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くれないづきの見る夢は 紅い涙を流すこと 透明な血を流すこと 孤独にのまれず生きること
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 倒れた大きな魔物の横でいきなり木登りを始めた捲簾に、天蓬は、心から呆れた、とでも言わんばかりの溜め息をついた。
 やがて降りてきた捲簾の手に握られていた良い枝ぶりの桜を見て、もう一度溜め息をつく。
「なんですか、それは。桜なんて戻ればいくらでもあるじゃないですか…」
「そ~なんだけどなぁ。ほら、悟空が金蝉のとこに来て、一年だろ? プレゼントでも、と思ってよ。誕生日、ってやつ?」
「あ~…時間の流れが緩慢な天界ではそんなこと、誰も覚えていないと思いますけどねぇ…」
「木の股からでも生まれねぇ限り、俺たちにもあるはずなんだけどな、誕生日、ってやつ。もう、忘れちまったよなぁ…。そんでも、あいつには忘れて欲しくねぇからな」
「木の股から生まれたって、生まれた以上、誕生日だとは思うんですけどね…。けど、なんでわざわざ桜、なんです?」
「なんでだろうなぁ…。天界のと違って散るから、かもな…。さて、帰ろうぜ。この桜が散る前に」

「天ちゃん、ケン兄ちゃん、おかえり~!」
 無邪気に駆けてくる悟空に、二人の薄汚れた軍人は笑顔を見せる。
「おう、ただいま。ほい、土産だ」
 悟空の目線までしゃがみ込むと、捲簾は持っていた桜の枝を差し出した。
「え?」
 一瞬瞳を輝かせた悟空が、すぐに不思議そうな顔になる。
「桜? 外で折ってきたのか?」
「いや、これはな、下界の桜なんだぜ。この天界の桜とは違うんだ」
 どうやら腰を落ち着けて話し始める気配の捲簾に、天蓬は、先に報告に行きますね、と声をかける。
「天ちゃん、またあとでな~!」
 元気に手を振る悟空に笑顔を見せて、天蓬はその場を離れた。
「あっ!」
 枝を持ったまま手を振ったせいか、はらはらと散り始めた桜を見て、悟空が声を上げた。
「下界の桜は、散る、んだ」
「なんか、寂しいな、それ…」
 しょんぼりとその花弁を見る悟空の頭を軽くぽんぽんと叩く。
「あのな、悟空。これが、生きるってこと、なんだ。憶えとけ」
「え?」
 きょとん、とした顔を向けた悟空が、少し考えたような表情で、それからまた寂しい顔になった。
「ちゃんと地面に生えてる木なら、こうやって花が散った後、緑の葉を茂らせる。そんで秋になって葉を落とし、寒い冬を越えてまた、花を咲かせる。こうやって生は刻まれる」
「でも、この枝は…」
「ああ、このまま枯れるだろうな…」
 うるうると大きな瞳に泪を溜めて自分の手の中の桜をまっすぐに見つめる。
「なんで折って来ちゃったんだよっ!」
「優しいな、悟空は。桜のために泣くのか?」
 わしわしと頭を撫でながらいい、そのままその手を止めるとその金色の瞳を覗き込んだ。
「もう一つ。生きるってことは、誰かの記憶に残ること、だ。今、この桜はお前の手の中にある。そんで、こうやって散る事を悲しんで貰ってる。お前はこの桜が散って行く瞬間を覚えているだろう? だから、この桜は、生きているんだ。わかる、か?」
 悟空がぶんぶんと首を横に振るとその瞳に溜まった泪が飛び散った。
「だったらっ! 外の桜だってっ!」
 言葉を詰まらせながらもそう言って、泪の溜まった瞳で窓の外を見た。
 うららかな日差しの中で、外の桜が世界を薄紅に染めて咲いていた。
「そう、だな。けどよ。あれはいつも咲いてる。それはもう記憶じゃなくて日常で。お前の中にある桜の記憶は、金蝉や天蓬、俺との記憶であって、厳密な意味での桜の記憶じゃないんじゃないか? 俺は、日常の景色じゃない、桜そのものを記憶に刻んで欲しかった。だから、この枝を手折って来た。お前が天界に来て1年になるこの日に。記憶を贈りたかったんだよ…。まだ、難しいかもしれないけど、な」




 手には今さっき手折ったばかりの桜の枝。満開のそれは揺らすと今にも散りそうで、それでもまだ必死に枝にしがみついているように見えた。
 悟空が三蔵のとこに来て3年目だってことで、誕生日、らしい。悟空本人にも三蔵にも、そして勿論、八戒や悟浄にも彼の本当の誕生日がわからないので、その日を誕生日だということにしたらしい。
 八戒は一足先に慶雲院に、パーティの準備です、と出かけてしまい、昼過ぎに起き出した悟浄は、八戒のメモを見て、遅ればせながらそこへ向おうとしていた。
 何も持たずに行っても良かったはずなのに、満開に咲いてる桜を見て、悟浄は何故かそれを一枝持って行きたい、と思ったのだ。
 どんな顔して渡すんだよ、と自分に突っ込みつつも、悟浄にはそれ以上のプレゼントは思いつくことができなかった。
 あいつらと出逢ってから碌なことねぇよな…。
 そう一人ごちて悟浄は嗤う。
 それでも、そんな日常が、暗い記憶を塗り変えて行く予感がしていた。

 桜の枝を渡すと、悟空は少し寂しげな表情をした。
 なんだよ、嬉しくねぇのかよ…。
 悟浄は言いかけた言葉を飲み込む。
「あのさ…俺…」
 軽く揺すって散り始めた花弁を見ながら悟空が言った。
「俺、この桜を覚えてる。これが生きる、ってこと、なんだよな?」
 まっすぐに見つめる金色の瞳に。
 悟浄は黙って、頭を撫でた。



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