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くれないづきの見る夢は 紅い涙を流すこと 透明な血を流すこと 孤独にのまれず生きること
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 飛んで来い。ぜぇ~んぶ俺が引き受けるから…。



 雨が降ってた。こんな日なのに…。いや、こんな日だから、か…。
 俺は手に持った小振りのケーキの箱を二つ、濡れないように、と抱えなおす。
 もう、あいつは寝てるだろうか? 早寝早起きを心掛けてる奴だし…。
 いやでも、雨音に降り込められて、眠れずにいるんだろうな、きっと…。
 今日が終わらないうちに…俺は駆けだしていた。

「八戒、すまねぇ、遅くなった!!」
「…あ、悟浄…お帰りなさい…」

 八戒はリビングのソファでぼんやりとしていた。
 壁にかかっている時計を見上げる。大丈夫、今日はまだ1時間残ってる。

「なぁ、八戒、悪いんだけど、珈琲淹れてくんねぇ? 雨で少し冷えたわ」
「わかりました。シャワー、浴びちゃってくださいね?」

 ことさらなんのこともないように言って俺はテーブルに持っていた二つの箱を置き、シャワーを浴びに行った。

 シャワーから出てくると、キッチンで珈琲のいい香りがする。リビングのテーブルに置いた二つの箱はそのままで、俺はそれを持ってキッチンへ入った。

「八戒、これ…」

 二つの箱を並べて置くと、俺は八戒が差し出したマグを受け取る。俺の好みの通り、少し濃い目に淹れられた珈琲の香りが鼻をくすぐった。

「これ…なんです?」

 八戒の手にもマグカップ。中には多分、カフェオレだろう、淡い褐色の液体が入っていた。
 箱を一個開ける。そこには小さいバースディケーキ。『21歳の誕生日おめでとう、八戒』と入ったチョコレートのプレートがちょこん、と乗っている。
 それを見て、八戒がひどく複雑な表情をした。

「八戒、今日、誕生日だろ? パーティとかそんなん嫌だろうし…気の利いたプレゼントなんざ用意できねぇからさ…せめてこんくれぇは、と思ったんだけど…ダメだった?」
「い…いえ…そんなこと…」

 ありません、と呟くように言いながら、それでも八戒がそのケーキを見る目は悲しそうで…。
 俺は抱き締めていた。



 痛いの痛いの飛んで来い。ぜぇ~んぶ俺が引き受けるから。



 去年の八戒の誕生日。
 おめでと~、とやってきた悟空と、面白くもなさそうな顔をしながら、それでも花束を持って来た三蔵をもてなした後。
 秋晴れの青空の下、八戒は悲しそうな顔をして、ぽつり、と呟いた。

「僕は一人で生きている…いいんでしょうか…ねぇ…花喃……」

 魂の片割れだった、双子の姉にして恋人の花喃も当然、八戒と誕生日は同じなわけで。

「辛いの?」
「い…いえ…そんなこと…ありません…」

 悲しそうな笑顔を見せる八戒はそのまま、その青空に溶けて行っちまうじゃないかと思った。
 たった一年、それだけで八戒のいない生活なんか想像もできなくなってた俺はその夜、初めて…八戒を抱いた。



 痛いの痛いの飛んで来い。ぜぇ~んぶ俺が引き受けるから。



 一年前と同じ表情で同じ台詞を呟く八戒の身体をおもむろに離して、俺はもう一個のケーキの箱を開ける。
 こっちもバースディケーキで、チョコレートのプレートには「18歳の誕生日おめでとう、花喃&悟能」と書いてもらってある。

「こいつらは、歳取らないだろ? んで…これは、こうする」

 俺はおもむろにパスタ用の大きなフォークを出してくると、そのケーキに突き立てて、そのまま口に放り込むようにして貪った。

「あ…ごじょ……」

 俺の行動に驚いたように止めようとする八戒に笑って見せながら、俺は手を止めなかった。
 できるだけ甘くないのを、と選んだが、やっぱり甘い。貪るにはスポンジがもそもそしすぎてて、咽喉に詰まる。それでも俺は、それを珈琲で流し込むようにしながら、全部、食べ切った。

