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くれないづきの見る夢は 紅い涙を流すこと 透明な血を流すこと 孤独にのまれず生きること
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 部屋に入ると、頭の上に無理矢理乗せられたパーティハットだか言う派手な円錐形の紙の帽子を投げ捨て、ベッドに転がった。
 大きく伸びをして横になったまま煙草に火を点ける。
 適度に酒も入り、腹も一杯だ。



 誕生日、か…。
 忘れてたわけじゃ、ねぇ。
 まぁ、覚えてたくなかった、ってのが本心。



 この大きな街で、三蔵が三仏神と連絡を取るとかで一週間ほど滞在する事になった。
 一週間も雑魚寝ってわけにはいかない、ってんでそれぞれ個室を確保できる宿に入り、俺は毎晩、連中の目を盗んで遊んでた。
 今夜も、そうするつもり、だったんだがなぁ…。



 朝から八戒が忙しそうに動いてた。
 悟空が八戒を手伝ってた。
 三蔵が八戒に「早く戻ってくださいね?」と言ってる声が聞こえた。
 朝帰りして微睡む中で感じた気配と声。
 夢だったと思って出かけちまっても良かったのに、結局俺は出かけられなかった。



 夕方、部屋から出ると、早速八戒に捕まった。

「悟浄、なんか久しぶりですね?」

 ちくり、と嫌味を忘れない一言の後、俺はその宿のパーティルームのようなところに連れ込まれた。
 そこには三蔵と悟空もいて、大きなテーブルには溢れんばかりの料理が用意されてて…。

「ハッピーバースディ、悟浄!」

 元気な悟空の声とその手にあったクラッカーで、俺の誕生日パーティとやらが始まった。



 八戒が無理を言って厨房を借りたらしく、その料理のほとんどは八戒の手製で美味かったし、三蔵が俺に、と渡してくれた酒は最高級品で、こいつも美味かった。
 料理のほとんどは悟空の腹に消え、俺に、と持って来たはずの三蔵の酒はほとんど三蔵自身の腹の中に消えた。
 悟空に無理矢理被らされたパーティハットはこっ恥ずかしかったし、酔った三蔵が絡んでくるのは鬱陶しかったけど。
 まぁ、楽しい、っちゃ楽しいんだろう、な…。
 でも、何より…その場は居心地悪かった。
 悟空が満腹になり、三蔵が酔い潰れてしまうと、パーティとやらはお開きになった。
 八戒を手伝って片付けようとすると、「今日はいいんですよ。貴方が主賓だったんですから」と断られ、俺はすることも見出せず、部屋へと戻った。



 誕生日、か…。
 一体、何がハッピー、なんだろうな…。
 俺が生まれたせいで死んだ、本当の両親。
 そして、俺がいたせいで狂った、あのヒト…。
 自分の母親の血で手を染めた、兄貴…。
 俺が生まれた事で、人生の歯車が狂ったヤツが何人、いた?
 どこが、ハッピーなんだ?
 何が、めでたい、ってんだ?



 思考がぐるぐると空回り、する。
 飲み慣れねぇ高級な酒のせい、か?
 らしく、ねぇ…。
 だから、この日のことは覚えていたくなかったんだが、な…。
 心が…ダルぃ………。



 ドアがノックされた。
 この遠慮がちで規則正しいノックは、八戒、か。

「お~…」

 そのままの体勢で返事をすると八戒が入ってきた。

「悟浄……寝煙草はいけません、って何度も言っているでしょう?」

 転がったまま咥えていた煙草を取り上げられる。

「いいじゃねぇかよ…んな固い事言うなっての」

 そう言いながらも俺は起き上がって八戒の手から煙草を奪い返した。

「お疲れ様でした、悟浄」

 俺の隣に腰を下ろして八戒がにこやかに言う。

「それはお前、だろ? 朝から準備、してくれたんだろ~が」
「だって、貴方の誕生日ですから。それに、たまにはこうやって羽目を外すのもいいじゃないですか。悟空も三蔵も楽しそうでしたし」
「ああ…そうだ、な…」

 にこにことした顔で話していた八戒が急に真面目な顔になった。

「悟浄、貴方、は?」
「何が?」
「楽しみ、ました?」
「あ~…まぁ、な…」

 目線を逸らして煙草を灰皿に投げ込む。
 目を見たら、全部知られちまいそうで…。

「お前は、どうなのよ?」
「僕、ですか? 楽しかったですよ。久しぶりに野営ではない状態で腕を振るえましたし」

 言葉が、止まる。
 沈黙が部屋の中を支配する。
 手持ち無沙汰になって俺はもう一本、煙草を咥えた。

「すみませんでした…」

 居たたまれなくなったのか、八戒が俯いてぽつり、と言葉を零す。

「何が、よ?」
「……貴方も苦手、ですよね…。自分の誕生日…」
「いんや、別に。祝って貰ったことなんかねぇからよ、どうも、慣れねぇだけだ」

 嘘が白々しく響く。

「悟浄、手を出してもらえます?」

 八戒が自分のポケットを探りながら、言った。

「何?」
「いえ…プレゼントを用意したんですけど…」
「もう、もらったじゃん。パーティなんてしてくれたじゃねぇか。もういいぞ、これ以上」
「いいから、手、出してくださいよ」

 何かを握ってポケットから手を出す八戒の真面目な表情に負けて、俺は手を差し出した。
 そこに置かれたのは…懐中時計。

「これ………」
「ええ、そう、です。修理、してもらいました。貴方に持っていて欲しくて」
「なんでよ? これはお前の大事なもん、だろう?」

 八戒がずっと手放せなかった、止まった時計。それが、時を刻んでた。

「だから、です。だから、貴方に持っていて欲しい。僕の時を動かしてくれたのは貴方だ。貴方が生まれた事で何があったのか…貴方は話してくれましたよね、悟浄。それでも貴方の時間はずっと動いていた。僕はそれに感謝します。貴方がいたから、僕は今、ここにいる。悟浄、貴方が助けてくれた命です。貴方が動かしてくれた時間、なんです。この時計は…だから、貴方に持っていて欲しい。いけません、か?」

 生まれて初めて、かもしれねぇ…。
 生まれたことに感謝なんかされた、のは…。
 俺は手の中の懐中時計をしっかりと握った。

「ありがとう、八戒。お前の生きた時間と俺の生きた時間が…交差したこの現実に感謝する…。なんか、生まれて良かった、って今、思った…」

 目の奥が熱くなる。それを見られたくなくて俺は俯いた。
 それから、もう一度、ありがとう、と言った。
 八戒が、満足したように微笑んだのが気配でわかる。

「出発は明日の朝、ですからね? 寝坊しないでくださいよ?」
「…三蔵が二日酔いでダウンしてなきゃ、だろ?」

 俺の軽口に八戒が声を出して笑い、それから、おやすみなさい、と言うと部屋を出て行った。



 誕生日、か……。
 生まれたから、今が、ある。
 この旅は楽じゃねぇし、あいつらといる事で不自由さを感じることも多いけど…。
 ここは、居心地が、いい。
 生まれたから、生きてきたから、今、俺は、ここ、にいる。

 悪く、ねぇ……な。






最遊記、悟浄の誕生日に寄せて。

前に書いた、八戒の誕生日SSと対になるものです。
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