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くれないづきの見る夢は 紅い涙を流すこと 透明な血を流すこと 孤独にのまれず生きること
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 悟空が、ぶっ倒れた。
 戦闘中、いきなり、だった。


 いや、実際はそうでもなかったんだろう。
 その日の朝から体調は思わしくねぇようだったな、今にして思えば…。
 何日も野宿が続いた。
 誰か、そのうち体調崩すぞ、なんて冗談で言ってたのは昨夜のことか…。
 今朝、ありえねぇことに、悟空の食欲がなかったんだよなぁ。


 倒れた悟空に八戒が駆け寄る。
 三蔵の再装填のガードに俺は走る。
 鎖鎌がまだ手元に戻らねぇ。
 三蔵の背後に太い鉄棒を振り上げて妖怪が迫っていた。
 錫杖でガードしようと伸ばしかけて、戻らねぇ鎌の動線が八戒と悟空を掠めることに気付いて、咄嗟に俺は、左腕を差し出した。

 身体の内側から、ぼきっ、と大きな音がして、俺の腕はありえねぇ方向に曲がった。


 痛みを感じたのは、全部戦闘が終わってから。
 悟空は高熱を出していた。


 近くの街について、悟空はインフルエンザだと診断される。
 人のいねぇとこを進んでんのに、悟空の奴、どこでそんな流行を貰ってきたんだか…。

 俺の腕は、複雑骨折だと言われ、しっかりとギプスで固められた。

 八戒が気孔で治してくれようとすんのを止める。
 三蔵や俺じゃ、悟空の面倒を見られねぇ。
 気孔を使って八戒が疲れて…悟空のインフルエンザを貰ったら困る。

 宿でツインを二つ取る。
 寝込んだ悟空と八戒、怪我した俺と三蔵、って部屋割りだ。

 八戒は悟空が食えそうな物を作って、さっさと自室に引き上げ、俺と三蔵も飯をすませると自室に引き上げた。
 八戒に言われ、今夜は酒も飲めなかったなぁ…。



 ギプスをラップでグルグル巻きにしてシャワーを浴びて出てくると、三蔵が面白くもなさそうにタバコを吹かしていた。
 俺を気にしたのかなんなのか、こいつも今日は酒を飲まなかった。
 そんで機嫌悪くされてもなぁ…。

「何してた」

 何って聞かれても…風呂場から出てきてんのに、風呂以外に何してると思ってんだ、こいつは…。

「シャワー。気持ち良かったぞ、久しぶりだし。お前も浴びてきたらどうよ、三蔵」
「お前が覗かなければな」

 今更だしな。何度も一緒に風呂ぐれぇ入ってる。
 それでも…俺はこいつが裸を見られたくねぇのはよくわかってる。
 俺のこの頬の傷と一緒だ。
 過去を…見せたくねぇのと、一緒。
 こいつの生きてきた証。身体の傷の数だけ、幼いこいつは命を屠って生きてきた…俺らは知っているけど、こいつにとっては隠しておきたい、いまだ血の乾くことのねぇ、心の傷。

「誰が覗くか、お前の…野郎の裸なんぞ…」

 少しおどけて言ってやる。 
 オマケに睨み付けてやると、目の前に湯呑みと小さな白い錠剤を二つ置かれた。

「飲め」

 湯呑みを取ると、薬を飲むにはほどよく冷めた、茶。

「この茶、お前が淹れたのか?」
「だったらどうした」

 意外だった、なんて言ったらこいつ、怒るだろうなぁ…。

「薬、飲んどけ。鎮痛剤だそうだ」

 ぶっきらぼうだけど、なんか少し優しく感じるのは気のせいか?
 なんか、調子狂うぜ…。

「何? もしかして三蔵サマは…俺の怪我が自分のせいだって思って…負い目感じてる?」
「誰がてめぇに負い目なんざ感じるか。下僕が主人を庇うのは当然のことだろう」

 って、ここで…下僕発言かよ…。

「鎮痛剤、飲まねぇのか?」
「いらねぇよ~、今、痛くねぇし…」

 苦労して片手でタバコを取りだして咥えると火が差し出された。

「まぁ、痛くねぇんなら、俺は構わんがな。やせ我慢をするのは、てめぇの好きな女の前だけにしとけよ」

 やせ我慢? お前らの前でこそしてぇんだけどな、俺…。 
 そんなことを考えてると、火を消したライターのケツで、ギプスのはまった俺の腕を…三蔵が面白くもなさそうに力一杯叩きやがった。

「いっ…………!!」

 思わず出そうになった悲鳴を飲み込む。

「何しやがんだっ! この生臭坊主っ!!」
「やっぱり、痛ぇんだろうが。薬、飲め」
「これは、今、お前がっ………わかったよ、飲みゃいいんだろ、飲みゃ…」

 また、殴られちゃかなわねぇ…。俺は言われるままにその小さな錠剤を冷めた茶で流し込んだ。
 飲み終わって湯呑みを置くと今度は熱い茶が注がれる。

「その怪我で…頭まで洗ったのか、てめぇは…。水が滴ってるぞ」

 注がれた茶に手を伸ばし、飲もうとしたところで、いきなり肩にかけていたタオルを取られ、乱暴に頭をわしゃわしゃと拭かれる。

「熱っ! 何しやがんだっ!」
「髪を拭いてやってるんだ、有難く思え」
「思えるかっ!」

 気色悪ぃ…。ホンっト、調子狂うぜ…。
 頭をぐらぐらと揺すられて、眩暈までしてきやがった。

「顔が赤い…熱でもあるのか?」

 俺の頭をある程度拭いて満足したらしい三蔵がいきなり、俺の額に手を当てた。

「あ~…お前の手、冷たくて気持ちいい~」
「手が冷たい奴は心が温かい、と言うからな」
「自分で言うかぁ~?」

 タバコの火を消し、茶を飲み干す。

「驚いたコトに、お前の淹れた茶、美味かったわ」
「……てめぇは一言余計だ。もう、寝ろ。マジで熱があるじゃねぇか」

 言われてみりゃ、眩暈は治まらねぇし、確かに少し身体が熱い気もする。
 三蔵に言われて横になんのもなんか癪に触っけど、こいつが心配してくれてんのもわかっし、今日だけは言う事きいてやるか…。
 立ち上がると少しふらつく。
 手を貸すつもりか、立ち上がった三蔵を俺は目線で止めた。
 そこまでされてたまるか。
 腕を下にしないように少し苦労して横になると、傍に来ていた三蔵に布団をかけられる。

「やっぱ、俺に負い目感じてんな、お前…」
「うるせぇ、下僕。黙って寝ろ」
「へいへい、っと」

 言われるままに目を閉じると、もう一度熱を確かめるかのように三蔵の手が額に置かれ、その後、左手の指先を握られる。

「冷てぇな…」
「あ~俺、心があったかいから」
「言ってろ」

 ふざけた会話をもう少し続けてぇと思ったけど、横になった途端に襲ってきた睡魔には勝てなかった。
 三蔵が何か呟いたようだったが、俺にはもう、聞こえず、眠りの中に落ちていた。







「紅色の罪」より転載。

 友人へのお礼、でした。

 2009年11月13日UP。
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