くれないづきの見る夢は 紅い涙を流すこと 透明な血を流すこと 孤独にのまれず生きること
Category:最遊記
「生きろ」
そう言われたから生きてきた。
アノ人が死んだあの日。生も死もどうでもいいと思っていた俺に、ただ、生きろ、と言ったのは誰だったのだろう?
17年、必死で生きたと思う。もう、いいよな………意識が……遠のく……遠くで…あいつらの…声が…する………。
気が付くと俺は一本の道の上に立っていた。嫌なくらいに見覚えのある道。自然と足が震える。それでもその先にしか自分の帰る場所はないのだと知っている。
いや、違う。俺は自分の手を見つめる。もう、あのころの非力な俺じゃない。今の俺なら……それでも、染みついた恐怖は拭えない。
「……かぁ…さん……」
アノ人はもうとっくに死んじまってる。戻ったところで誰も迎えてなどくれない家に恐怖するとかどうかしてる。もっとも、アノ人に迎えてもらった記憶なんてどこにもないけど。
ただ…もしもまだアノ人の骸がそのままあったらどうしよう、とは思う。腐って溶けて骨になってりゃいいけど、もしも、ミイラだったり、死蝋になってたりしたら。俺は…そこにアノ人の面影を見つけてしまって…どうするのだろう? きっと、恐怖の本質はそこにある。自分の感情の不確定さが…。
それにしても…そもそもコレはナンだ? 俺はあいつらと一緒に西に向かって旅をしていたはずだ。なぜ、一人でこんなトコにいる?
俺の躊躇いと疑問とは関係なしに足は勝手に家へと向かう。
家が、見えてきた。
バンッ、と玄関のドア大きな音を立てて男が一人、飛び出してきた。
「えっ……」
男は俺の横をすり抜けるようにして行ってしまう。
その男には見覚えがあった。
「………兄貴…?」
ココは…あの日、なのか…?
血が…流れてる。そいつはまるで生き物みたいに、おれの方へ近づいてくる。
「かぁさん?」
おれがそう呼ぶといつも飛んでくる平手打ちが飛んでこない。
おれはただ、かぁさんに笑っていて欲しかっただけなのに。
なんでおれが生きててかぁさんがうごかなくなっちゃったんだろう。
紅い、血。おれの色。かぁさんの大嫌いな色。
ねぇ、かぁさん、そんなにおれのこと嫌なの?
血はまるでその持ち主に嫌われていることを知っているように、どんどんどんどん流れ出てくる。
溺れそうだよ、かぁさんの血で…おれの紅で…。
「ねぇ…かぁさん…」
伸ばしかけたおれの手は真っ赤で。この手で触ったらきっとまたぶたれる。
おれは膝を抱えて丸くなって目を閉じる。
笑った顔が見てみたかったな、かぁさんの…。
きっと、すごくきれいだったんだろうな。町のみんなが言ってたもの。
あにき、出て行っちゃったから、おれ、ここにいるね?
起きたら、おれのこと、叩いても蹴ってもころしてもいいから…笑ってよ……。
「おい、ガキ!」
いつの間に入ってきたんだろう、知らない人。
あ、この人、おれとおんなじ色だ。
この人もかぁさんに嫌われてたのかな?
い…痛いよ、腕をそんなに引っ張らないで…。
その人は、おれのこと抱え上げるようにして家から引っ張り出すと、そのまま町のそばまで連れてきた。
「生きろ!」
一言だけいうと、その人はまっすぐにおれの目を見た。
おれはうなづく。だって、かぁさんはもう、おれをころせないから。
だったら生きるしかないし、この人の言うことはきかないといけない、って思ったから。
その人は、ちょっと困ったような悲しいような顔をしてそれでも笑って、おれの頭に手を置いてやさしく二度叩いた。
「生きろ」
もう一度そう言うと、その人はおれの家の方へ行ってしまった。
ああ、やっぱりそうか。これは、あの日だ。
ガキの俺を町に置いて、俺は戻った。
アノ人の死に顔を見るために。
「かぁさん…」
そこに死んでいるのは小さな女で。笑顔ならさぞや美人だったんだろうな、とわかる。
恐怖も恨みもなかった。
だって、そこにあるのは、ただの死んだばかり女。
躊躇や恐怖の源は、きっと、弔ってやれなかったことへの後悔だったんだろう。
死ぬ前に見る走馬燈とやらが、この過去だったなんてな。
夢のくせに覚えてないアノ人の顔がやけにはっきりわかる。
触れたくても触れられなかった、アノ人の手、頬、髪。
静かに触れて、抱き上げた。
裏庭にちょうどいい場所がある。
シャベルは倉庫にあった。
丁寧に埋めてやる。
手向ける花は、ない。
それを残念に思って、しばしその場に佇む。
足元に落ちているのは…アノ人の…指輪?
