くれないづきの見る夢は 紅い涙を流すこと 透明な血を流すこと 孤独にのまれず生きること
Category:最遊記
ああ、生きていたのか。
目の前にいる赤い髪の男の驚いたような顔を見て、俺はニヤリと笑って見せた。
「なんで、あんたが…」
俺は、今の名を名乗る。自分の生き様を変えることはできないのだと言うと、あいつもニヤリと笑って見せた。
俺たちは似ているのだ。
自分の信じた道を行くことしか出来ない、不器用にまっすぐに…。
俺は、過去に救った命をみずからの手で屠ることになるのか、それとも、その命に滅ぼされることになるのか…。
どちらでもかまわない、と思う。
そいつが、生きていてくれたことが、今の俺には嬉しかった。
お互いが信じた道を歩み、その果てに何が待つとしても、きっと後悔はしなだろう、俺たち、兄弟は。
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Category:最遊記
八戒は、盃に写りこんだ月をその酒とともに飲み下す。
隣に座った悟浄が、その天空の月に向かってタバコの煙を吐き出した。
「月に叢雲、ですか…」
吐き出された煙を目で追いながら、八戒が言った。
「なんだそりゃ?」
「その後に、華に風、と続くんです。良いことには差し障りが多いことの喩え、ですよ。もっとも、僕らの旅が良いことかどうかは疑問ですけどね。ただまあ、差し障りだけは売ってしまいたくなる位たくさんありますよね」
ため息混じりに言いながら、悟浄に視線を投げかけて、微かに笑う。
二人の盃に酒を満たす。
「こうして、写りこんだ月は、まるで魂のようだと思いませんか?」
「魂? なんだよ、そりゃ。お前、珍しく酔ってるのか?」
何を言っているんだ、と訝しげに目を細め、彼は八戒を見た。
「…いいえ。僕が酔わないの、あなた知っているじゃないですか。ただね…」
口をつぐんで盃を見つめる。そして、また、飲み干した。
「こうやって、魂を飲み込んで、僕は僕になってゆくのかな、とか…おかしいですか?」
今にも笑い出しそうに歪んだ口元を見つめて、心外だ、という表情で聞くと、悟浄は大きく煙を吐き出した。
「…別に…おかしかねぇよなぁ…俺はきっと、お前の魂を飲み干すんだ、それから、あいつらの…で、俺自身の…」
「そうして、みんな一つになって、いつまでも旅を続けて行きたらいいな、と思うことがありますよ」
「…そりゃ…勘弁してくれ…」
悟浄は肩を竦めるとすっかり短くなったタバコを灰皿に押し込む。そのタイミングで背後から悟空の声がした。
「よぉ、二人で何やってんの??」
八戒は振り向くとにっこりと微笑んで、天空の月を指す。
「わぁ、でっけぇ月! うっまそぅ~」
指に誘われるように天を見上げた悟空が言い、毎度のことだなよな、と小さく呟いた悟浄の言葉に八戒は失笑した。
「ああ、知ってますか、悟空? 月にはウサギが住んでいてお餅つきをしている、という言い伝えがずっと東の小さな島国にはあるらしいんですよ」
八戒の失笑に少し気分を害した様子の悟空に彼は言った。悟空の答えが聞く前からわかって、悟浄は面白そうだ。
「え、餅つき? 俺、餅食いたいっ! ど~やったら月まで行けんのかなぁ?」
予想通りの答えに、彼は吹き出した。
「え~~。なんだよぉ、何で笑うんだよぉ!! 笑うな! このエロ河童!!」
悟浄に飛びかかろうと身構える悟空の目の前に、八戒は団子の乗った皿を差し出す。
「あなたには、これ、ですね」
あっという間に機嫌を直して、嬉しそうに団子をほおばりはじめた悟空を、彼は弟を見守る兄のような微笑ましい心境で見つめた。
「…このお団子もまた、魂のようだと思いませんか?」
ポツリとつぶやく。
「魂が、どうしたって? お前ら、明日も早いんだから、いい加減、寝ろよ」
「…ああ…三蔵、あなたもこちらへかけませんか。今日は中秋の名月ですよ」
八戒は自分の座っていた位置をずらして三蔵のために座る場所を作る。
「ふんっ! 月なんざ、いつでも見られるだろうが…」
面白くもなさそうに言いながら、彼は勧められるままに腰を下ろして、差し出された盃を受け取る。
「月も、お団子も…みんな誰かの魂で、僕らはそれを吸収して自分になってゆくのじゃないかな、とか…そんな他愛もないことを考えていたんです」
「自分は自分だろ、なるもならないもない」
三蔵は注がれた酒を一息に飲み干して、言い切った。
「……明瞭ですね…」
そのらしい言い草に、八戒は笑いをかみ殺す。そして、3人の空いた盃をまた、酒で満たした。
「それでも…」
それぞれが盃に視線を落とす。それぞれの盃に月が写りこんでいる。悟空は三人の様子に気付いて、ふと彼らを見た。
「ん? どうしたんだ?」
「…それでも…僕は、あなたたちと一緒にいることが出来て、良かったと思っているんです…」
盃に向かって微かに微笑むとその中身を空けた。
悟空は首をかしげ、悟浄はふんっと鼻で笑い、三蔵は苦虫を噛み潰したような顔をした。
満月の夜。友とともに友の魂を身の内に満たして、静かに夜は、更ける。
Category:最遊記
はらり…はらり…
薄く色づいたそれが一枚ずつ落ちるさまはどこか、あの下界に降る冷たく白い雪片に似ていて。
この間の戦闘で傷つき、今だ癒えない左腕に右手を添えながら視線を逸らした先にもその花びらは舞っていて。
