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くれないづきの見る夢は 紅い涙を流すこと 透明な血を流すこと 孤独にのまれず生きること
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 どうしてこうなるんだか…たった一晩の宿の部屋で…。

 朝食を済ませて出立の準備のために一人先に部屋に戻った僕は、改めてその部屋の惨状にため息を吐いて散らかった部屋を片付け始めた。

 これじゃぁ、持って行く物と捨てて行って良いものの区別もつかない。それに、いくら商売とはいえ、宿屋の方にも申し訳がないくらいの散らかりよう。

 ゴミを集めて必要な物を荷物に詰めて……

「八戒~、準備出来たかぁ?」

 悟浄が顔を覗かせる。相変わらずの咥えタバコで捨て場に困ったのか、手近な缶を手にする。

「悟浄…っ!」

 また缶を灰皿代わりにするつもりですかっ、といいかけたところで今度は悟空が飛び込んできて、集めたゴミを漁り始めた。

「俺の菓子、残ってただろ~~!」

「悟空っ!」

 せっかく集めたゴミを…僕は思わず悲鳴に似た声をあげてしまい、そこへ戻って来た三蔵に顔を顰められる。

「煩ぇ。まだ、準備出来てねぇのか…」

 誰のせいだと……僕の中で何かがぶち切れる音が、した。

「誰のせいだと思っているんですかっ! あなたたちが、部屋を綺麗に使わないからでしょっ!」

 僕の剣幕にぽかん、とする三人を後ろに、僕は部屋を飛び出していた。



 飛び出してはみたもののまったく知らない町の中、行くあてなどあるわけもなく、僕は途方に暮れて、宿に入れてもらうことの出来なかったジープの傍で佇んでいる。

 いつも彼らは散かすばかり。僕がどんな思いで片付けているのかなんて、考えたこともないんでしょう。

 そりゃ、保父を買って出てる場面もありますよ。
 ありますけど、だからって、なんでもかんでも僕にやらせるのは間違ってる、とは思わないんでしょうか、あの人たちは…。

 悟浄は今でも手近に灰皿が見当たらないと空き缶が灰皿ですし、悟空はいくら言っても食べ散かすことをやめない。
 目の前にゴミ箱があってもその辺りにゴミはぽいっ。
 三蔵は、自分から率先して散かしたりはしないものの、いつも傍観者で他人事。
 僕が何をしているのか知っているんだったら、もう少し、悟空や悟浄に注意してもいいでしょうに…。いつでも何事もなかったような顔をして、知らん振り。

 野宿での食事の支度も、宿に泊まった時の洗濯も、運転も…全部、僕。

 そりゃ、悟浄に食事の用意をさせたら後片付けが大変ですし、食べられればなんでもいい、って全部をぶち込むような感じの料理ですよ。
 悟空に洗濯を手伝って貰ったら、服は破けちゃいましたよ。
 三蔵に運転を任せたら…ブレーキとアクセルの区別もつきませんでしたよ。

 僕がやったほうが結局、安全で簡単だってことわかってます。
 それはいいんですよ。
 だったらせめて…自分の身の回りのことぐらい、自分でしてくれたっていいじゃないですか。
 ゴミの始末すら出来ないなんて、あの人たちの神経はどうなっているでしょう…。

 僕はジープの助手席に座る。
 いくら腹を立てていても、旅は一緒に続ける。この場で袂を分かつのがどれだけ愚かな行為か判っているから。

「あ、八戒いた~~」

 無邪気な様子で悟空が僕を見つけて走って来て、違和感を感じたのか、立ち止まる。
 悟浄が荷物を持ち、三蔵は清算をすませていたのか、その後から出てきた。
 僕がどこにも行っていない、と判りきったような行動に腹が立つ。