ホント、ちっせぇ。俺の小指にも入りゃしねぇ。
こんなちっせぇ女が怖かったなんて。
でも…彼女が、おれのせかいのすべてだったんだ…。
小さな指輪を握りしめる。
ああ、そう、か…生きろ、と言ったのは俺で、おれはその約束を必死に守って生きていたのか…。
じゃぁ、まだ…死ねねぇな…。
あいつらんとこ、帰らねぇと。
ふ、と目を開けると見慣れぬ天井で。長い旅の最中で。
アノ人の墓の場所がわかったのはあの日から17年後で。おいそれとは行ってみることもできないことがもどかしい気がした。
「悟浄、目が覚めました?」
心配なんてしてませんよ、とでも言いたげな表情で、八戒がのぞき込んできた。
そうやってのぞき込んでるだけで十分心配してたことはわかる、って。
「…俺……」
手に何かを握っている気がする。
そろそろと身体を起こすと八戒が手伝ってくれた。
「3日も起きないから……」
俺の状態を説明している八戒の言葉を聞き流しながら、手を開いてみると、そこには小さな指輪が一つ。
「なんです、それ?」
「さぁ?」
俺は言葉を濁す。てか、俺にもわかんねぇし。
夢で行った場所のもん、持って帰ってきた、なんて信じらんねぇ話だし。
立ちたい、というと八戒が肩を貸してくれる。
鏡を見る。
そこには、困ったような悲しいような顔で笑顔を作る男が映っていて。
「まだ、生きるぞ…」
その男につぶやくと、八戒があきれたようにため息をついた。
「当たり前じゃないですか。あなた、殺したって死なないでしょうに」
自分への約束だ、などと言ったらこいつはどんな顔をするんだろう。
旅が終わったら、花を手向けにアノ人のもとへ行こう、と心に決めた。
それまでは「生きろ」
そう言われたから生きてきた。
アノ人が死んだあの日。生も死もどうでもいいと思っていた俺に、ただ、生きろ、と言ったのは誰だったのだろう?
17年、必死で生きたと思う。もう、いいよな………意識が……遠のく……遠くで…あいつらの…声が…する………。
気が付くと俺は一本の道の上に立っていた。嫌なくらいに見覚えのある道。自然と足が震える。それでもその先にしか自分の帰る場所はないのだと知っている。
いや、違う。俺は自分の手を見つめる。もう、あのころの非力な俺じゃない。今の俺なら……それでも、染みついた恐怖は拭えない。
「……かぁ…さん……」
アノ人はもうとっくに死んじまってる。戻ったところで誰も迎えてなどくれない家に恐怖するとかどうかしてる。もっとも、アノ人に迎えてもらった記憶なんてどこにもないけど。
ただ…もしもまだアノ人の骸がそのままあったらどうしよう、とは思う。腐って溶けて骨になってりゃいいけど、もしも、ミイラだったり、死蝋になってたりしたら。俺は…そこにアノ人の面影を見つけてしまって…どうするのだろう? きっと、恐怖の本質はそこにある。自分の感情の不確定さが…。
それにしても…そもそもコレはナンだ? 俺はあいつらと一緒に西に向かって旅をしていたはずだ。なぜ、一人でこんなトコにいる?
俺の躊躇いと疑問とは関係なしに足は勝手に家へと向かう。
家が、見えてきた。
バンッ、と玄関のドア大きな音を立てて男が一人、飛び出してきた。
「えっ……」
男は俺の横をすり抜けるようにして行ってしまう。
その男には見覚えがあった。
「………兄貴…?」
ココは…あの日、なのか…?
血が…流れてる。そいつはまるで生き物みたいに、おれの方へ近づいてくる。
「かぁさん?」
おれがそう呼ぶといつも飛んでくる平手打ちが飛んでこない。
おれはただ、かぁさんに笑っていて欲しかっただけなのに。
なんでおれが生きててかぁさんがうごかなくなっちゃったんだろう。
紅い、血。おれの色。かぁさんの大嫌いな色。
ねぇ、かぁさん、そんなにおれのこと嫌なの?
