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くれないづきの見る夢は 紅い涙を流すこと 透明な血を流すこと 孤独にのまれず生きること
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 嵐だった。

 強い風の中、到着した村に一軒だけの宿。
 なんとかそれぞれが個室を確保し、夕飯もすんでそれぞれが自室に引き上げたあと、雨が降ってきた。

 それは、それまでの風と相俟って、横殴りの雨になり、部屋の窓を叩く。
 さすがに、外に出る気もしねぇから、部屋で持ち込んだ酒を飲みながら、カーテンも閉めずにずっとその雨を見てた。

 夜中を過ぎても雨風は止まず、ますます激しくなる。
 こういう天気も嫌いじゃねぇ。

 回りの音が何も聞こえねぇ。
 自分だけが世界に取り残されてんじゃねぇか、って不安にもなる。
 けど、その心の揺らぎをどこかで楽しみ、心地好いと感じてる俺がいる。
 タバコの煙に白んだ空気、酒の酔いに思考は空回り。

 一人だけの世界を楽しんでると、遠慮がちにドアをノックする音が聞こえた。

 なんだ、こんな夜中に…

 面倒で、立ち上がりもせず、返事をするとおずおずと悟空が入って来た。

「なぁ~んだ……」

 バカ猿、と続けようとしてその言葉を飲み込む。
 様子が少し、おかしかった。

「どうした? 悟空?」
「なぁ…悟浄? ここで寝ていい、か?」

 いつも無駄に元気なこいつが珍しいこともあったもんだ。
 嵐の夜は………
 そういやこいつ、雪の日が苦手だったっけ…嵐も…苦手なのかもしんねぇよなぁ。
 俺に一人を楽しむ余裕があんのは、なんだかんだ言って、周りには誰かがいたからだ。
 けど、こいつはずっと一人だった…。
 一人だった頃の寂しさや苦しさ、思い出すのかもしんねぇな。

 三蔵も八戒も雨の日は苦手で、一人でいることを好む。
 そういう時は、俺はほっとくことにしてる。
 悟空もそれがわかってっから、三蔵でも八戒でもなく、俺んとこに来たんだろう。

