くれないづきの見る夢は 紅い涙を流すこと 透明な血を流すこと 孤独にのまれず生きること
Category:最遊記
冷たい小川の水で洗物を終えて、僕は抜けるような秋の青空を見上げる。
「もうそろそろ、野宿は無理ですねぇ…」
ため息と共にそう一人ごちると、大きく伸びをしてから洗ったものを手早く片付け、仲間が出発の準備をしている場所へと戻った。
「西、でいいですね?」
毎日のように確認する同じ台詞。ジープにエンジンをかけ、全員が乗り込むと、スタートの合図は三蔵の言葉。
けれど、今日は少し違った。
「少し逸れてもいい。街のある方へ向かえ」
もう5日も野宿が続いてるので、当然と言えば当然の台詞に僕は黙って肯くとジープをスタートさせた。
「悟浄、地図見てくださいね」
背後の悟浄に地図を渡す。三蔵が見る気もないことはわかっていた。
「少し北に向かったとこに街、あるな。この地図が正しけりゃ、だけどよ」
確かに、異変のせいかあったはずの街がなくなっていた、ということも珍しくはなくなっている。それでも、そこに街がある事を信じて、僕はジープを北へ向けた。
そこはかなり大きな街で、入った瞬間から、そこここでお肉を焼く良い匂いがしていた。
「俺、腹減ったぁ~」
悟空がいつもの台詞を吐き、元気なく項垂れるのを見て、思わず笑ってしまった。
「確かに、食欲を刺激される匂いですねぇ…。宿を取ったら、僕らも今夜は焼肉、ですか?」
それとなく三蔵を見ながら悟空に声をかけると、嬉しそうな声が聞こえ、横では三蔵が一言、勝手にしろ、と呟いた。
宿で宿泊の手続きを取る。ツインを二部屋押さえながら、宿の主に訊ねてみた。
「美味しい焼肉を食べたいのですけど、どこかお薦めのお店はありますか?」
「あ~、どうかねぇ…。今日はどこもいっぱいだと思うよ? なんせ、いい肉の日、だから、ねぇ…。まぁ、ちょっと待ってな? 知り合いんとこに聞いてみてやるよ」
気軽にそう言うとご主人は電話に手を伸ばす。
いい肉の日………ああ、そういえば…日付の感覚が薄れていたことに気付いて、僕は失笑してしまう。
そして、キーの一つを悟浄に渡して、部屋割りを悟浄と悟空、三蔵と僕、にした。
今日は、三蔵に静かに過ごして欲しいと思ったから。幸いあとの二人は今日が何の日なのか思い出していないようだし、その方がいいだろう。
「兄ちゃん、ここ出て左に行って5軒目の焼肉屋がOKだってよ」
「あ、ありがとうございます」
僕らにとっては日常の、街の方々にとっては普通じゃないいつもの夕食を終えて、僕らは宿に戻って来た。
三蔵は部屋に入ると窓辺の椅子に陣取って煙草を手にボンヤリと外を見ている。
「三蔵、珈琲をどうぞ?」
僕はその目の前にいっぱいの珈琲を置いた。砂糖とミルクも添える。
ブラックのまま口をつけるのを見て、僕は微笑んでいた。それは三蔵自身も気づいていないだろう健康のバロメーターだから。
疲れている時の三蔵は、無意識に砂糖とミルクを入れる。5日も野宿が続いたのに、彼の体調は良いようだ。
「三蔵…?」
「………なんだ?」
しっかりと一服味わった後に三蔵が返事をする。それへ、おめでとうございます、と言いかけた僕の言葉は思わず止まってしまった。
知り合って間もない頃、三蔵の誕生日…この日にそれを言って嫌な顔をされたことを思い出した、から。
「俺の誕生日は…俺の生まれた日、じゃねぇ…」
彼はそう言って目を伏せた。
今朝、小川の水はすでに冬の気配を含んで冷たかった。あの冷たい水の中を、赤ん坊の彼は流されていた、のだ。
「三蔵?」
僕はもう一度彼の名を呼ぶ。
「だから、なんだ?」
今度はすぐに反応があり、その紫の瞳がまっすぐに僕を見た。
目にかかるほどに伸びた前髪を持ち上げ、三蔵のチャクラの上に静かに唇を落とす。
「て…めぇ!」
驚いたように見開かれた目に僕はにっこりと微笑んだ。
「ありがとうございます、三蔵…」
「だからお師匠はいつも、おめでとう、の代わりに、ありがとう、と言ってたな…」
遠くを見つめる三蔵の目は優しかった。
だから、僕も、ありがとう、と言う。
僕の手を取ってくれて。
こうして隣にいてくれて。
僕を救ってくれて。
生きていて、くれて。
今日は、ありがとう、の日。
「もうそろそろ、野宿は無理ですねぇ…」
ため息と共にそう一人ごちると、大きく伸びをしてから洗ったものを手早く片付け、仲間が出発の準備をしている場所へと戻った。