血はまるでその持ち主に嫌われていることを知っているように、どんどんどんどん流れ出てくる。
溺れそうだよ、かぁさんの血で…おれの紅で…。
「ねぇ…かぁさん…」
伸ばしかけたおれの手は真っ赤で。この手で触ったらきっとまたぶたれる。
おれは膝を抱えて丸くなって目を閉じる。
笑った顔が見てみたかったな、かぁさんの…。
きっと、すごくきれいだったんだろうな。町のみんなが言ってたもの。
あにき、出て行っちゃったから、おれ、ここにいるね?
起きたら、おれのこと、叩いても蹴ってもころしてもいいから…笑ってよ……。
「おい、ガキ!」
いつの間に入ってきたんだろう、知らない人。
あ、この人、おれとおんなじ色だ。
この人もかぁさんに嫌われてたのかな?
い…痛いよ、腕をそんなに引っ張らないで…。
その人は、おれのこと抱え上げるようにして家から引っ張り出すと、そのまま町のそばまで連れてきた。
「生きろ!」
一言だけいうと、その人はまっすぐにおれの目を見た。
おれはうなづく。だって、かぁさんはもう、おれをころせないから。
だったら生きるしかないし、この人の言うことはきかないといけない、って思ったから。
その人は、ちょっと困ったような悲しいような顔をしてそれでも笑って、おれの頭に手を置いてやさしく二度叩いた。
「生きろ」
もう一度そう言うと、その人はおれの家の方へ行ってしまった。
ああ、やっぱりそうか。これは、あの日だ。
ガキの俺を町に置いて、俺は戻った。
アノ人の死に顔を見るために。
「かぁさん…」
そこに死んでいるのは小さな女で。笑顔ならさぞや美人だったんだろうな、とわかる。
恐怖も恨みもなかった。
だって、そこにあるのは、ただの死んだばかり女。
躊躇や恐怖の源は、きっと、弔ってやれなかったことへの後悔だったんだろう。
死ぬ前に見る走馬燈とやらが、この過去だったなんてな。
夢のくせに覚えてないアノ人の顔がやけにはっきりわかる。
触れたくても触れられなかった、アノ人の手、頬、髪。
静かに触れて、抱き上げた。
裏庭にちょうどいい場所がある。
シャベルは倉庫にあった。
丁寧に埋めてやる。
手向ける花は、ない。
それを残念に思って、しばしその場に佇む。
足元に落ちているのは…アノ人の…指輪?
ホント、ちっせぇ。俺の小指にも入りゃしねぇ。
こんなちっせぇ女が怖かったなんて。
でも…彼女が、おれのせかいのすべてだったんだ…。
小さな指輪を握りしめる。
ああ、そう、か…生きろ、と言ったのは俺で、おれはその約束を必死に守って生きていたのか…。
じゃぁ、まだ…死ねねぇな…。
あいつらんとこ、帰らねぇと。
ふ、と目を開けると見慣れぬ天井で。長い旅の最中で。
アノ人の墓の場所がわかったのはあの日から17年後で。おいそれとは行ってみることもできないことがもどかしい気がした。
「悟浄、目が覚めました?」
心配なんてしてませんよ、とでも言いたげな表情で、八戒がのぞき込んできた。
そうやってのぞき込んでるだけで十分心配してたことはわかる、って。
「…俺……」
手に何かを握っている気がする。
そろそろと身体を起こすと八戒が手伝ってくれた。
「3日も起きないから……」
俺の状態を説明している八戒の言葉を聞き流しながら、手を開いてみると、そこには小さな指輪が一つ。
「なんです、それ?」
「さぁ?」
俺は言葉を濁す。てか、俺にもわかんねぇし。
夢で行った場所のもん、持って帰ってきた、なんて信じらんねぇ話だし。
立ちたい、というと八戒が肩を貸してくれる。
鏡を見る。
そこには、困ったような悲しいような顔で笑顔を作る男が映っていて。
「まだ、生きるぞ…」
その男につぶやくと、八戒があきれたようにため息をついた。
「当たり前じゃないですか。あなた、殺したって死なないでしょうに」
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プロフィール
夏風亭心太
酒、煙草が好き。
猫好き、爬虫類好き。でも、虫は全部駄目。
夜が好き。月が好き。雨の日が好き。
こんな奴ですが、よろしくお願いします。
酒、煙草が好き。
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