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くれないづきの見る夢は 紅い涙を流すこと 透明な血を流すこと 孤独にのまれず生きること
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 ざあざあという音に、意識が徐々に覚醒する。
 目を閉じたまま隣にあるはずの温もりを探し、その手が空を彷徨うのを不審に思い、悟浄はようやっと眼を開けた。
「…八戒…?」
 眠りについてそんなに時間は経っていないのだろう。外はまだ、暗い。
 ベッドの上の明かりを灯し室内を見回すが、自分の探す相手は見つからず、脱ぎ散らかした服もそのままに、八戒のシャツだけが消えていた。
 妙な胸騒ぎを感じて、悟浄はベッドから出る。投げっぱなしのジーンズだけを身に付けて、彼は狭い家の中、八戒の姿を探して歩いた。
 八戒のベッドルーム、風呂場、トイレ、リビング…。
「お~い、八戒~」
 キッチンに灯りが点いているのを見つけ、悟浄は間延びしたような声で八戒を呼びながらそこに足を踏み入れる。
「!! 何やってるっ!」
 小さいけれど良く切れるペティナイフを持ち、八戒はまるでそれに魅入られたかのように笑みさえ浮かべて刃先を自分の咽喉元に突きつけようとしているところだった。
 自分に走り寄る悟浄など見えないように、八戒の手は確実にみずからの命を奪う行為を遂行しようとしている。
 叩き落とすほどの間もなく、悟浄はナイフの刃を握り締めて八戒の頬を叩く。
 パンッ!
 痛みよりも思った以上に響いた音に八戒は驚いたような顔をして、はじめてそこに悟浄がいることに気付いたように焦点が徐々にあってゆく。
 ナイフを握った手に、生暖かいぬるりとした感触。紅く…紅く染められるその手に…八戒の体が震え出す。
 お互いが握ったままのナイフを八戒の咽喉元から離すように下ろさせ、悲鳴の形に開けられた唇を、悟浄は自分のそれで塞いだ。
 八戒の悲鳴を飲み込むようにキスを繰り返し、ナイフを握っていない方の手で背中を宥めるように軽く叩いてやる。
 暫くすると強張っていた身体から力が抜け、八戒は握っていたナイフを手放し、その場に座りこんでしまった。
 項垂れたまま座りこむ八戒を横目に悟浄はナイフをシンクに投げ出すと、手近にあったフキンで怪我をした掌をきつく縛って応急処置をする。
 それからキッチンペーパーを取って八戒のそばに戻ると自分の血で汚れた彼の手を拭いてやり、無理矢理に立ち上がらせて椅子に座らせた。
 雨音がざあざあと耳につく。暫く無言で何も置かれていないテーブルを見つめていた八戒が急に思い出したように顔を上げた。
「…悟浄…すみません…大丈夫ですか?」
「そりゃ、こっちの台詞だっつーの。お前が雨の日になると鬱になることは知ってたけどさ、なんでいきなりあんなことを…」
 まっすぐに見つめる悟浄の瞳を見返して、それから、つい、と目を逸らし、八戒は呟く。
「わかりません…」
「わからねぇ、って…お前、自分の命を捨てようとして、その理由もわからねぇ、っていうのかよっ!」
 自分に向けられる刃なら撥ね退けられるし、その思いがわかれば甘んじて受け入れることもできる。事実、もう記憶の彼方になってしまった過去、自らその刃を受け入れようとしたことも、悟浄にはあった。
 けれど、その刃を自分に向ける相手には、どうしてやればいいのか皆目検討もつかない。ただ、無性に悲しく感じるだけだ。その悲しみが、荒い語気となって吐き出される。
「…幸せだから、なのかもしれません…」
「………は?」
 呟いた八戒に、悟浄は思わず間の抜けた声で聞き返す。そして、それが八戒の死にたくなった理由だと気付き、愕然とした。