「西、でいいですね?」
毎日のように確認する同じ台詞。ジープにエンジンをかけ、全員が乗り込むと、スタートの合図は三蔵の言葉。
けれど、今日は少し違った。
「少し逸れてもいい。街のある方へ向かえ」
もう5日も野宿が続いてるので、当然と言えば当然の台詞に僕は黙って肯くとジープをスタートさせた。
「悟浄、地図見てくださいね」
背後の悟浄に地図を渡す。三蔵が見る気もないことはわかっていた。
「少し北に向かったとこに街、あるな。この地図が正しけりゃ、だけどよ」
確かに、異変のせいかあったはずの街がなくなっていた、ということも珍しくはなくなっている。それでも、そこに街がある事を信じて、僕はジープを北へ向けた。
そこはかなり大きな街で、入った瞬間から、そこここでお肉を焼く良い匂いがしていた。
「俺、腹減ったぁ~」
悟空がいつもの台詞を吐き、元気なく項垂れるのを見て、思わず笑ってしまった。
「確かに、食欲を刺激される匂いですねぇ…。宿を取ったら、僕らも今夜は焼肉、ですか?」
それとなく三蔵を見ながら悟空に声をかけると、嬉しそうな声が聞こえ、横では三蔵が一言、勝手にしろ、と呟いた。
宿で宿泊の手続きを取る。ツインを二部屋押さえながら、宿の主に訊ねてみた。
「美味しい焼肉を食べたいのですけど、どこかお薦めのお店はありますか?」
「あ~、どうかねぇ…。今日はどこもいっぱいだと思うよ? なんせ、いい肉の日、だから、ねぇ…。まぁ、ちょっと待ってな? 知り合いんとこに聞いてみてやるよ」
気軽にそう言うとご主人は電話に手を伸ばす。
いい肉の日………ああ、そういえば…日付の感覚が薄れていたことに気付いて、僕は失笑してしまう。
そして、キーの一つを悟浄に渡して、部屋割りを悟浄と悟空、三蔵と僕、にした。
今日は、三蔵に静かに過ごして欲しいと思ったから。幸いあとの二人は今日が何の日なのか思い出していないようだし、その方がいいだろう。
「兄ちゃん、ここ出て左に行って5軒目の焼肉屋がOKだってよ」
「あ、ありがとうございます」
僕らにとっては日常の、街の方々にとっては普通じゃないいつもの夕食を終えて、僕らは宿に戻って来た。
三蔵は部屋に入ると窓辺の椅子に陣取って煙草を手にボンヤリと外を見ている。
「三蔵、珈琲をどうぞ?」
僕はその目の前にいっぱいの珈琲を置いた。砂糖とミルクも添える。
ブラックのまま口をつけるのを見て、僕は微笑んでいた。それは三蔵自身も気づいていないだろう健康のバロメーターだから。
疲れている時の三蔵は、無意識に砂糖とミルクを入れる。5日も野宿が続いたのに、彼の体調は良いようだ。
「三蔵…?」
「………なんだ?」
しっかりと一服味わった後に三蔵が返事をする。それへ、おめでとうございます、と言いかけた僕の言葉は思わず止まってしまった。
知り合って間もない頃、三蔵の誕生日…この日にそれを言って嫌な顔をされたことを思い出した、から。
「俺の誕生日は…俺の生まれた日、じゃねぇ…」
彼はそう言って目を伏せた。
今朝、小川の水はすでに冬の気配を含んで冷たかった。あの冷たい水の中を、赤ん坊の彼は流されていた、のだ。
「三蔵?」
僕はもう一度彼の名を呼ぶ。
「だから、なんだ?」
今度はすぐに反応があり、その紫の瞳がまっすぐに僕を見た。
目にかかるほどに伸びた前髪を持ち上げ、三蔵のチャクラの上に静かに唇を落とす。
「て…めぇ!」
驚いたように見開かれた目に僕はにっこりと微笑んだ。
「ありがとうございます、三蔵…」
「だからお師匠はいつも、おめでとう、の代わりに、ありがとう、と言ってたな…」
遠くを見つめる三蔵の目は優しかった。
だから、僕も、ありがとう、と言う。
僕の手を取ってくれて。
こうして隣にいてくれて。
僕を救ってくれて。
生きていて、くれて。
今日は、ありがとう、の日。
三蔵誕生日に寄せて。
三蔵と八戒。
参加している最遊記二次創作サイト「行き先不明」に投稿したもの。
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プロフィール
夏風亭心太
酒、煙草が好き。
猫好き、爬虫類好き。でも、虫は全部駄目。
夜が好き。月が好き。雨の日が好き。
こんな奴ですが、よろしくお願いします。
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