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くれないづきの見る夢は 紅い涙を流すこと 透明な血を流すこと 孤独にのまれず生きること
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 風が吹く。

 小ぬか雨が降る。
 動きの早い雲が辛うじて感じられる闇の中。
 真っ黒な着流しで、頭には髷も結わず、大刀を左手に脇差は腰に差したままの男が空を見上げていた。
 武士にしてはその身なりは整っておらず、かといって、貧乏な浪人、というわけでもない。身につけている着物はその暗い中でもあるなしかの光を反射しているかのような輝きをもって、その男の身を包んでいた。
 男が空を見上げるその視界が遮られる。
 振り向くと、一人の同心が立っていた。男に番傘を差しかけている。
 紺の着物に黒い羽織り。綺麗に髷を結い、腰に大小の刀をきっちりと差している。
 にっこりと微笑むその顔は一見優男そのものだが、その同心が半端なく強いことを男は知っていた。

「やっぱり来ていましたか、浄之助」
「お前も来たじゃねぇか、八乃進」
「雨、ですねぇ…」
「ああ、雨だな」
「今夜の月は、無理でしょうか?」
「どうだろうな…雲が早い…」
「濡れますよ?」
「お前もな。俺はもう濡れている、お前まで付き合うことはねぇよ」

 差しかけられた傘から離れ、男…浄之助はまた、空を見上げた。

「あの人も来ます、かねぇ」
「どうだろうな…あいつは色々大変だろうし…雨も降っているからな…」

 同心…八乃進は傘を差したまま、自分が来た方を振り返る。
 八乃進が視線を向けたほうから、一人の男が傘を差して歩いてきた。

「来ていたのか、お前ら…」
「お前も来たじゃねぇの、三の字」
「その名で呼ぶな。今の俺は…」
「玄将、でしたよね?」
「ああ…忘れるんじゃねぇ…」

 三人目の男は、袴に裃という姿だった。髷はきちんと結われ、こちらもきっちりと大小の刀を腰に差している。
 そして、手には提灯。


 この三人は同じ道場の門下生だった。
 浄之助は旗本の次男坊で、八乃進は八丁堀同心の長男、玄将は…元は大きな商家の後取り息子で、彼らが知り合った当時は捨三といった。
 身分も違う三人だったが、歳が近かったこともあり、気がつくといつも一緒にいた。
 剣術を学び、悪さもたくさんした、そんな仲だった。


 ある日、八乃進がどこかで読んだ海の向こうの書物の話をした。
 曰く、
 月はお天道様の光を受けて初めて輝くことが出来るのだ、と。
 月の表面は鏡で出来ているのだろうか、それとも、月の水面が輝くのだろうか、と三人で語って…夜になり、その満月を見上げながら、なぜだろう、いつしか自分たちは月のような存在なのかもしれない、とそう結論付けていた。


 大人になり、八乃進は同心に、捨三は…商家には向かぬ性格のせいで弟に家を任せ、自分は武家へ養子として入った。浄之助は、いくばくかの金を貰って家を出た。
 八乃進は同心としての頭角を現し、捨三は名を玄将と改め、商家出身ということで蔑まれながらも、江戸城へ上ることを許される役職を与えられるまでになった。浄之助は…あまり褒められたような生活はしていないようだったが、それでも食うことにも困らぬだけの収入を得ていた。
 そして、三人は疎遠になった。


 それでも、中秋の名月のこの日だけは、誰からともなく、あの日、月について語った、そしてまだ見ぬ自分たちのお天道様に思いを馳せたこの場所に集まった。


 さぁ、と雲が途切れ、満月が顔を出す。
 視界一杯に黄金色が広がる。一面のすすきの原。
 月はすすきで出来ているのじゃなかろうか、と思う。
 お天道様の光を受けて輝くすすきの中で、その輝きさえ眩しく感じるのにお天道様を望む男が三人。

「あいつも…この月を見ているのだろうか…」

 誰が言ったとも知れぬその言葉に、あいつ、が誰かもわからぬまま…曖昧に頷いていた。



*** ** ***



 雨が降っていた。
 俺はその空を恨めしげに見上げる。咥えた煙草は火が消えていたが、点けてもまた消えるだけだろう、と投げ捨てた。

「ここにいたんですか、悟浄」

 傘を差しかけてくれて、八戒が隣に立った。傘で雨が遮られたのを幸いに新しい煙草に火を点けた。

「月、見えねぇな…」
「そうですねぇ…せっかく、中秋の名月ですのに、ねぇ…お月見会も中止ですかね…」

 隣の八戒も少し残念そうだった。

「でも、風がありますから、もしかしたら…」
「あいつら、来んのか?」
「どうでしょう? お団子、たくさん作っちゃったので、悟空に来て食べて貰わないと…」

 雨が、上った。
 そして、強い風が雨雲をすごい勢いで流していく。
 八戒が傘をたたむ。
 輝きだした満月は、目の前のすすきの原を黄金色に染めた。
 その眩しさに目を細めると、その月の明かりを凝縮したような人影が見えた。

「おい、お月さん、来たみてぇだぜ?」

 その髪を月の色に染めながら、三蔵がゆっくりと歩いてくる。
 その前を仔犬のようにくるくると賭けながら、楽しそうにはしゃぐ悟空の姿も見えた。

「お~い、バカ猿、こっちだぜ~」

 俺が声をかけると、すごい勢いで悟空が走ってくる。

「猿って言うな~~!」

 身体全部でぶつかってくるその瞳は、太陽の色に輝いていた。

「お前は…ずっと、月を見て、いたか…?」


 夢で見た男たちが言っていた太陽はきっと…このまっすぐな瞳の少年のこと、だったんだろう。




 月が……綺麗だ…。





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夏風亭心太


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