「おい」

 三蔵が僕の横に来て声をかけるが、僕はそれを無視する。
 悟浄が荷物を積み込み、悟空は少し困ったように三蔵と僕の顔を見比べていた。

「出発、するんですよね? どうぞ。今日は僕、ここに座らせてもらいますから」

 少し驚いたように僕の方を伺う三人の視線に仏頂面で答える。僕は怒っているんです、と。

「何を拗ねてんのかしんねぇが、そんな態度を取るなら、どっか行っちまえ」

「いいんですか? 僕がここを離れれば、ジープは僕について来ますよ? それに、戦闘要員は一人でも多いほうがいいでしょう?」

 三蔵がイライラしているのが手に取るようにわかる。けど、僕は引かなかった。少し、考えて貰わないと。

「ま…まぁ、三蔵…今日は後で我慢しろって…。俺が運転すっから…」

 こういう時に素早く反応して自分の行動を見極めるのはやはり悟浄が早い。この辺りは少し尊敬するけど、それで僕の感情が治まるわけじゃない。

 ジープは悟浄の運転で出発した。


 その日の宿は通り道にあった、無人の山小屋になった。
 食料はそれなりに買い込んである。
 けど、僕はストライキを続ける。
 諦めたらしい悟浄が珍しく、他の二人の世話を焼いているのを僕は黙って眺めていた。

「おい、悟空、水汲んで来いっ」

「おい、悟空……」

 僕のことは、触らぬ神に祟り無し、とでも思ったのか、悟空も悟浄に言われるまま、彼の手足のように動いているが、そのたびに、荷物が滅茶苦茶になっていく。
 整理したい気持ちを押さえ込んで僕は知らぬ振りを続けた。

 あ~…あんな包丁の持ち方じゃ、手を切る…あ…切った…。
 あ、お湯が吹き零れる…そんなに塩を入れたらしょっぱくなる……
 悟空、皿の上に服を置かないでください…
 三蔵…服の上に灰を落とさないで……

 口を出したい、手を出したい……。
 それでも我慢をして、僕は悟浄の用意してくれた食事を黙って食べ、それぞれに場所を見つけて、就寝した。


 夜中に目が覚める。
 何かあった時困るから、と小さく灯された明かりの中でごちゃごちゃになった荷物の影を見る。
 静かに起き出すと、僕はそれらを片付け始めた。
 やっぱり、彼らには任せておけない…。

 もくもくと片付けていると人の気配がする。無言で僕が集めようとしていたものが渡される。

「やっぱさ、八戒ってすげ~わ。運転して、飯の仕度して…なんでも綺麗にできるなんてよ…。俺なんか、一日でもう、ギブアップ…」

 悟浄だった。

「何にそんなに腹立てたのか…わかんねぇけどよ…もう、機嫌直してくれよ。悪いとこは言ってくれたら直すようにすっからよ」

「俺、物憶え、悪いかもしんねぇし、言われてもすぐにわかんねぇかも、だけど、一回一回、そのたんびに言ってくれたら直すからさ、八戒、許してよ…」

 悟浄の後から悟空も顔を出す。

「悟浄の塩っ辛い飯はもう、食いたくねぇ」

 薄明かりが大きな明かりになる。三蔵も起き上がっていた。

「そうそう、悟浄の食ったら咽喉渇いちゃってさ~~」

「悟浄、茶を淹れろ」

 あ~もう、この人たちは…反省してるんだか、してないんだか…。
 僕は思わず噴き出していた。

「悟浄、火を熾してください。お茶、淹れますね」

 僕はお茶の用意をする。僕自身も咽喉が渇いていたから。


 諦めのため息と共に、僕は怒りを吐き出した。
 もう、保父でもいいじゃないですか。
 何もしないと決めても、ここまで気になるんじゃ、返って僕の精神衛生上もよくないですし。
 一日、僕が怒って何もしないだけで、こんなにガタガタになるようじゃ、この旅の目的も遂げられそうもないですしねぇ。


  僕がどれだけ怒ろうが、きっとかわらないだろう彼ら。
 けど、そんな彼らと一緒に旅をする道を選んだのは、そしてここまで一緒に来たのは、僕。
 いいじゃないですか、仕方ないじゃないですか。
 僕が選んでしまった道なんですから。


 けど…最初が、甘やかしすぎ、でしたかねぇ……。












 友人に画像のお礼に書いたもの。
 リクは「拗ねる八戒」だったんですが…拗ねて、ますか?(^^;

 2009年12月19日UP。
 「紅色の罪」より転載。
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