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くれないづきの見る夢は 紅い涙を流すこと 透明な血を流すこと 孤独にのまれず生きること
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「うわっ!!」

 目に焼けるような痛み。
 襲ってきた妖怪が撒き散らした毒の粉をまともに被っちまったらしい。

「悟浄っ!」

 背後から八戒の悲鳴めいた声が聞こえる。
 そう、風下のいた俺ら。
 その一番妖怪に近い位置にいた俺は錫杖を振り回すことでその毒を散らせたが、その一部が飛ばしきれず、俺の目の中に入ったのだ。

 痛みで目が開けられない。
 その場は気配だけで戦うが、仲間の位置の確認も出来ず、鎖鎌は使えなかった。

「悟浄」

 優しく声をかけられ、肩に手を置かれて戦いがすんだ事を知る。

「大丈夫、ですか?」

 言われて痛む目を無理矢理開けると…何も見えなかった。


 痛みは程なく引いたが、自分の手すら見えねぇ。
 本当の闇とはこういうことを言うんだろうか…。
 星一つの光りですら明るいのだと、思った。


 八戒の気孔じゃどうにもならず、近くの町の医者の所に担ぎ込まれる。
 三日も経てば毒も消え、目も見えるようになるだろう、との診断だった。


 宿に着いて、タバコを吸おうと手探りで出したケース。
 一本手に取りかけて、落とすともう、探せねぇ。
 新しいのを出そうと思って探るが、ケースの中はもう空っぽだった。

「ちっ」

 舌打ちをして空のケースを握り潰す。
 三日もこの不自由さを味わうのか…。

 急に右手を掴まれる。
 持たされたのはタバコ、だった。
 吸ってみると、ハイライトの味。
 火が点いてる。
 三蔵か…苦手な味だつってたのに、ご丁寧に火まで点けてくれたのかよ…。

「サンキュ、三蔵」
「………ふんっ。面倒臭ぇから早く治しやがれ」

 あ~、はいはい、その一言は忘れねぇのね。
 つか、これって…三蔵と間接キスかよ…。
 ま、いっか。
 せいぜい、面倒臭ぇ俺の世話、焼いてもらいましょ。
 

 眠れと言われてベッドに入り目を閉じるが、これじゃ、目を瞑っていても開いていてもかわりゃしねぇ。
 余計に神経が研ぎ澄まされる。
 同室になった八戒がたまに俺の方を心配そうに伺っているらしい気配。
 隣室の三蔵と悟空も今日はやけに静かだ。
 それでも、そんな物音を聞きながら、俺は徐々に眠りへと吸い込まれる。
 自分の心臓の音が…大きく聞こえ、それがすべてになって、眠りに落ちた。

 

 三日待つ、という三蔵や八戒に反対して、俺は出立を促した。
 何もしねぇで同じ所に留まっているのは、耐えられなかった。
 せめて、風を感じたい。
 それに、どっかに留まろうと進もうと、襲われる時は襲われる。
 だったら、一箇所に留まるよりは、進んだほうがいいだろう。
 俺の言い分にしぶしぶと言った体で納得したらしい二人は、出立を決め、俺らはまた旅の空を進む。


 冬が近い冷たい風に吹かれて進む。
 目が見えなくなって…風に匂いがあることを改めて知った気がする。
 休憩する、停まった場所からそう遠くない場所で川のせせらぎを聞いた。
 悟空がその野生動物並みの鼻で水を見つけたのとほぼ同時だったのには笑ったが。


 俺が手を伸ばすと、八戒がカップを持たせてくれる。
 タバコを咥えると、三蔵が火を点けてくれる。
 悟空までが、俺の取り皿に料理を取ってくれ、箸を持たせてくれた。


 世界には、色んな匂い、音があるんだと、知った。
 仲間の気遣いが嬉しかった。


 Dialogue In The Dark
 暗闇の中での対話。
 誰かと、自然と対話をする、というエンターテイメントがあるらしい。


 暗闇はずっと怖いと思っていた。
 俺らは…俺は、いつも月の明かりを頼りに闇を歩いてきた。
 けど、それさえもなくした時、闇は思っていたよりも温かいと思った。



 医者の見立て通り、三日後、俺の眼は光りを取り戻した。
 光りのある世界は眩しくて…仲間の顔を再び見られた事にホッとして…それでも、流れた涙は、眩しいせいだと、俺は言い張った。








「Dialogue In The Dark」
 そういう催しがあると知ったのは、今日、ラジオを聞いていて、でした。

 本当の闇、というのを経験することは滅多にありません。
 夜中に目が覚めても、必ずどこかに明かりがある。
 だから、もし、本当の闇に包まれたら? そう思って書きました。
 本当に自分だったら、パニックになって大変だろうな、とは思うんですけど、そこは悟浄。
 彼はおいらの中ではすごくポジティブな人間で、それに、彼には仲間がいる。
 さらに、三日、と期日が決められていれば、それさえも楽しむんじゃないかな、と思いました。


 「紅色の罪」より転載。

 2009年12月13日UP。
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