忍者ブログ
くれないづきの見る夢は 紅い涙を流すこと 透明な血を流すこと 孤独にのまれず生きること
[69]  [68]  [67]  [66]  [65]  [64]  [63]  [62]  [61]  [60]  [59
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


 静かにJAZZの流れるバー。
 そのカウンターの一番奥の席で、火の点いた煙草を右手の人差し指と中指に挟んだまま、ジンのロックを舐めるように飲んでいる男が一人。
 モノトーンの落ち着いた店内でその男の辺りだけが鮮やかな紅で、目を引く。
 悟浄、だ。
 いつも回りにアクセサリーのように侍らせる女性の姿もなく、旅の連れの姿もない。一人、だった。
 街に入って宿に着くとすぐに、悟浄は一人で出かけた。この日だけは、誰もこの単独行動に文句を言わない。
 同じような日が、三蔵にも八戒にもある。一年のうちでたった三日。それぞれが、自分の内に篭る日があるだけのこと。
 けれど、悟浄はこの日にどんな思いを抱いていいのか、わからない。
 三蔵も八戒も、大事な人を失った日だと、その相手を悼むことができる。
 自分には、それが、ない。アノヒトの死を悼むほどの優しい記憶は…どこを探しても見つからない。
 自信に満ちて光り輝いているような陽気な瞳も、今は陰鬱な色に沈んでいる。
いつもはすべてを面白がるように上がっている口角も、少し下がり気味でなんの感情も浮かんでいない。

「二度目の…誕生日…か…」

 右手にグラスと煙草を持ったまま、肘をついた左手の指で、そっと消えぬ傷をなぞる。
 舌が焼けるような強い酒の味に表情を歪める。
 自分で言った一言に、嫌気が差しただけ、なのかもしれない。
 死に損なった、それだけの日。それ以上でもそれ以下でも、ない。
 それでも、この日になると、一人でいるのが苦しかった。だからいつも、子供の頃欲しくて欲しくてたまらなかった何かを求めるように、愛を、温もりを求めるように、街を彷徨っていた。
 それが変ったのは、仲間と呼べる彼らに出会ってから。愛でも温もりでもないが、自分がいてもいい場所を見つけてから。
 そしてこの日、悟浄は一人で静かに過ごすことを選ぶようになった。



 店の中に流れているJAZZが、止まる。
 実際は止まったわけではなかった。その店の雰囲気を壊すような一団が、入って来たのだ。
 カウンターの中の初老のマスターが嫌な顔をする。

「相変わらず、シケてんなぁ、この店は…」
「お、珍しく、客がいんじゃんよ。女かぁ?」

 男たちの声が耳障りだ。悟浄は睨みつけるように、顔を上げた。

「なぁ~んだ、野郎かよ~~。随分と派手なナリしてんじゃん、兄ちゃん」

 男の一人が馴れ馴れしく肩に手を置く。
 その手を一瞥すると、悟浄はそれを振り払った。

「…煩ぇ…俺は静かに飲みてぇんだ。どっか行きやがれ、群れなきゃなんも出来ねぇガキが…」

 吐き捨てるように呟かれる言葉に、男たちは敏感に反応した。口々に怒声に罵声を上げる。

「なぁ、おっさん。こいつら、街の顔役とかと繋がってねぇ、よな? 店の中、壊したらすまねぇ」

 グラスを静かにカウンターに置きながら男たちにゆっくりと視線を向けながら言う。

「売られた喧嘩は高価買取、よ?」

 その情況を面白がるように、悟浄の口角が上がった。
 悟浄がスツールから立ち上がるのを待たず、男の一人が殴りかかって来た。
火の点いた煙草を持ったままの手を前に突き出し、男の顔でその火を消すと、スツールから身体を滑らせてしゃがみ込み、拳をかわす。
 勢いのついた男の拳は、身体の動きに一瞬遅れて残った悟浄の髪を掠め、そのまま男は壁に激突して顔を押さえて蹲った。

「野郎っ!」
「このっ!!」

 男の一人がしゃがんだ悟浄目掛けて蹴りを放つ。床に据え付けられたスツールの足を掴み軸にして身体を回転させた悟浄はそれをかわし、身体を広い店内に滑り出させて蹴り上げた足をその隣の男の鳩尾にヒットさせた。
 残りは三人。
 体勢を立て直そうとしたところで、そいつらに殴られるが、悟浄には大して効いてないようだった。

