟浄と、不自然に視線を逸らす三蔵。
 まっすぐに悟空が八戒に向う。
「八戒」
「なんです?」
「お休み」
 背伸びをして頬にキス。
 それを擽ったそうに受ける八戒。
「これ以上は駄目ですよ、悟空?」
「これ以上?? なんかあんの?」
 きょとんとする悟空の頭を撫で、悟空はホントいい子ですねぇ、と言って三蔵と悟浄の方を意味深に見て笑う。
「おやすみなさい、悟空」
 額にキスを落とすと、悟空は嬉しそうな顔をして部屋に戻って行った。

「さて、僕はそろそろ休みたいんですけど?」
 あなたたちは何がしたんですか? 無言でそう、問われる。
 悟浄が八戒を抱きしめる。なんの手加減もなく繰り出される鳩尾に向けての肘鉄を片手で押さえてキス。
 何度もされて、受け止めるタイミングまで掴めてしまったその肘鉄は、愛情表現だと…そう思っているのは悟浄だけ。
 そんな八戒の腕を引っ張って、掠めるだけのキスをする三蔵。
「気が済んだなら出て行ってくださいね?」
 真っ黒なオーラさえ見える笑顔で言われては、二人とも大人しく部屋を出るしかない。
 二人が部屋を出ると、カチャン、と非情にも鍵がかけられた。


「今日の八戒、いい匂いだったよなぁ…」
「ああ……。おい、悟浄…」
 睨み合う二人。無言の攻防。
「………どっちの部屋?」
 溜め息と共に吐き出される悟浄の言葉。
「お前の部屋だ。俺の部屋の隣は悟空だ」
「しゃ~ねぇなぁ…。んじゃっ」
 無言でじゃんけんを繰り返しながら悟浄の部屋へと二人は消えた。
「くっそっ! 俺の負けかよっ!」


 今夜は悟浄、みたいですねぇ…ご愁傷様です。
 八戒は自室で一人、苦笑する。
 壁の薄い安宿。今夜はどんな声が聞こえるのか…。

 八戒とこうしたい、と思いながら、今夜もお互いを慰める三蔵と悟浄の声を聞きながら、八戒は安らかな眠りにつくのであった。


 
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