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くれないづきの見る夢は 紅い涙を流すこと 透明な血を流すこと 孤独にのまれず生きること
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 そろそろ起きる頃だな、と朝飯を用意する。
 悟浄の家に転がりこんで、気がつけばすっかりあいつの身の回りの世話をするのが日課になっていた。
 それを楽しいと感じている自分がいる。

 すっかり準備が整ったのに起きてこない悟浄に痺れを切らし、俺は部屋に行った。

「おい、入るぞ~」

 声をかけ、ドアを開ける。
 ベッドは空、だった。
 ベッドの下には昨夜悟浄が着て寝たはずのシャツが落ちている。
 今日着るつもりだったらしい服は椅子の上に投げっぱなし。
 なのに、奴は、いない。
 もぬけの殻のベッド…いや、何かが動いている?
 掛け布団を捲って見るとそこには…。
 猫が、いた。
 赤茶の猫が、布団を取られたことに少し不機嫌そうな声を上げ、その場で大きく伸びをする。
 それから優雅に長い尻尾を一振りするとベッドから降りて俺を見上げた。
 あいつ、猫なんか拾って来たのか…。
 悟浄の行方よりも猫に視線が行ってしまう。あいつも餓鬼じゃねぇんだ。どうにでもするだろ、と思った。
 猫ならトイレも必要だし、爪とぎもいるか…。飯は何食わせりゃいいんだ?
 そんな事を考えていると、猫が足元に擦り寄ってくる。
 にゃ~、と一声鳴いて、ドアの前に座る。
 開けろ、ってことか?
 開けてやると部屋を出て行くから、それについて行った。
 すると、便所の前のドアでまた座って待っている。
 何をする気だ? そう思いながらもドアを開けてやると、そこで器用に用を足したのを見て笑ってしまった。
 それからまた歩いて行く。
 今までこの猫を家の中で見かけたことはなかったが、勝手を知っているようだ。
 今度向ったのはキッチンだった。
 飯、何食わせるんだよ…。この家には猫が食いそうなもんなんかねぇぞ?
 そう思っていたが、猫はキッチンに入るとテーブルの上に登った。

「おいおい、テーブルの上になんか…」

 慌てて抱き上げようとすると俺の手をするり、と抜けてまっすぐに俺を見た。
 ルビー色の瞳。
 それが悪戯っぽく光ると、悟浄のカップのブラック珈琲をぴちゃぴちゃと舐めた。

「…まさか…?」

 悟浄のわけ、ない、よな?
 全部を言わずに飲み込むが、猫はため息でもつくように一声鳴いた。

「悟浄?」
「にゃぁ」
「マジ?」
「にゃ」

 悟浄の好みに味付けしたスクランブルエッグに口をつけ、満足そうに鳴いたその猫に、俺は確信をした。
 動物には辛過ぎるはず、なのだ。
 しかし、なんで…。
 まさか、な…。
 昨夜、天界から持って来ていた酒を引っ張りだして飲ませたが…。それが原因か?
 もう、何がなんだがわからねぇ。
 身体が小さくなったからか、少量を食べた猫…悟浄は満足そうに、椅子に降りると毛づくろいを始めた。
 その様子を見て、俺は考える事をやめる。
 本人が動揺している気配も見せてないのに俺が慌てても仕方がない。
 いつまでこの姿なのかわからないが、特に猫用の何がしかを用意する必要もないようだ。
 このまま様子を見よう。


 ざっと片付けを済ませ、リビングのソファに移動すると、猫悟浄もついて来た。
 そして、それが当然とでも言うように俺の膝の上に丸くなる。
 撫でてやると嬉しそうに咽喉を鳴らして眼を閉じる。
 素直で可愛い、と思う。
 人間の姿の悟浄も、撫でてやると気持ち良さそうにするが、こんなに素直には喜ばないよな。
 そのまま静かに寝息を立てるその小さな身体が愛おしいと思う。
 程よい重さと温もり、その規則正しい小さな寝息に俺もゆっくりと意識が遠のいて行った。
 会話できねぇのは少し寂しいけど、この姿の悟浄なら天界に連れて帰れるんじゃないか、なんて、埒もないことを考えながら…。


 寒い、と思った。
 ぶるり、と肩が震えて目が覚める。
 膝の上にいたはずの悟浄が、いなかった。
 
「悟浄…?」

 きょろきょろと首を動かす。
 煙草の匂いが、した。
 ソファの背に凭れるように床に座って煙草を吸う悟浄が、いた。

「戻った、のか?」
「どう見える?」

 にやり、といつもの笑いを見せる悟浄。

「なんだったんだろうな、あれ」

 俺に聞かれても困るんだが。

「でもさ、猫も悪くなかったぜ? あんたの手、気持ち良かったし」

 ふい、と視線を逸らせてそう言う悟浄の頭を撫でてやる。
 どこか擽ったそうにする悟浄。猫のこいつも良かったけど、俺はこの反応が好きで、こいつを撫でるんだと、ふと自覚した。

「でもさ、煙草吸えねぇのはきっついわ」

 立ち上がって俺の手から逃げた悟浄に。

「お前が人間でも、撫でてやるから」

 そう言いながら、また天界の酒が手に入ったらまた飲ませたいな、とどこかで思っていた。



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