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くれないづきの見る夢は 紅い涙を流すこと 透明な血を流すこと 孤独にのまれず生きること
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 清一色とかいうムカデ野郎を倒してから。
 八戒は自分の過去にケジメをつけた。
 ように見えた。

 いや、実際に、ケジメはつけたんだろう。
 あいつなりに、理性では。
 けど感情は…心はそう簡単に割り切れるものじゃなかった。


 朝晩が涼しくなってきた初秋頃。
 八戒は雨の日、ぼんやりとすることが増えた。
 唯一、俺と出逢う前から持っていた、懐中時計を手に。

 壊れた時計。
 止まった時間。
 一度だけ見せてもらったそれは、1時23分で止まってた。
 彼女が連れ去られた時間だと思うんです…。
 八戒は寂しそうに笑ってた。



 今日は朝から八戒がぼんやりとしてる。
 空を見上げると、綺麗な秋晴れの空だった。
 ふと、思い出して、宿の主に日付を確認する。
 あ~…そうだったのか…。

「おい、八戒、しゅっ……」
 出発すると言いかけた三蔵の口に煙草を押し込んで言葉を止める。
「何しやがる」
 不機嫌にハリセンを構えるその腕を引っ張って隅っこに連れて行った。
「いや、今日、もう一日、ここに泊まろうぜ? 八戒に、ちょいと時間をやってくんねぇかな?」
 三蔵の声にも反応しなかった八戒の方に向って顎を上げて見せた。
「どうしたんだ、あいつは」
 不味い、と言いながら俺が押し込んだ煙草を俺に押し付け返し、自分の煙草に火を点けて不機嫌そうに聞いた。
「誕生日なんだよ、今日は。あいつの」
「それがどうした」
「わかんねぇのかよ…あいつの誕生日ってことは…」
 少し黙ってから、三蔵は静かに頷いた。
「悟浄、連泊の手続きしとけ。俺は部屋に戻る。それから、煙草買って来い」
 なんで俺が、とは思ったが、未成年の悟空に買いに行かせるわけにもいかねぇだろうし、まぁ、出発を伸ばしてくれただけでもいいか、と思い直して、俺は言われるままに宿での手続きを済ませると、買い物に出かけた。

 煙草を買って戻ると、茶を淹れろ、新聞買って来い、飯の時間だ、と散々こき使われた。
 朝、宿の食堂にいた八戒は、あいつと俺にあてがわれた部屋にいるようだった。
 そして…三蔵から逃げ出せた頃には1時を過ぎていた。
 ドアをノックするが返事がない。
 まぁ、俺の部屋でもあるんだし、入ったって構わないよな…。
 部屋に入ると、八戒はぽつん、と窓辺の椅子に座っていた。
 ただ、あの懐中時計を眺めて。

 ケジメをつけるのは、難しい。理性と記憶の狭間で、心が軋んでる。
 そんな感じがした。
 けど…ケジメをつけようと足掻いているんなら…今しかないだろう。

「八戒…」
 つかつかと歩み寄っても、八戒は顔を上げもしない。
 俺はいつも煙草を入れているのとは違うポケットを探って、引っ張りだしたものを八戒が見つめる壊れた懐中時計の上に置いた。
 1時23分。
 八戒の壊れた懐中時計と似たデザインのその時計は動いていた。
 驚いたように顔を上げる八戒に微笑んで見せる。
「誕生日おめでと、八戒」
「…ご…じょう…」
 どこかぼんやりとした表情で俺の顔と手に持った二つの懐中時計を交互に見つめる。
 その瞳から、一筋の涙が、落ちた。
「つけたんだろ、ケジメ。お前なりに、さ。忘れろなんて言わねぇし、覚えてるほうがお前らしいけどさ。そろそろ新しい時を刻んでもいいんじゃねぇの? とりあえず、俺ら4人での時を、さ」



 一緒に過ごすようになって、八戒の初の誕生日。
 俺は八戒に見せられた壊れた懐中時計と同じデザインの時計を買った、プレゼントにしようと思って。
 新しいものを手に入れれば…そう、単純に考えてた。
 けどあの日…
「こうやって僕だけが歳を重ねてゆくんですね…花喃…」
 ぽつり、と呟いたその言葉を聞いて、渡せなかった。
 それは、ただの時計じゃなかったから。八戒のすべてだったから、代替品じゃ駄目なんだと…。
 そして、その懐中時計はずっと、俺の手の中にあった。



「悟浄…」
「ん? 何よ?」
「傷だらけですよ、この時計…」
 壊れた時計を大事そうに仕舞うと、俺が渡した時計をまじまじと見つめて八戒が言う。
「あ~…ずっと俺が持ってたからな~。でも、動いてるじゃん。俺ららしい感じしねぇ?」
 いつか渡そうと思っていたプレゼントを傷だらけにしちまって、なんかすまないような気分だった。
 頭をぽりぽりと掻く。
「いえ…いいんですけど…。でも、時計持っている割には、いつも時間にルーズですよね、貴方…」
 くすくすと面白そうに笑いながら言う八戒に、無理をしてる様子は見えなかった。
「ん~? だってさ、時間なんかあってねぇようなもんじゃん、俺らの旅って。だからさ、ホント、持ってるだけだったんだよな」
「たまには時間も気にした方がいいですよ? 三蔵はけっこう気が短いんですから」
 相変わらずくすくすと笑いながら言う八戒に、俺は真面目な顔になって聞いた。
「で? 貰ってくれる?」
 八戒の視線が泳ぐ。
 じっと手の中の懐中時計を見つめて…それから大事な壊れた時計を取りだして見比べる。
 それから、壊れた時計を出した場所へ、俺が渡した時計を大事そうに仕舞った。
「ありがとうございます」
 そして壊れた時計を困ったように見て、握り締めると投げ捨てようとする。
「おいおい、待て待て…。それも大事なんだろ? 一緒に持ってりゃいいじゃん」
 取り上げると八戒が新しい時計を仕舞った場所に無理矢理押し込んだ。
 また八戒の瞳から涙が零れた。
「忘れるこたねぇ、つったろ? それに、そいつはお前の大事な思い出なんだから…一緒に前に進みゃいいじゃん」
「…はい…そう、ですね…」
 何かを考え込むような様子の八戒を置いて、俺は部屋を出た。



 部屋を出る寸前…
「花喃…僕は…もっともっと、生き足掻いてみようと思います…彼らと一緒に…」
 そう呟く八戒の声が聞こえた。
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夏風亭心太


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