「はっ…かっ……珈琲…お…かわ…り…」

 思わず涙目になってマグを差し出す俺に、八戒は苦笑する。
 その笑顔に悲しい色はなく、俺はホッとした。
 淹れられた珈琲を一気に飲み切って、俺はほぅ、と一息吐いた。

「大丈夫ですか、悟浄?」

 もう一度マグを満たしてくれながら八戒が心配そうに顔を覗き込んできたから、それに軽くキスをする。

「大丈夫。さて、八戒の誕生日ケーキ、喰おうぜ?」
「え? 大丈夫ですか、本当に…」

 焦った顔で言う八戒が少し可愛いと思った。だから、満面の笑みで頷いて見せた。

「大丈夫だって。今日は八戒の誕生日だろ? 八戒の。祝わないなんて、できねぇよ、俺は」

 八戒、という名前を強調する。
 そんな俺に、八戒は優しく微笑んでナイフを用意すると、ケーキを切り分け始めた。

「忘れろ、なんて言わねぇし、忘れて欲しいとも思ってねぇけど…。それは思い出にして…俺との新しい思い出を重ねて行ってくんねぇか?」

 思わず零れた本心に自分が一番驚いた。野郎同士なのに押し倒しといて、1年も経ってから、告白もねぇだろうが、俺…。
 八戒の驚いたような顔に少しの満足感を得ながら、照れ臭さを隠すように目の前に置かれた、丁度八分の一のケーキに手を伸ばす。
 正直、食べられる気がしなかったが、それでも口に運ぶ。
さっき食ったのは、八戒の…悟能の、悲しい思い出の一部。俺が貰いたかった、あいつの過去。これは…八戒と過ごした二年の、そしてこれから過ごす未来の思い出の一部。
自分にそう言い聞かせる。
目の前の八戒にちらり、と目をやると、一口だけケーキを口に含んで、そのまま動きを止めていた。

「どうした? 八戒? 不味かったか、このケーキ…」
「いえ…そうじゃ…ありません…」

 八戒の頬に一筋の涙が流れた。

「これは…これからの…貴方と僕の思い出になる、んですよね…」

 俺は自分に言い聞かせるつもりでいたことを無意識に声に出していたらしい。
 立ち上がって隣に行くと、八戒を立ち上がらせて正面から抱き締めた。

「痛いの痛いの飛んで来い。ぜぇ~んぶ俺が引き受けるから…」

 耳元に囁く。
 本気の恋なんざしたことのねぇ俺だけど…愛された記憶のねぇ俺だけど……いや、だからこそ、俺は八戒の痛みを分かち合いたいと思っていた。どこまで、感じられるかわかんねぇけど、それでも、俺が傍にいてこいつの痛みが少しでも和らげば、それでいいと…。
 俺にしがみつき嗚咽を堪える八戒の肩を掴んで引き離すと、俯く顎に手をかけ上向かせてキスをした。

「甘ぇ~…お前のキス、甘すぎっ」

 おどけたような俺の言葉に八戒は泣き笑いの表情になる。

「僕もケーキ食べましたから…。悟浄のキスも甘かったですよ?」

 少し鼻にかかった声でそう言うと、涙を拭ってまだポットに残っていた珈琲を俺のマグに足してくれた。

「ありがとうございます、悟浄…」

 呟くように言って俺の肩に頭を預ける八戒をただ、優しく撫でた。



 痛いの痛いの飛んで来い。ぜぇ~んぶ俺が引き受けるから。

 八戒の痛みをわかること、わかろうと努力すること。そして、その痛みの少しでも貰うこと…それが俺から八戒へのバースディプレゼント。

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