 まぁ、今夜は雨と風の音を肴に飲んでるつもりだったからな…一人を楽しむってのは無理かもしんねぇけど、断る理由もねぇだろう。

「ん、お前はベッド使え。俺はそこのソファでいいからよ…」

 人の気配に安心したのか、悟空は程なく眠りについた。
 こいつ、寝てても賑やかなんだよなぁ…。


 雨の音と風の音、悟空のいびきに寝言…酒とタバコ。

 嵐の夜に………

 孤独を望み、願いながら…
 心は揺らがず、一人じゃねぇ今の自分を幸せだと感じた。






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 人の目が、怖い。


 この紅い髪、瞳を奇異の目で見られることにはもう、慣れた。
 んなのは怖くねぇ。


 怖いのは…


 俺の最初の記憶…生のない、二対の瞳。
 俺を見てねぇ…けど、俺を睨み付けてた、あの人の瞳。

 死にかけてた奴が…笑った、碧の瞳。
 怖かったのに、俺はそいつを助けた。

 何ものも怖れぬように、力強い意思を持った…紫の瞳。
 目を逸らせば…すべてに負ける気がして、目を逸らせなくなった。

 まっすぐに、純粋に見つめる…金色の瞳。
 俺の持つ紅に、血の色以外の意味を見せてくれたその瞳に映るものをもっと見たい、と思った。


 見つめていたいと思えば思う程恐ろしいと思う、瞳…。

 その瞳に俺は、どう、映るのか…それが、怖いのかもしれねぇ。


 夜の闇が、好きだ。
 人の目を見なくてすむ、人の目が見えねぇような、闇が…。


 いつの日か…俺は…まっすぐに誰かの目を見つめることができるのだろうか?
 あいつらの目に映る、自分をまっすぐに見つめることが、できるのだろうか…。


 眩しい太陽の下で輝く大切な仲間の3対の瞳をまっすぐに見返してやれる日が…いつか…。






 俺はガキだったんだろう。

 去って行くその背中を追いかけることが出来なかった。
 そのくせ、俺はずっとその背中を追っていた。

 覚えているのはそいつの名前と…悲しそうなその背中。

 大きな背中だった。
 頼れる背中だった。
 その背中の影にいれば、ガキだった俺は安心出来た。

 ずっとずっと探していた背中を見つけた時、その背中は、もう、大きくもなかったし、頼れるとも思えなかった。

 それでも…その背中が目の前にあることが嬉しかった。

 不器用な生き方しか出来ねぇ俺たち。

 お互い、生きていた、それだけが、ただ…嬉しかった…。

 たとえ、敵として刃を交える運命だとしても…。





 今夜は野宿になった。
 どこで道を間違えたのか…地図が間違っているのか…あるはずの街に着けなかった。

 最近はそういうことが増えている。
 西に行けば行くほど、地図が意味を成さなくなっているのだ。

 生ぬるい風。
 空には満月。
 ねっとりと纏わりつくような湿った空気が気持ち悪い。
 それでも、月は煌々と輝いていた。

 賑やかに食事を澄ませ…疲れているだろうジープも休ませるために、いつもはジープの上で休む野宿も今夜は三々五々、自分の気に入った樹の下に陣取って休む事にした。

 ぼんやりと空を見上げる。
 うっすらと空に帯が見える。
 天の川、か…。

 そ~いや、今夜は七夕だったっけか…。
 一年に一度の逢瀬…ロマンチックなこったぜ…。

 そのまま、眠りに落ちる。
 夢を見る。

 俺が彦星で…織姫は…誰だろうな…顔も見えねぇ…いや、顔も知らねぇ、女。
 年に一度の逢瀬なんて…考えもつかねぇ。
 俺には…一生に一度の逢瀬が多すぎるぜ…。

 自重気味に笑ったところで目が覚めた。

 時間はわからねぇ。
 月は落ちていた。
 空には、天の川がはっきりと見えた。

 七夕には…短冊に願いを書いて笹に飾り、星に祈るのだという。

 願って叶うなら…
 俺はずっとガキの頃、願っていた。
 あのヒトの愛情を、と…。
 叶うことのなかったあの願い。

 与えられたのは…憎しみだった。
 あれから、願うことをやめた。
 叶わぬ夢ならば、願うだけ無駄だと、思っていた。

 あいつらと知り合って、旅をして、少しそれは違うんじゃねぇかと思えるようになった。
 願う気持ちが、叶えようという努力を産み出すんじゃないかと思えるようになった。

 今夜は星に願いを。

 この旅が、良い結果をもたらすように。
 旅が終わった後も、あいつらと仲間でいられるように。


 いつも笑って、強く生きて行けるように…。






 まだ、旅に出る前のことだったけなぁ…。


 八戒が三蔵に呼ばれたとかで出かけたのに同行した事がある。
 そんとき呼ばれてたのは八戒だけだったんだけどよ。

「てめえは呼んだ覚えはねぇんだがな…」
 ため息交じりに言う三蔵に舌を出して見せると、ハリセンが一発飛んできた。

 三蔵と八戒は、斜陽殿に呼ばれたらしい。
 定期的な報告とか言ってたっけ…。

 ちょっと悩んだらしい三蔵が、苦虫を噛み潰したような顔をして、俺を人差し指一本で呼んだ。
「…んだよ。俺に用がねぇなら、久しぶりにこの大きな街に来たんだ、遊びに行くぜ~?」
 ぶつぶつ言いながらもついつい、寄って行っちまうのは、なんなんだろうな?
 黙ったまま、三蔵は一番大きな金額の紙幣を二枚、俺に寄越した。

「あのバカ猿を連れだしてやってくれ。一人で留守番させてっと問題起こすし、俺は雑多なことが多くて、あまり外へ出してやれねぇからな…」
 優しいじゃねぇの、って思ったが、口には出さねぇ。褒めたのに叩かれたんじゃ割りにあわねぇしよ。

「酒場や賭場には連れて行くなよ?」
 すげ~当たり前のことを言い残して、二人は出かけて行った。

 ちびっこ猿と取り残されて一瞬悩んだが…水族館に連れて行ってみることにした。
 三蔵話を信じるなら、こいつはずっと山の上にいたらしいからな…そういうの、珍しがんだろ?

 でけぇ、水族館。
 俺も初めて来たが…しっかし、俺とこの猿、ど~見られんだろうな…?
 ま、親子にゃ見られねぇだろ?

 もう、はしゃいじまってよ、お猿ちゃん。
「あ~、この魚、寺にいる○○に似てる~~~」
 って大喜びしやがんの。
 三蔵や八戒に似てるやつらもいたぜ?
 海老見て、俺に似てるって言い出しやがった時には一発張り飛ばしといたけどな。

 大きな水槽でたくさんの鰯が群れを成して泳いでんのを見た時、お猿ちゃん、目を輝かせて
「美味そう~~!」
 って言いやがった。
 さすがに、一緒にいて恥ずかしかったぜ…。


 この世界には、海、って名前の大きな大きな、対岸も見えないくれぇ大きな水ばかりの場所がある。
 そこから昇る朝日、そこに沈む夕日はとても綺麗で、俺の好きな景色だ。

 そう話してやった。
 目をキラキラ輝かせて、俺の話を聞く悟空。

 記憶という名の海の中、こいつの心は…たゆたっているんだろう。
 果ても見えない、霧の中を…。
 三蔵の言葉を信じるなら…だがな。


 帰宅した俺は、八戒に鰯の刺身を作ってもらった。





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 猫好き、爬虫類好き。でも、虫は全部駄目。
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