くれないづきの見る夢は 紅い涙を流すこと 透明な血を流すこと 孤独にのまれず生きること
Category:最遊記
悟浄が怪我をした。
戦闘中だった。
悟空が急に倒れ、八戒が奴の元に走った。
俺の銃の弾がなくなり、再装填している最中のことだった。
背後で聞き慣れない音がして、悟浄のうめくような声がした。
振り向きざまに装填の終わった銃で至近距離にいた妖怪を倒す。
悟浄の腕は…ありえない方向に曲がり、紅い色と白い色が目に飛び込んできた。
妖怪を倒し終わると俺たちはジープに乗って近くの街に向かった。
悟浄は痛みを堪え、真っ青な顔をしながらも、後部座席で、俺の隣でタバコを吹かしている。
怪我は八戒に治させることもできるが、悟空にその治療は効かないようで…とりあえず、医者に見せるのが先だとばかり、自力で動ける悟浄の治療は後回しにされていた。
俺が譲った助手席で、悟空は正体を失っている。
悟空は、インフルエンザだという。
そこで悟浄の傷を治そうとする八戒を悟浄が止めていた。
俺や悟浄では悟空の看病は出来ない。八戒を今、疲れさせるのは得策ではないだろう。
悟浄は、悟空の診察がすんだ後、治療を受けた。
宿はツインを二部屋。一つは悟空と八戒、もう一つは俺と悟浄が使うことになった。
あまりない部屋割りに戸惑ったのは、多分、俺だけではないだろう。
食事も早々に済ませると俺たちはそれぞれの部屋に引っ込んだ。
悟浄は部屋に入るなり、宿の食堂でもらってきたらしいラップで嵌められたギプスをグルグル巻きにすると風呂に入った。
あれだけの怪我をしていて、何を考えているんだか、あいつは…。
医者からの注意も聞こうともせず、病院を後にした悟浄。その背中を見ながら二人分の会計をすませ、俺も出ようとすると医者に呼び止められた。
『あの、紅い髪の方の腕、なんですが…本当は手術をして入院をしていただく必要があります。ご本人はギプスだけでいいとおっしゃって、暴れかねない勢いだったので、骨折の処置と鎮痛剤の注射しかしませんでしたが。あのまま放置ですと腱が切れてますので、手が動かなくなる危険があります。それと、怪我のせいで今夜辺り、高熱を出される怖れも…。お連れ様から言い含めていただいて入院を…』
平気な顔をして、どこまで強がる気なんだ、あの男…。
まぁ、入院を幸いに、看護師でも口説くだろうことは目に見えていたし、医者に預けてしまったんでは、八戒が後ほど治療することも難しくなるだろうから、俺は何も言わなかった。
「何してた」
「シャワー。気持ち良かったぞ、久しぶりだし。お前も浴びてきたらどうよ、三蔵」
不自由をして入ってきたのだろう、かなりの時間が経っていた。
飲ませようと淹れた茶がすっかりと冷めてしまっている。
熱が上がって倒れているんじゃねぇか、と心配していた俺に、悟浄はどこまでも能天気な答えを返して寄越した。
「お前が覗かなければな」
「誰が覗くか、お前の…野郎の裸なんぞ…」
不機嫌に答える俺に、おどけたような悟浄の返事。
だが、こいつは俺が裸体を見られることを嫌がる本当の理由を知っている。
だからこそ、癪に障る。
「飲め」
冷めた茶と薬を目の前に置く。そろそろ医者の所で打たれた鎮痛剤も切れる頃だろう。
意外な顔をして悟浄は俺を見た。
「この茶、お前が淹れたのか?」
そんなに俺が茶を淹れるのが不思議か。俺だって、茶ぐれぇ、淹れる。お師匠様に茶を淹れるのは俺の仕事の一つだった。
「だったらどうした。薬、飲んどけ。鎮痛剤だそうだ」
「何? もしかして三蔵サマは…俺の怪我が自分のせいだって思って…負い目感じてる?」
不思議そうな顔をして悟浄が俺を見て、それからにんまりと笑う。
一々癇に障る奴だ。
「誰がてめぇに負い目なんざ感じるか。下僕が主人を庇うのは当然のことだろう」
誰が、負い目になぞ感じてやるか。勝手に庇って怪我しただけじゃねぇか。
「鎮痛剤、飲まねぇのか?」
「いらねぇよ~、今、痛くねぇし…」
どこまで強がる気なんだこいつは。
俺の心配通り、少し顔が赤く、目が潤んでいる。熱が出ている証拠だろう。