僕は、何も見たくはない、と目を閉じる。
誰も信じていないのではない、もう二度と誰も失いたくないと、そう思っているだけなのだと。
それは、優しさなどではなく、誰かを失って悲しむ僕自身が哀れに思うためのエゴなのだとわかっているから。
その思いは誰にも告げられずにいた。
それは、隊を率いる立場になって初の戦闘だった。
雪が、降っていた。
それまでは自分が生き残るのに必死で、周りなど見えていなかったのだろう。
目の前で倒れる者の姿に…初めて、恐怖を覚えた。
この戦いの理不尽さを呪った。不殺生を義務付けられている自分たちと、すべてを破壊しようとするものとの戦いに…。
辛うじての勝利…抱きしめる身体から流れ出る、紅い…血…。
降ってくる雪が、その紅に解けるのを見ていることしか出来なかった。
助けを呼んで叫んだかもしれない…しかし…結局はその身体を抱きしめながら、己の手が、服が紅く染まって行くのに任せていることしか出来なかった。
最後の呼吸で死が吸い込まれ、魂が吐き出されるのを、見ていた。
天上人が不死などというのはまやかしだと、知った。
まだ温もりのあるその身体に降り積もる雪は、紅く解け…やがて体温を奪われそれでも降り続く雪は紅く染まり…それすら隠してすべてが白く染まるまでその身体を抱きしめていた。
その骸と同じに冷え切っても、それでも体温のある己が手の紅を、雪が、洗い流す…。
忘れたい過去は、失うことの許されない記憶…。
掌に受けた花びらはあの日の雪にも似ていて。
「雪は、嫌いです」
その言葉に何も聞かず黙って頷いてくれる者が隣に居てくれる限り、己の道を進んでゆくことができる。
戦場に立ち続けることができる。
優しく肩に手を置かれる。今、僕が信じて背後を任せようと思っている男に。
少し離れたところで酒を酌み交わし、自分が来ることを待っていてくれる仲間の元へと歩を進める。
なくなることのないこの天上の桜はいつも僕にあの日を思い出させるけれど。
彼となら…彼らとなら僕はこの花を見あげることが出来る。
あの雪の日を忘れぬために。僕は舞い散るその花びらを睨みつけるように見据えた。
Category:最遊記
貴方の顔に見惚れていました。
貴方が扱う武器の鎖と戯れるような、まるで舞いのような動きに…。
敵を屠る貴方の横顔に時折浮かぶ笑みには一体どんな意味があるのでしょう。
敵の血に塗れ、壮絶な笑みを浮かべる貴方は、さしずめ修羅のようで…。
目が、離せなくなります。
「おい、大丈夫か?」
心配そうに僕の顔を覗き込む貴方は…誰にも見せないような子供染みた表情で…僕はその顔からそっと目を背けました。
「はい、大丈夫です」
僕が貴方に会った時にはすでに修羅の道に落ちていたから。
貴方も一緒に落ちてやる、とそう言いましたね。
一緒に旅をしてたくさんの敵を屠り…貴方はいつでも僕よりもたくさんの敵を屠ってきました。
貴方の笑みの意味を、僕は知っています。
貴方が僕よりもたくさんの敵を屠ることで約束を違えず、修羅に近づくことが出来ていることを喜んでいる笑みなのだと…。
けれど…貴方は勘違いをしている。
僕が修羅であるのは…敵意もない人々を屠ったせい。
貴方が僕らの前に立ちはだかる敵を何人屠ろうとも、一人でそのすべてに立ち向かい、すべての命を屠ってしまうことが出来たとしても…。
貴方は、僕と同じ修羅にはなれないのですよ?
それでも…少し…守られているという気持ちが嬉しいから…僕は何も言えません。
ずるいでしょうか?
修羅に落ちた時、もう二度と手にすることはないと思っていた感情を、僕は持て余しているのかもしれません。
もう少しだけ…僕はずるいままでいてもいいですか?
Category:最遊記
薄水色の空に白い月が出ていた。
夜に忘れられたそれは酷く寂しそうに見えた。
僕もまた、何かに忘れられて、一人、ここで生きている。
いや、ここで生きることすら出来ず、死すら望めず、ただ、漂っている。
それでも…
月はやがて、夜の空に帰る。
夜輝く月の影である真昼の月。
僕には帰る場所はない。
僕には影はなく、誰かの影でもない。
真昼の月は寂しそうだけれど、僕は羨ましかった。
帰る場所のある月が。
寂しそうに見える月が。
帰る場所など最初からなかった僕には、それこそ、最初からなかった感情(もの)。
寂しいと思う心さえ、僕は、真昼の月を見上げるまで知らなかった。
僕は、自分が生きているのだと言うことさえ、ずっとずっと知らなかった。
ずっと昔に僕が綴った文章。
薄水色の空の白い月を見上げ、ふと思い出す。
あの時の月は、君だったのだ、と。
そして、今、ここで僕を見下ろす白い月は、僕なのだ、と。
僕は、夜輝く君という月の影だったのだ。
けれど…今の僕に帰るべき、君という月は失われてしまった。
空を見上げる。
夜に忘れられた寂しげな月は、やっぱり寂しい僕を見下ろして、僕を嘆いてくれている。
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プロフィール
夏風亭心太
酒、煙草が好き。
猫好き、爬虫類好き。でも、虫は全部駄目。
夜が好き。月が好き。雨の日が好き。
こんな奴ですが、よろしくお願いします。
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