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くれないづきの見る夢は 紅い涙を流すこと 透明な血を流すこと 孤独にのまれず生きること
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 目的達成して。
 三蔵とは違い、どっかその辺で適当に住みついても良かったんだけど。
「帰るまでが遠足ですからね」
 って八戒の言葉に、なんとなく元の街まで帰ってきた。

 んなもん貰えるとも思ってなかったが、成功報酬としてある程度のものを貰った俺たちは、旅に出る前に住んでた家に戻った。
そこは薄汚れていたし、窓が割られてたり、壁に落書きされてたり、ドアが破られてたりしたけど住めないわけじゃなかった。
 だから、八戒と二人家を修繕して住めるようにした。

 そして…
 あいつらがいて愛し合えなかった時間を取り戻すかのように俺たちは抱きあった。
 それこそ、夜も朝も昼も。すべてを忘れて、すべてを熱に溶かして一つになってしまうくらいに。お互いがお互いをすべてだと思ってしまえるまで。

 数えるのも放棄した、何度目かの情事の後。熟れきった空気の中。
「これは…恋とか愛とか…そんな綺麗なものじゃないんですよね…」
 ぽつり、と八戒が言った。
 なぜか、八戒が消えてしまいそうで…俺はその腕を掴む。指に力は入らなかった。するり、と落ちる俺の手を取って
「同情とか、馴れ合いとか…依存とか…そんな関係なんでしょうね、きっと」
 優しく優しく俺の指に唇を這わせながら八戒は寂しそうに笑った。
「俺は…」
 散々啼かされた涸れた咽喉は声を出すことを拒み、それでも何かを言おうとする俺をもう一度貪る熱に、俺はその快楽に流されてしまう。
 落ちる意識の中
「お前を愛してる」
 その声は届いただろうか。


 目覚めると、家の中がしん、と静まり返っていた。
 動くのも面倒でそのまま暫くじっとしていた。
 いつもならどうしてだか俺が起きたのに気付き部屋に戻って来る八戒がいつまでたってもやって来ない。
 耳を澄ますが物音一つしない。
 あいつも寝てんのか?
 いや、戻ってから使えるようにした寝室はここだけ。他に寝る場所なんかありゃしない。
 のそり、と起き出す。
 あいつが居そうな場所は……風呂かキッチンか…。
 風呂には、いねぇ。
 キッチンに……。
 テーブルの上にメモが一枚。
『貴方のせいじゃない。僕のわがままです。すみません』
 その紙を握り締める。
 旅に出る前、戻れるかどうかわからないから、と私物のほとんどを始末して出た。そして戻った時には大して荷物はなかった。
 だから。
 家中探してもあいつがいた痕跡すら見つけられなかった。
 手の中のメモと、鈍い腰の痛み。そして、寝室の倦みきった空気以外は。


 探そうと、街に出た。
 あいつが行くところなんか、思いつかなかった。
 思いつくのは、三蔵のとこぐれぇ。けど、そこには行っていないだろう。
 当ても無く、街を歩く。
「あら、悟浄じゃない、久しぶり」
 背後から声をかけられた。
 振り返る。誰だ?
「わかんない?」
 面白そうに笑うその顔に。思い出した。
 酒場で賭けをしてるといつも俺の隣にいた女の一人。こいつがいると、ツキがあったっけ。
 でも。
 明るい栗色でウェーブだった髪は黒くストレートになっていて、伸ばされ真っ赤に染められてた爪は綺麗に切りそろえられてマニキュアは施されていなかった。
「おかしい? でも、いつまでもああやってるわけにもいかないしね」
 そうやって清々しく笑う女に。
 俺は、八戒を探すことはやめよう、と思った。

 気付けばもう、30が近い歳。
 あいつが言った事がわかった気がした。
 同情から始まった馴れ合いで、お互い依存しあってただけ。
 成長してないのは俺だけ、か。

 振ってきた雨を避けて、昔馴染みの店に入る。
 マスターが、代わっていた。
 以前のマスターは…異変の影響で暴走した妖怪に殺されたのだと聞かされた。
 なぜか居たたまれなくて、すぐに出た。
 塗れたまま歩く。
 八戒は…雨が嫌いだった。怖がってた。
 だから…同情だったんだろう。抱かれた。
 今は、どうなんだろう?
 あいつが、この雨の中で怖がってねぇといいな、と空を仰いだ。



 時間は過ぎる。
 結局俺はオトナになりきれて、ねぇ。
 ただの、ガキだ。いつまで経っても。
 誰とも交わらず…元々、誰とも交わった事なんかなかったんじゃねぇか、と思う、日々。
 あの旅の時間でさえ、あいつと抱きあった時間でさえ…俺は一人だったんじゃないか?

 久しぶりに八戒を見た。
 声をかけようとして…その腕に幼子を抱いているのを見て、かけられなかった。
 横には小柄な女が、いた。
 ああ、結婚したのか。
 遠目に幸せそうな顔を見て。
 普通に「オメデト」って言ったっていいのに。
 出て行ったら困らせそうで。
 いや、違う。
 俺が、困る、のだ。平静でいられる自信が、ない。いまだに。
 だから、そのまま、回れ右をした。


 また、雨。
 濡れて歩く。
 あいつの思い出を流して?
 あいつはもう、雨も平気なんだろう。
 幸せ、なんだろう。
 今は…俺が雨を怖がっている。
 孤独に、濡れる。



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