「全然、効かねぇなぁ…」

 口の中が切れたのか錆の味が口の中に広がる。その血だか唾液だかわからないものを吐き出すと、悟浄は不敵に笑って見せた。
 喧嘩には慣れてる。痛みにも…。ずっとアノヒトに殴られて育ったし、一人になって暫くは、殴られることの方が多かった。死ななかったのが不思議なくらいに。
 そうして体得した喧嘩の術はすっかり自分の一部だったし、旅に出て命のやりとりを続けるうちにどんどんと研ぎ澄まされてきていた。
 何発か拳が当たった事で気を良くしたらしい男が更に悟浄に殴りかかる。
それを紙一重でかわして鳩尾にパンチを一発。そのまま、隣の男に、頭突きをかます。
 残った一人が恐怖の表情を浮かべる。

「やっぱ、一人だと怖ぇんじゃん。仲間連れて出てけよ」

 にんまりと笑って撤退を促すが、男は急にキレたかのように、飛びかかって来た。その手にナイフを持って。
 それを間一髪でかわすが、ナイフの切っ先が頬の傷の上を掠める。
 つぅ、と落ちる血に、あの死に損なった日を思い出す。

「くっ…」

 これは、痛み、じゃない。怖れ、でもない。苦しみ…悲しみ…そして、すべてを諦めていた自分…。
 くい、と袖でその血を拭う。今は、諦めたりしない。それだけの強さが、自分には、ある。
 身を翻して、上着を脱ぐ。更にナイフで切りかかってくるのを片手に持った上着で巻き取るようにして、叩き落とした。そのまま、反対の手を拳にして顔面を目掛けて殴りかかり、目の前ですん止めにする。
 男はその場にへたり込んだ。
 最初に伸した男がもぞもぞと起き上がり、最後まで残った男と二人、倒れた仲間を連れて、ほうほうの体で店を出て行った。
 脱いでいた上着に腕を通すと、背の部分が大きく切られていた。
 悟浄はそれを見てため息を吐く。

「おっさん、騒がせたな…」

 元のスツールに戻って、煙草に火を点ける。
 マスターが悟浄の傍に来て、蒸しタオルを差し出した。

「これで、傷を…。強いですねぇ、お客さん…」

 言われるまま、切られた頬を中心にいくつか出来た傷をざっと拭きながら、いやそうでもねぇぞ、と言葉を濁して笑う。
 聞くと男たちはこの辺りのチンピラで、街の鼻摘み者だったらしい。
いやぁ、スカッとしました、とマスターは屈託なく笑っていた。
 残っていた酒を一気に煽る。
 お代はいいです、いいものを見せてもらいましたから。というマスターの言葉に甘え、悟浄はその店を後にした。


 切られた上着を見て小言を言うだろう八戒を思い浮かべて苦笑しながら、宿に、仲間の元に帰るために。






 これはおいらが参加させてもらっている最遊記二次創作の投稿サイトに寄せたもの。
 そこのキリリクに答えて書きました。
 リク内容は「格好いい悟浄」

 格好いい、ですか?(笑)
 すごく久しぶりにアクションシーンとか書いてみた(笑)

 タイトルの「Tanqueray」はジンの銘柄。
 きっと悟浄が飲んでたのはこの酒。


 2010年1月12日UP。
PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
願い     HOME    ポインセチア
カレンダー
09 2025/10 11
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
プロフィール
夏風亭心太


 酒、煙草が好き。
 猫好き、爬虫類好き。でも、虫は全部駄目。
 夜が好き。月が好き。雨の日が好き。
 
 こんな奴ですが、よろしくお願いします。
フリーエリア
最新記事
リンク

 最遊記の二次創作投稿サイト。
夏風亭心太も参加しています。


 ここの素材をお借りしたサイト様。

Atelier EVE**Materials**
 バナー素材をお借りしたサイト様
最新コメント
[11/19 https://www.getjar.com/categories/all-games/action-games/Rules-of-Survival-Cheat-960889]
[11/16 https://truoctran.com/viet-nam-vs-malaysia-tip-keo-bong-da-hom-nay-16-11]
[11/14 سنسور صنعتی]
[06/27 aypo]
[08/27 そういち]
カウンター
バナー

 ここのバナーです。ご入用の方はどうぞ♪
忍者ブログ [PR]