片手で苦労してタバコを取りだし咥える悟浄に火を貸してやった。
あの手じゃ、ライターを取りだして火をつけるだけで5分はかかりそうだ。
「まぁ、痛くねぇんなら、俺は構わんがな。やせ我慢をするのは、てめぇの好きな女の前だけにしとけよ」
どうやったら、悟浄に薬を飲ませることが出来るか…。こいつの一人我慢大会に付き合う気はねぇ。
痛いということをこいつの口から言わせるか。
「いっ…………!! 何しやがんだっ! この生臭坊主っ!!」
俺は軽くギプスの上を叩いただけだった。
こいつには、力いっぱい叩いたように思えたかもしれんが、それは、痛みがひどい、ということだろう。
「やっぱり、痛ぇんだろうが。薬、飲め」
「これは、今、お前がっ………わかったよ、飲みゃいいんだろ、飲みゃ…」
諦めたように飲む悟浄に少し安堵して、今度は熱い茶を注いでやる。
悟浄の髪からぽたぽたと肩に滴る水滴が、気になった。
「その怪我で…頭まで洗ったのか、てめぇは…。水が滴ってるぞ」
茶に手を伸ばす悟浄の動きは気にせず、その肩のタオルを取ると、頭を拭いてやる。
怪我が元で熱を出してるのに、その上風邪まで引かれては、俺だって面倒を見切れん。
「熱っ! 何しやがんだっ!」
丁度、茶を飲もうとしているところだったらしく、それが顔にでもかかったんだろうが、俺は知らん。
「髪を拭いてやってるんだ、有難く思え」
「思えるかっ!」
怒りながら、それでも悟浄はされるがままになっている。
「顔が赤い…熱でもあるのか?」
頭を拭き終わると、今度はこいつに熱があることを自覚させる。
そうでもしねぇと、この男は平気な顔を続けて、夜遊びにさえ、出かけかねねぇ。
「あ~…お前の手、冷たくて気持ちいい~」
大人しく、額に手を当てられたまま、悟浄はじっとしている。
自覚はなくても、やはり、身体は辛いんだろう。
「手が冷たい奴は心が温かい、と言うからな」
どうだ? 下僕を面倒見ている俺は、心が温かろう?
自分で言って、笑える。
「自分で言うかぁ~?」
悟浄もくすくすと笑い、タバコを灰皿に投げ込んで、茶を飲み干した。
「驚いたコトに、お前の淹れた茶、美味かったわ」
「……てめぇは一言余計だ。もう、寝ろ。マジで熱があるじゃねぇか」
まったく、いつでも軽口は忘れねぇ野郎だ。
ふらつきつつ立ち上がる悟浄。そこで転んで怪我を増やされても困ると思い俺も立ち上がるが、目線で止められる。
まぁ、それぐれぇの強がりは許してやるか。
それでも俺は悟浄がベッドに入ったのを確かめると、その身体に布団をかけてやった。
「やっぱ、俺に負い目感じてんな、お前…」
「うるせぇ、下僕。黙って寝ろ」
「へいへい、っと」
やはり、大人しいこいつは…らしくねぇ。
もう一度、熱を確かめるように額に手を置き、放って置けば動かなくなるかもしれない、と言われた左手を握ってみる。
「冷てぇな…」
「あ~俺、心があったかいから」
「言ってろ」
眠りに落ちる直前まで、軽口は忘れねぇ奴だ。
八戒の気孔で治るとはわかっちゃいるが、やはり、もしも、という思いは拭いきれず、しばらく、その冷え切った手を握っていると、悟浄はそのまま眠りに落ちた。
「………ありがとう…」
起きている時には言えぬ言葉をそっと呟いてみる。
結局そのまま、悟空が完治するまでの一週間、悟浄も寝付いた。
悟空の看病から解放された八戒に傷を治してもらった途端、「いやぁ~、三蔵サマの手厚い看護に、悟浄、感激しちゃったぜ~」とおどけたように言ったこのバカに、ハリセンを見舞ったのは、当然と言えば当然のことだった。
「紅色の罪」より転載。
2009年11月13日UP。
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酒、煙草が好き。
猫好き、爬虫類好き。でも、虫は全部駄目。
夜が好き。月が好き。雨の日が好き。
こんな奴ですが、よろしくお願いします。
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