「な…んで…?」
 八戒を拾ったあの日から、魅せられていたのは間違いなく自分だ。だから、八戒が過去に飲まれないように、苦しまなくて良いように、いつもそれだけを考えて、包みこんできた。なのに、そんな悟浄の心さえ、八戒は苦しいと言うのだ。
 ざあざあと雨の音だけが二人の空間を埋める。
「…悟浄…。僕は、ここに居てもいいのでしょうか…。ここで…こうして…生きていてもいいのでしょうか…」
 どこか縋りつくような目をして、八戒は悟浄を見上げた。
 ここが地獄じゃなくて残念だったな……そう言った悟浄の言葉に驚いたような顔をして見せた八戒……それで良かったのだと、薄く笑って見せたその顔が…悟浄の脳裏をよぎる。
「…お前さ…死にてぇの?」
 縋られることを拒むかのように、悟浄は視線を逸らした。手を差し伸べるのが怖かった。
「わかりません…それすら…」
 自分が何故生きているのか…どうしてあの時に死んでしまわなかったのか…その答えを与えてくれるのは目の前のこの紅い色を持つ男なのだとでも言うように、八戒は悟浄を見る。
 苦しげに見つめるその視線が痛くて、悟浄は八戒を見る。
「…生きてるの、苦しい…?」
「苦しくは…ないんです…。だから…余計に辛いのかもしれませんが…」
 ふい、と今度は八戒が視線を逸らせた。
「僕は生きて…もっと苦しむのだと思っていました。なのに…僕に待っていた世界は…こんなにも……」
 ふっと落とした八戒の視線は自分の手を見つめている。血塗られた、その手。拭いきれなかった悟浄の血が、掌にまだその赤みを残している。
「ここが、地獄の方が良かった?」
 悟浄が八戒の肩に手を置いて自分を見るように促し、その瞳を覗き込むようにして問う。
 揺れる瞳の色が、その答えを如実に物語っていた。
 地獄のような責め苦が待っていてくれた方が、八戒にはきっと救いだったのだろう。それを…裏切ったのは自分だ、と悟浄は思う。
「ここは…地獄だから…」
 儚く揺れる瞳を見るのが辛くて、悟浄は八戒を抱きしめる。
「お前を…じわじわと責める…生ぬるい…幸せと言う名の…地獄…だろ?」
「…悟浄…?」
 戸惑うような八戒の声に悟浄はその抱きしめる腕の力を強めた。
「だからさ…この世の地獄…俺と一緒に生きてくれよ…」
「悟浄…」
 八戒はおずおずと悟浄の背中に手を回す。
「はい…悟浄…」
 思いのほかしっかりと抱き返されたことに驚いた悟浄は、抱きしめた手を自分の顔に持ってきて鼻の頭を掻いた。
「あの世の地獄に行く時は…一緒に行くから、さ…」
「…それは…」
 悟浄の言葉に驚いたように身体を離す八戒をさらにしっかりと抱く。
「そうさせてくれ…これは…俺の我侭かもしんねぇし…口約束だけだ、って言われたらそうかもしんねぇけど…この世でお前を付き合わせるんだ。それくれぇのこと、させてくれよ…な?」
「…はい…」
 外は雨が降っている。悟浄は八戒の肩に腕を回して、引きずるように歩きだした。
「まぁだ暗いし、もう一回寝ようぜ」
 ベッドまで向かうその廊下は…二人が歩く地獄の道。
 それでも…幸せな、道。
 地獄まで…二人一緒に……。







 説明のしようがない…orz
 かなり長時間放っておいたので、どんな心境で書いたんでしょうか?(聞くな)
 思いついたように書いては置いておいて、と繰り返していた過程で、シュミレーションゲームでのなりきり悟浄に嵌ってしまった関係で悟浄の一人称になりそうになったり…(^^;

 うんと…これの後…「修羅」という話に繋がります(^^;


 2008年3月30日UP。
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