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くれないづきの見る夢は 紅い涙を流すこと 透明な血を流すこと 孤独にのまれず生きること
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―― 雨が降っていた ――



 窓際のベッドの上で三蔵が片膝を立て、もう片方の足を投げ出すようにして、ベッドヘッドに身体を預けて座っている。
 部屋の明かりは点けず、雨が降ってはいても明るい昼間の外の光りが窓から入り、その姿はシルエットのように浮かんで見えた。

 悟浄は悟空を連れて買い出しにでかけている。
 宿の部屋には、三蔵と僕の二人、だった。

 ―― 雨は苦手… ――

 それは僕も三蔵も一緒。
 思いだしたくない、けれど、忘れることは許されない…いや…思いださなければならない辛い過去を記憶の奥深くから浮き上がらせる。

 目を背けず、向かい合うこと。それが、僕に課せられた償いだとずっと思っていた。
 だから…いつも、無理をして笑っていた。
 けれど、それは違うのだと、三蔵は教えてくれた。
 無理をして笑っていることはないのだと…そう言って、自分も辛いだろう雨の日にかすかに笑って見せた。

 それからは、僕も無理に笑って見せることはやめた。
 そうすることで、なぜかホッとしたように見えた悟浄の顔が印象的だった。
 そして、三蔵と僕を静かに過ごさせてくれようと、雨の日は悟空を連れて出かけるのが、悟浄の習慣になった。

 いつから、だろう?
 雨の日は二人で過ごすのが当たり前になって…お互いに相手に干渉せずに過ごしていた、筈なのに…。
 気がつくと、僕はいつも、雨を感じている三蔵を見ていた。
 最初は…僕の感情と…彼の感情を感じていただけだった筈なのに…。

「三蔵、お茶、飲みます?」

 外しがたい視線を無理矢理外して、僕は声をかける。
 返事はないが、僕はお茶を淹れた。
 湯のみを渡すと、指が触れる。
 その冷たさに、どきり、とする。その手を握って温めたい、と思った。

「何だ?」

 いえ…なんでも……僕は言葉を濁して、自分のお茶を手に宿の部屋に備え付けの椅子に座った。
 湯呑みが運ばれる口元に目が吸い寄せられる。
 飲み下す喉元の動きにまだ何も飲まぬ自分の喉も動くのが感じられる。

 普段はまっすぐにすべてを射抜くような光で何もかもを見つめる紫の瞳が、憂いを含み、少し暗い色に染まっている。
 太陽を受けて黄金色に輝く髪が、雨の日の淡い光に…くすんで見える。
 張りを持って堂々と発せられる声が、呟くような囁くような声になる。

 それ以外の色を見たい、声を聞きたい、と最近の僕は…三蔵を見ると思ってしまう。
 悟浄と悟空に早く戻って来て欲しい、と思いつつ、ずっと戻って欲しくない、とも思う。

 僕は…何か…どこか…狂ってしまったのだろうか…。



 悲しい記憶の雨の中で……。







 「行先不明」のキリリク。
 リクエスト内容:『越えちゃいけない一線を、越えまいと一生懸命自分を抑えてもがく八戒』 ということで…。

 転載。

 2009年12月6日投稿。
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